威厳
「東郷さん、不肖の兄ですがどうかよろしくお願いします」
「あ…はい、こちらこそ?」
深々とお辞儀をする比奈に手土産の茶菓子を渡され、つられて美咲もお辞儀をする。完全に空気に流されている図だった。
「はぁ…何故こうなった」
大きく息をつき、肩をおとす蓮。
「あなたとできてるなんて思われるのは不本意だけど、これで一緒に動いてても不審に思われなくなっただけ良しとするわ」
「ポジティブだな。でも、それは俺にとって何のメリットにもならないんだよ」
「私と一緒がご不満?言っておくけど、あの写真はいつでもばらまける状態にあるんだからね」
「はいはい、主様の仰せの通りに」
その言葉に、美咲は少しばかりカチンと来た。今や見る影もないが、元々吸血鬼とは気高き存在。血を得た今、蓮を圧倒することは容易い。ここはひとつ、この男に自分の立場をはっきりと認識してもらわねば。
「今夜九時。駅前の広場に来なさい」
「あ、おい!」
そう言い放つや、美咲は返事も待たずに歩み去ってしまった。
果たして、約束の時間。蓮は少し早めに夜の駅前に着いていた。周りにはギラギラした若者がたむろしており、とても安全とは言い難い。このような場所に美咲が一人で来ることを、蓮は本気で心配していた。連にとって美咲は、か弱い女の子でしかないのだ。
だから、彼はその時気付くことが出来なかった。美咲の凶器と化した爪が背中に押し当てられていることに。
「……!」
「こんばんは」
この前とは違う理由で、蓮の心拍数は急激に上昇していた。冷や汗がこめかみを伝いおちる。
「ついて来て」
颯爽と、風を切って歩く美咲。だが、彼女の表情は感情を隠し切れていない。
(ビビってるビビってる♪)
「と、東郷。どこに向かってるんだ?」
「あなたには『眷属』としての役割、主人の護衛をやってもらうわ」
「…てことは、今日、誰かの血を吸うって事なのか」
「そうよ」
駅前から遠ざかり、二人は闇の底に飲まれて行った。




