最強スキル【電気紐】
ひょんなことから俺も最近流行りの異世界デビューをしてしまったわけだが、うーん。なんと言いますか、なんと言えばいいですか?って状況で。
だってさ、見て?
このthe王城みたいなレッドカーペットと階段と高い位置の玉座、それにステンドグラスまであるし。ありきたりすぎやしない?世界観とかにこだわりないんだろうな、この世界の創造主は。
いやね、俺は仕事でくたくたなのよ。それはもう、さっさと風呂入って寝たいくらいに。
なのになに?あいつを倒せ?
「はぁ~…もうちょっとさ、余裕をもって読んでくれないかな?なんで今にも殺されるかもしれないっていうタイミングで呼ぶのさ。呼ばれた側が即理解して敵撃破からのハッピーエンドなんてあり得るわけないじゃん」
俺を呼び出したであろう老人にグチグチ。ストレス溜まってるから当たり強いんだ今。
「す、すまぬ…しかし儂が召喚を行うのは最終手段なのじゃ…!その最終手段まであいつに追い込まれていたのじゃ…頼む!助けてくれ若い者よ!」
「ちょっ…土下座する必要ないよ。あー…」
老人から振り返り、追い返すべき存在へ向き直る。
なるほどね。オークだ。めちゃくちゃでっけぇオーク。筋肉ムキムキで?筋骨隆々で?オマケに鍛え抜かれた身体ときた。
対して俺は仕事終わりのくたくたのガリ。小枝じゃねぇか俺。あの指で首触られたらもう折れるだろ。
「ど、どうやれと言うんだよ…ステゴロに自信なんかないぞ?」
ポロッと溢した言葉を老人はキャッチする。
「スキルがある!」
「はぁ?スキルってどんな」
「わ、儂にも分からぬが…自己のスキル一覧を確認してみてくれないかのう?表示とだけ言えば出る」
ほーう。スキルねぇ。何だかんだで、俺も昔は特殊能力に目をきらめかせてたな。変身とか好きだった。そうだ、俺はちょっとワクワクしてきている。
取り敢えず言われた通りに、
「表示。ってかオークめっちゃ待ってくれてるね。ごめんねあと少しだけ待って」
俺の声に反応してホログラムのような液晶画面が出てきた。スクロールできるし、タップしたところはエフェクト付き。ゲーム画面じゃないんだから、こだわる必要ないでしょうに。
どれどれ、あったスキル一覧表。
指先で押し、中身を開くとポツンと一つ、際立って。
「【電気紐】?」
「ウルガァオオオァァァァア!!」
「っうわぁ!?急にうるせえ声出すなお前ッ!!」
「ウウゥゥ…」
えーと詳細…なさそう。
仕方ない。こういうのは強いって定番なんだ。それに、食べ物もゲテモノは美味いらしい。なら、このゲテモノスキルは何か強いんじゃないのか?
とりあえず、脇を締めて、昔テレビで見たような構えをとる。ムエタイ?確かそう。
「【電気紐】!使用!」
「ウルガァオオオオ!」
「ッギャァ…!?」
三メートルはあろう巨体。その腕は雑に振るうだけでもコンクリート並みの威力を誇っていた。
俺はまともに受けたせいか、背中側にある階段に打ち付けられることに。
「……あら、なんか…痛いけど、それ程でもないっていうか…」
心配そうに老人が俺を見る。
「タフになるスキルなのか?」
「さて…どうかのう…?」
身体の耐久力がシンプルに上がってる気がする。
背中をさすって傷がないことも、血が出ていないことも確認。そして、筋肉が硬いことも確認した。
もしやと俺のガリガリな腹を見ると、これは綺麗なシックスパック。なんて無かった。ガリガリな腹だよコンチクショー!
「おいオーク!お前は俺を殴り飛ばした。コレで、戦う理由は出来たってことだ」
スタスタと巨体へ近づいて見上げる。
「ルフォァァァオオオ!」
また来た。同じ横振りの腕。太すぎんだろふざけんな。
伏せるように避けて、【電気紐】を使うと念じる。
「ぶん殴ってみりゃ、なんのスキルか分かんだろ…!」
喧嘩慣れしていない右ストレートがオークの腹部へ入り込む。
「おっほ、脂肪で防がれ…」
最後まで言い切れずに俺はオークに蹴り飛ばされる。また階段に飛ばされる。どうなってんだパワーバランスは。バグだろバグ。
ヒョコリと身を起こすと、視界いっぱいにオークの足裏が。
「みぎゃっ…!」
顔面を踏みつけられ、どんどん物理的に深く深く埋められていく。流石に頭が割れそうだ。あり得ないだろうこのパワー。
ペチペチとオークの足を殴ってみるが効果なし。
「モゴゴ…!」
「ブルオオウウウウゥゥア!」
息が出来ない!ていうか臭い!もうホント色々と最悪だ!仕事帰りで疲れてるってのに!
