魔法使いと少女の話(3)
「お前んちとかすぐ狙われそうな気がするんだけど」
「だってあそこから近かったし、それに灯台下暗しって言葉があるじゃん?」
「あんなのは迷信だ。俺はこの葉を隠すなら森の中とかのほうが信じてるね。だからあの時は人通りの多いところに行くべきだった」
ムスっとしたように頬をふくらませて言った。
「で、もっと詳しく話してくんない?本当にわけがわからないんだけど」
「さっきの説明で十分じゃないのか?あ、そうだ!俺の魔法が見たいのか?」
「魔法なんて信じてないんだって。さっき狙われたのはほら、無差別の犯行ってやつに違いない!」
「無差別の犯行に銃使うとか世の中も狂ったもんですなあ!」
呵呵大笑。
「なら次攻められたときは逃げずに俺の魔法で焼き切ってやるから。どのみち、こっちも相手側全滅させなきゃだしな」
ケッケッケ。と今度は怪しげに嗤った。
「じゃあさ、その魔法とかもっと話してよ。そんで、相手のこととかさあ」
いくら銃で撃たれたとはいえ少女はまだ魔法なんて半信半疑だったが、まあ少女は十八才、彼女からすれば日奈和は弟のような年であり、遊びに付き合ってやるような感覚だ。
しかし、日奈和は言うのがたまらなく嬉しいというふうに目を輝かせた。この冷めた態度の少年からすれば実に珍しい子供っぽい態度である。
「実はな、俺は魔法といってもたった一つしか使えない。だがその魔法は炎を出す魔法!四大元素の一角を担う超すごい魔法だ!」
「え?一つしか使えないの?ダサッ」
魔法使いといえば何でもできるイメージが一般人にはあるのは至極当然であり、少女の言動はこれまた少女に非のないものだったのだけれど、自信満々に言い切った日奈和からしてみればひどい侮辱を受けたようなものであるのもまた、日奈和に非はないだろう。
「え?え?え?じゃあ聞きますけどあなた魔法使えるんですか?使ってみてくださいよ、ほら。使えないでしょ?なら炎だけでも使える俺の方がすごくね?な?」
「わ、わかったから。で、あんたの血を飲めばその炎の魔法が使えるようになるわけね?」
日奈和の必死さに閉口しつつ話題を変えた。
「そゆことだ、でも簡単に思われては困るな。魔法使いってのは意外と厄介なんだ」
日奈和は言葉とは裏腹に楽しそうに語った。
「まず杖が必要だ。とはいえ普通の木でいい。条件は傷ついてないことだ」
「ああ、そこらへんはあんまり興味ないな……」
少女からすれば意味のわからない漫画の設定を語られるようなものである。
しかし熱の入っている日奈和を止めれる訳もなく聞く態勢に入ったところは彼女の優しさと言えるだろう。
「そして視力が著しく低下し、体力も落ちる。魔法を使うことに能力が偏るからな」
「確かに走るの遅かったね」
逃げる際にも結構短い距離でバテていた。
「そんでまあ、俺の血を飲めばこの火の魔法を使えるようになる。ただし少しじゃダメだ。致死量の血を飲むこと。これが条件だ」
つまり、魔法を手に入れるためには、確実に日奈和を殺す必要がある。
少女もこれに気づいたらしくゴクリと唾を飲み込んだ。当然殺されるのは日奈和よりも自分である可能性が高いのだから。
「短的にまとめると、向こうはお前、まあ俺でもいいが、を捕まえて血をダラダラと流して飲むのが目的。こっちはそれを阻止しながら相手を倒すのが目的。ってことだな」
「なるほど……」
冷静になると流石に少女も日奈和の言うことを信じなければならないことに気づいたようで、顔つきが割と真剣になる。
「ん?でもまって?あんた魔法使えるんでしょ?言っちゃえば普通の人より強いわけじゃん。なら案外余裕じゃないの?」
「人間より強い生き物は山ほどいるけど、いつだって勝つのは人間だ」
その言葉は必要以上に的確で、間違っていなかった。
間違いなく正論。
「つっても俺も何度か敵と戦ってきてるしな。まあ勝目はある。お前を守りながらってのが厄介だが問題ない。俺は『焼き切る』ことをスタンスとする最狂さ。知ってるか?」
少年はまた
「魔法使いは万能なんだ」
嗤う。