変身
「おい…それ、大丈夫なのか」
完全に折れてしまった腕を庇いながら、美咲が立ち上がる。苦痛に顔を歪めているが、意識が混濁したりはしていないようだ。
「さっき血を飲んだばかりだから、一分もすれば元に戻るわ」
「……」
何か言葉を掛けてやりたかったが、何の役にも立つことが出来なかった己が不甲斐なかった。
(結局、俺が出来たのは見ていることだけだった)
爪痕が残るほど強く、拳を握りしめる。蓮は、これ以上美咲が苦しむ所を見たくない。ならば、やることはもう一つしかないだろう。
「吸血鬼との戦い方を教えてくれないか」
美咲には、蓮がこれほど頼もしくみえた瞬間は他にはなかった。
「普通ではいられなくなるわよ」
言葉とは裏腹に、美咲は微笑む。
「今更すぎるな」
二人は、ついに声を上げて笑いあった。
翌日。学校が終わってからすぐ、二人は美咲の家に向かった。
「あなたは元々高い身体能力を持ってる。問題は、吸血鬼の『変身』だけよ。それには、体を自在に霧に変える能力も含まれてる」
「あれさえなけりゃイーブンに戦える自信はあるんだけどな」
「受け入れるしかないわね。『変身』は吸血鬼の最大の特徴にして、最高の能力だもの」
蓮は自分なりに考えてみたが、打開策は全く思いつかなかった。
「でも、攻撃をするときは体を霧散することはできない。だから対処法は、後の先をとることしかない」
「まぁ、言ってることが正しいのはわかるけどな…『変身』を使った攻撃なんて想像もつかねぇよ」
「吸血鬼はそこまで万能じゃない。体のごく一部を変質させるくらいしか出来ないのよ。特に、高橋は『変身』を得意としていない。使うのは霧散のときぐらいよ」
「話がうますぎねぇか?」
蓮は思わず口をはさむ。それではお世辞にも強い種族とは言えないのではないか。
「高橋一族は『変身』の代わりに、『膂力』に特化したのよ。あいつがいとも簡単に私の腕を破壊したように、その気の攻撃を一撃でも貰えばミンチ確定ね」
「なんだそりゃ…じゃあ無傷で勝てってのか」
「まさにその通り。肉体に頼った戦術という点では、すこぶる相性がいいわね。まず、あなたには私の攻撃を全て躱せるようになってもらうわよ」




