ある二人の通話記録
電話…ということで、全編会話のみです。
『……フッ、もしもし』
「もしもし、私やけど……って、何で笑うねん」
『いや、そろそろ来るかなって思ってたから』
「……イヤミやわぁ」
『そう言うなって。……元気?』
「んー、まぁぼちぼちってとこかな」
『出たよ、関西人』
「うっさいわ。そない言うんやったら、そっちかって『もうかりまっか』ぐらい言ってみたらどうやねん。そしたらちゃんと『ぼちぼちでんな』って答えたるさかい」
『ククッ……いや、遠慮しとく』
「何でやねん……まぁえぇけど。そっちはどない?」
『こっちもまぁ、ぼちぼちかな。おかげさまで、毎日忙しくさせてもらってますよ』
「おかげさまでってどういうこっちゃねんな。そんだけ自分をいじめ抜きたいんか。ドMか」
『ちげぇよ。……はぁ、相変わらず辛辣だな。久しぶりに話すっていうのに』
「お互い様やろ。そっちかて、スイッチ入ったら私のこと散々からかって遊ぶくせに。ドMのくせにS属性も持ってるって、ホンマ反則やわ」
『知ってるか? 真正のドMってのはな、実はS属性も持ち合わせてるもんなんだよ』
「へぇ、そうなん……って、何で知ってんねん。まさか本物か」
『さぁ、どうだろな』
「否定せぇよ!」
『ハッハッハ』
「もはや笑い方が怪しいわ。何やねんこの不審者……」
『なぁ』
「ん、何?」
『逢いたい』
「また、いきなりやな」
『仕方ないじゃん。今フッとそう思ったんだから』
「相変わらず気分屋やなぁ」
『だってもうさぁ……疲れたよ、俺』
「私かて、疲れたわ。知らんやろうけどな、編集の仕事っちゅうのはホンマ大変やねんで」
『教職だって大変だよ……お前はこっちの仕事を間近で見てたことあるんだから、わかんだろ』
「そりゃわかるつもりやけどさぁ」
『……まぁ、お互い大変ってことだよな』
「せやね。……私かて、逢えるもんなら逢いたいわ」
『けど……無理、だよな』
「距離を考えぇよ。それに……」
『互いの立場も、あるしな』
「……私はえぇんよ。まだ……せやけどさ。そっちの立場が、あるやん」
『俺のことなんて、気にする必要ないのに』
「そうはいかへんよ。あんなに綺麗な奥さんと、可愛らしい子供さんがいてはるやないの」
『……』
「前みたいにまた浮気疑われて、命の危機に陥られたら、そっちの方が困るわ」
『お前、俺の後追おうとしたもんな。あの時』
「……昔の話や」
『あれからまだ三か月しか経ってないだろうが』
「細かいことはえぇねん。……とにかく、私たちは逢うたらあかんの。どんだけ、互いに存在を欲したとしても」
『わかってるよ……わかりたくないけど、ちゃんとわかってる。俺たちは、これからも別々に生きていかなきゃいけないんだ。寄り添うことなんて、できない』
「……うん。でもな、一つだけ言うとくわ」
『何だ?』
「あなたがもしも先に死んでしまったら、その時は……私も、躊躇いなく後を追うわ。もちろん、あの時と同じように」
『……』
「止めても無駄よ。私、もう決意しているもの」
『……お前のその喋り方、好きだな』
「何やねん。またいきなり、話逸らしおって」
『ごめんごめん。また、ふと思っちゃってさ。いつもの関西弁もいいけど、さっきの話し方はなんか耳に心地よくて……聞くたびにいいな、って思う』
「左様か」
『うん。あと……俺も、お前が先に死んだら後追うからな』
「物騒なこと言わんといてや。十以上も年離れてんのに、私の方が早死にするってどういう状況やねん」
『ハハッ、確かに』
「けど……ありがとう。その言葉、私はきっと一生忘れない」
『俺も、お前がさっきくれた言葉は、絶対に忘れない』
「……何や、照れるなぁ」
『フフッ』
『あなたー、ご飯出来たわよ』
『おう、今行く。……タイムリミットだ』
「案外、早いもんやね」
『でも時計によると、結構時間経ってるみたいだぜ』
「左様か。……ほな、そろそろ切ろうか。そっちも早う食卓に行ってあげなあかんやろし、こっちかて電話代高うつくさかい」
『そっちから掛かってきたんだし、俺は一銭も払わなくていいけどな』
「見とれ、いつか請求書送り付けたるわ」
『勘弁。……じゃ、また。明日からも、お互いに頑張ろうぜ』
「おん。ほなな」
いやぁ…この軽いノリ、割と書きやすいです。
ちなみに作中で会話している二人についてですが、実はあるシリーズより出張してきていただいた二人だったりします。そのシリーズを読んでくださった方は「あれ、デジャヴ…?」と思われたかもしれないですね。




