表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短篇集

ある二人の通話記録

作者:

電話…ということで、全編会話のみです。

『……フッ、もしもし』

「もしもし、私やけど……って、何で笑うねん」

『いや、そろそろ来るかなって思ってたから』

「……イヤミやわぁ」

『そう言うなって。……元気?』

「んー、まぁぼちぼちってとこかな」

『出たよ、関西人』

「うっさいわ。そない言うんやったら、そっちかって『もうかりまっか』ぐらい言ってみたらどうやねん。そしたらちゃんと『ぼちぼちでんな』って答えたるさかい」

『ククッ……いや、遠慮しとく』

「何でやねん……まぁえぇけど。そっちはどない?」

『こっちもまぁ、ぼちぼちかな。おかげさまで、毎日忙しくさせてもらってますよ』

「おかげさまでってどういうこっちゃねんな。そんだけ自分をいじめ抜きたいんか。ドMか」

『ちげぇよ。……はぁ、相変わらず辛辣だな。久しぶりに話すっていうのに』

「お互い様やろ。そっちかて、スイッチ入ったら私のこと散々からかって遊ぶくせに。ドMのくせにS属性も持ってるって、ホンマ反則やわ」

『知ってるか? 真正のドMってのはな、実はS属性も持ち合わせてるもんなんだよ』

「へぇ、そうなん……って、何で知ってんねん。まさか本物か」

『さぁ、どうだろな』

「否定せぇよ!」

『ハッハッハ』

「もはや笑い方が怪しいわ。何やねんこの不審者……」

『なぁ』

「ん、何?」

『逢いたい』

「また、いきなりやな」

『仕方ないじゃん。今フッとそう思ったんだから』

「相変わらず気分屋やなぁ」

『だってもうさぁ……疲れたよ、俺』

「私かて、疲れたわ。知らんやろうけどな、編集の仕事っちゅうのはホンマ大変やねんで」

『教職だって大変だよ……お前はこっちの仕事を間近で見てたことあるんだから、わかんだろ』

「そりゃわかるつもりやけどさぁ」

『……まぁ、お互い大変ってことだよな』

「せやね。……私かて、逢えるもんなら逢いたいわ」

『けど……無理、だよな』

「距離を考えぇよ。それに……」

『互いの立場も、あるしな』

「……私はえぇんよ。まだ……せやけどさ。そっちの立場が、あるやん」

『俺のことなんて、気にする必要ないのに』

「そうはいかへんよ。あんなに綺麗な奥さんと、可愛らしい子供さんがいてはるやないの」

『……』

「前みたいにまた浮気疑われて、命の危機に陥られたら、そっちの方が困るわ」

『お前、俺の後追おうとしたもんな。あの時』

「……昔の話や」

『あれからまだ三か月しか経ってないだろうが』

「細かいことはえぇねん。……とにかく、私たちは逢うたらあかんの。どんだけ、互いに存在を欲したとしても」

『わかってるよ……わかりたくないけど、ちゃんとわかってる。俺たちは、これからも別々に生きていかなきゃいけないんだ。寄り添うことなんて、できない』

「……うん。でもな、一つだけ言うとくわ」

『何だ?』

「あなたがもしも先に死んでしまったら、その時は……私も、躊躇いなく後を追うわ。もちろん、あの時と同じように」

『……』

「止めても無駄よ。私、もう決意しているもの」

『……お前のその喋り方、好きだな』

「何やねん。またいきなり、話逸らしおって」

『ごめんごめん。また、ふと思っちゃってさ。いつもの関西弁もいいけど、さっきの話し方はなんか耳に心地よくて……聞くたびにいいな、って思う』

「左様か」

『うん。あと……俺も、お前が先に死んだら後追うからな』

「物騒なこと言わんといてや。十以上も年離れてんのに、私の方が早死にするってどういう状況やねん」

『ハハッ、確かに』

「けど……ありがとう。その言葉、私はきっと一生忘れない」

『俺も、お前がさっきくれた言葉は、絶対に忘れない』

「……何や、照れるなぁ」

『フフッ』

『あなたー、ご飯出来たわよ』

『おう、今行く。……タイムリミットだ』

「案外、早いもんやね」

『でも時計によると、結構時間経ってるみたいだぜ』

「左様か。……ほな、そろそろ切ろうか。そっちも早う食卓に行ってあげなあかんやろし、こっちかて電話代高うつくさかい」

『そっちから掛かってきたんだし、俺は一銭も払わなくていいけどな』

「見とれ、いつか請求書送り付けたるわ」

『勘弁。……じゃ、また。明日からも、お互いに頑張ろうぜ』

「おん。ほなな」

いやぁ…この軽いノリ、割と書きやすいです。

ちなみに作中で会話している二人についてですが、実はあるシリーズより出張してきていただいた二人だったりします。そのシリーズを読んでくださった方は「あれ、デジャヴ…?」と思われたかもしれないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