スイッチ・オン
この物語……? は、物語というよりも作成者の願望&妄想の掃き溜めといった傾向が強いと思われます。
ストーリー性はほぼ無し、真っ当なゲームモノの物語ではありません。
その点留意ください。
パッケージを破り捨て、専用ケースの中に納められたディスクを本体へ投入。
ささやかな起動音と共に、黒一色だったTV画面に色が灯る。
――VRMMORPG。
世の数多のゲーマーが夢見、いつかプレイしたいと願うそれは、いまだ人の手にあらず。
技術的な観点で言えば、現在人類が手にしている技術を持ってすれば脳波でアバダーなどを動かすことは可能だ。
VRも、難しい部分は多々あるがけして不可能な技術ではない。
――ただ、それら二つを融合し、さらには一般庶民……数多のプレイヤーが購入出来るような商品を作るためには、その技術はいまだ高嶺の花。
もし上記の機能を持つゲーム機を商品化できたとしても、それはきっと小さな部屋一つはある巨大な機械の固まりとなってしまうだろう。
当然、そんな物を一般家庭に配置できるはずもなく、手にすることが出来るのは一部の者に限られてしまう。
それでは、意味が無い。
新たな娯楽として、一つの選択肢ではありえるのかも知れない。いっそのことゲームセンター……いや、ネットカフェなどのような施設を作り、時間あたりいくらと利用料を取る、そんな方法もあるだろう。
が、既存のゲームスタイルとは違いすぎるが故にどれくらいの利用率があるのか、施設の整備に掛けた資金を回収する見込みがあるのか、まったくもって不透明であり、なかなか手の出せる物ではない。
故に――ゲーマー達は夢見、夢想し、想像する。
それを虚しい遊びだと、非生産的な行為だと笑うことなかれ。
ゲーマーとは常に夢見がちなもので、こうあればいいと夢想し、物語の行く先をあれこれ想像して過ごすこともまた、彼等の楽しみの一つなのだから。
――それに、ゲームとは遊びだ。娯楽だ。いちいち無駄だと論ずることこそ、それこそ野暮というものだろう。
今、購入したばかりのソフトを起動させているのも、そんなゲーマーの一人にすぎない。
真っ白だったTV画面に浮かぶ「このソフトを違法コピーしやがったらどうなるか解ってんだろうな。あぁ?」的な意味合いの文字列。
古い時代、TVゲームが普及し始めた黎明期には見られなかったそれを読み飛ばし、次いで表示されるメーカーロゴも見ている時間すら惜しいとばかりにボタンを押してスルー。
色彩の乏しかった画面が、がらりと装いを変える――
TV画面に映し出されたのはファンタジー然とした街並み。
建物のまばらな農村のような風景。
煉瓦造りの建物が所狭しとひしめく都会。
青い空に映える雄大な城。
他にも青々とした森、薄暗い洞窟、遠くまで見渡せる海岸、風に揺れる草原、荒れ果てた荒野――中にはファンタジーにありがちな西洋建造物らしからぬ、瓦葺きの屋根が列ぶ東洋然とした趣の風景もあった。
オープニングムービーとも言えるべき場所に陣取るこれら全ての風景は、アニメーションでもなければゲーム画面そのままのCGでもなく、イメージイラストらしきイラストだった。
VRは一般的な技術でなくとも、CGやアニメーションなどはもはや広く一般に普及している。今日日インターネットなどの情報伝達環境が充実している先進国において、それら映像技術と関わらない日など、一日たりとも存在しないだろう。
そんな中、オープニングムービーに使用されている映像はその全てがイメージイラストだった。
アニメーションでもなく、CGでもなく、イラスト。
しかもそこには街の住人らしき人影は存在していても、ゲームの主役と言うべきキャラクターの姿は欠片もない。
しばし経過し、画面が切り替わる。ゲーム画面そのままのデモムービーに現れたキャラクターは――ドット絵だった。
まるで数世代前のゲーム画面のような印象を与えるドット絵で描かれた風景。キャラクターだけではない。背景も、エフェクトも――しかし古めかしいといえないのは、昔のゲームでは考えられない程綿密に書かれた故か。
TV画面を緻密に彩る色とりどりのドットは、古めかしさではなく懐かしさを見るものに印象づける。
そんなTV画面を駆け回るのは、二頭身か三頭身くらいのこれまたドットで描かれたキャラクターだった。まるで地図を上から見下ろしているような視点――所謂鳥視点、あるいは神視点と呼ばれるような視点で描かれたゲーム画面上を縦横無尽に駆け回る。
CG全盛期とも言える現在において、その画面はあまりにも異質だった。
総CG、豪華声優陣、美麗なアニメーションムービー、ムービーさながらのゲーム画面――そんな物が当たり前のように溢れる時代。
まるでそんな時代の流れに真っ向から喧嘩をふっかけるの如く、ドット絵。もしくはアナログで描かれたイラストを使用したオープニングムービー。
やがて同じくドットで描かれた兎や熊をもしたモンスターが出現し、キャラクターはそれを相手に斬りかかる。その際、ご丁寧なことに画面上にコントローラーの簡略的なイラストが表示され、今の動きはどうやった、こうやったと解説が入る――
さながら家庭用ゲームではなく。ゲームセンターに設置された格ゲーのようなデモムービー。
しかし今起動しているのは、れっきとした家庭用ゲームだ。それも近年携帯型の小型ゲーム機に押され勢いが伸び悩んでいるともっぱら噂される据え置き型の。
操作説明を兼ねたムービーは時にキャラクターを変え、武器を変え、コントローラーすら変えいくつかの例が示され、それはこのゲームにおける一例であり全てではないといった意味合いの説明すら入る。
やがて再びTV画面は暗転。
漆黒のTV画面に浮かび上がったのは、世界地図を背景にした文字列。
Welcome!
それは、歓迎の言葉。
大抵のゲームに使われているだろう定型文。
けれどそんな野暮なことなど気にも止めず、また気に止めることすら思いつかないほど待ちわびていた。抑えきれない気持ちをそのままに、促される時間すらも惜しみボタンを操作。
次いで表示されたNew Gameの文字を、待ちきれないよう叩く。
さぁ、ゲームを始めよう――