「なんなんだクソッ…!」
右腕をオークの顔めがけて振るい、空振る。
いいや、オークの頭が突然震える。まるで、今の右腕が当たったみたいに震える。
ので、まさかと思いもう一度。
空振り。しかしオークの頭はグラッと殴られたように。
「………」
連打してみよう。
右も左も空振りまくる。呼応してオークは打たれ打たれと苦しみもがく。拳は当たっていないが、まるで当てられているかのように鳴き声を漏らしている。
「グオオォォンン!?」
「やっと足をどけたか豚野郎…」
すぐに立ち直して距離を取った。
自身の両手を見つめて少し考える。先ほどの現象は何なのか。もしかしなくとも【電気紐】だろうと俺は思う。…が、名前から繋がりが感じられない。
「あ、わ、分かったぞ若者よ!」
「どうした爺さん!」
そんな遠いところから声をかけるな!
絶対歩けんだろおい!
「【電気紐】と言ったな?それはもしかすると影に関連しているやもしれぬ!」
「影?」
ステンドグラスから入り込む光に身体が照らされている俺。階段の上の方ということもあり、伸びる影も長い。
試しだ。試しに、だ。
腕を振るう。影の拳がオークに当たるように調節して。
「ブルオォォ!?」
「っビンゴだ爺さん!【電気紐】は影だ!影を使って戦うんだ!」
相変わらず遠い!来いよここまで!
「となれば、もう近づく必要は皆無になったな」
「モゴォ!?ッゴアオオォォ…!?」
その場で空気を殴り抜ける。すると面白い。影が丁度よくオークの身体に打撃をしているように見えるではないか。して、実際にコレを打撃として機能させるのが【電気紐】なんだろう。
え、面白いかも。【電気紐】。
しかしオークも馬鹿ではなかった。
俺の影が悪さをしていると気がついて、速攻で届かぬ位置まで退いてみせたのである。確かにこれじゃあ手も足も出ないし影も届かなくて当てられない。
「くそ…無駄にいい頭しやがって。どうする…」
「【電気紐】…影を実体として扱える…うーむ…あ!」
老人は相変わらず遠い所から俺に声をかける。
「もしやすると、お主の近くに、光度を生み出せるんじゃないかのう!」
「光度?」
「今は消灯!次に点灯!儂は数多くのスキルを見てきたのじゃが、もしやするとお主は、光を調節して影を操るスキルを得ているのかもしれぬ!」
その言葉を聞いた途端に理解できた。
使えない部分のロックが外れたみたいにスルスルと使い方が分かる。
「今は消灯…なら、【電気紐】!点灯だ!」
カチッ。
俺の背後で音が鳴る。
そして光が広がり、影は伸びる。
「後は角度の調節だけか」
「グルオオァァ…?」
「………ここだな」
影の右手でオークの足を鷲掴みにし、左手でパンチの連打をぶちかます。
何発も、何発も、スカスカと空振りながらも影だけは当たっていて。
やがてオークはガクリと力を無くして、俺は少しゾクッとしながらも老人の側まで階段を降りて近づいた。
「爺さん、オークは倒したみたいだぞ」
「心から感謝する、若者よ」
「で、俺は帰れるのか?ゲームクリアだろ」
「……いいえ。まだゲームはクリアしてませぬ」
「なんだと?」
老人は指をパチンと鳴らして。
世界はブォンと風切り音と共に切り替わる。
「な、なんだ…王城じゃなくなって…机に椅子に、黒板に…今度は学校かよ?」
ここで何と戦えと?
「おほん」
「爺さ……イメチェンか?」
「むしろこれが本来の姿じゃよ」
ピシッとスーツを身に纏い、ネクタイをキュッと綺麗に着けたご老人。先程とは雰囲気が全くと言っていいほど違う。カリスマを感じる。
「若者よ、お主には試験を受けてもらった」
「さっきのが試験だと?死にそうだったのに?」
構わず老人は続けて。
「お主を、この学校の生徒として受け入れる。異議は認めぬ。どうせ帰れぬのだ、生徒として日々を励んでもらうぞ」
「……嫌です」
「では、席についていなさい。残りの人数も今から集めてくるからのう」
「こ、このクソジジイ…!話を聞かねぇ!それに、今から集めるって何人分の椅子があるか見えてんのかよ?最後の一席が埋まる頃には日を跨ぐぞ?」
「寮もある」
「なら良いか。じゃなくて」
なんだ、この俺が押され気味だぞ?
それに、生徒って。なんで?この年齢で学生服着るの嫌だぞ俺。
【電気紐】というスキルを授かった時点で、俺はもう術中にはまっていたのか?
…オーク倒した意味ねぇじゃねぇか!
適当な席に腰を下ろして、俺はこの教室の窓の外を眺める。まじで暇になってきて、もうこれしかやる事がないからだ。
俺の異世界デビュー、なんか変じゃね?




