魔法使いと少女の話(1)
「あいつが……俺の従兄弟の」
人通りの多い道路のとてつもなく大きいビルのてっぺん。その金網の上にその少年はいた。
姓は日奈和、名は頼太。元々黒い髪を何故か黒染めしており、目つきはとても悪い。その上真っ黒のローブに大きすぎる帽子を目深にかぶっている。道で歩いていると人にぶつかる事がまず無いような容姿である。
その上杖。
一メートル程の木一本丸々をまるで杖のように持っている。というより本人に聞けばこれは杖であると答えるだろう。
魔法使いなら杖を持つのだから。
とはいえ、丸々一本の若木を持った魔法使いなんて果たしてすべての漫画や小説を読んでもそういないに違いない。第一葉が生えているなんて論外である。
そんなおかしな格好の少年は一人の女の子を見定めていた。
「ひとまずあの女を助ければいいわけか。なるほど人気者は辛いねえ」
そう言ってシニカルに笑ったあと少年はそこから飛び降りた。
先程も述べた通りここは高いビルの上である。たとえ金網の高さがあろうがなかろうが十二分に死ねる高さだ。少年がここを自殺の名スポットだと知っているか否かはさて置くとして、である。
「ファイヤ」
もっとも、それは人間のみに適用される。人間の自殺スポットなど。
彼には、魔法使いには、単なる段差である。ブオッっという音と共にローブが膨れ上がり急に落下速度が緩まる。
「きつい、きつすぎる。世の中に炎を出すことしかできない魔法使いなんて、まあいるかな」
彼は気球の原理で炎を使って落下速度を緩めているのだ。
「さて」
「え!?」
少年、否、日奈和頼太の着地に驚いた少女が声を上げる。が、日奈和からすればそんなもの珍しくもなんともない。
驚かれない方がびっくりだ。
「やあお前」
「は、はい!?」
なんとビクビクしたことか、しかし彼女に非はないだろう。ただでさえコスプレまがいの男が、空から降ってきた(ように見えた)のだから。
「お前、命狙われてるぞ?まあ俺のせいだけど!」
そう言ってまたシニカルに笑うのだった。