第七話 蛮族、街へ入る
あれから住処に戻った俺は、街を探すべくとりあえず世界樹とは反対方向に歩いて行ってみることに。
「……は?」
住処から歩いて約1日。視界が開けた瞬間、俺は思わず立ち止まった。
高い石壁。
規則正しく並ぶ建物。
行き交う人、人、人。
「……街、あるじゃん」
人里離れた森だと思ってた場所から、徒歩一日。
今まで人に合わなかったのが不思議なくらい近場に街があった。
(こんな近くにあったんかい……もうちょい奥地かと思ってたんだが)
とりあえず入ってみるかと、街の入り口に並ぶ行列の1番後ろへ滑るようにスーッと移動する。
ちなみにだが、体重が増えてることは結構前に気付いた。
地面がやたら沈むし、走ると振動がデカい。
筋肉は重いって聞くし、それだけ俺もマッチョメンに近付いているということだろう。
......相変わらず腹はふにふにで、シックスパッドに割れる気配すらないが。
だから今は、重力魔法で常にほんの少しだけ体を浮かせている。
地面に全体重を預けないように、だ。
暫くして俺の後ろにも人が並び始めたんだが、何か様子がおかしい。
「……なあ、あれ」
「仮面……?」
「あれは服...じゃないよな?」
「手に持ってるのは、木剣...にしちゃあ白いな」
「なんだあの蛮族」
やたら視線が痛い。
なにやらヒソヒソ話も、俺のことを話している気がする。
(なんだ……?)
その時点では、まだ気付いていなかった。
俺の格好が――
裸に動物の毛皮を雑に巻き付けただけの、完全な蛮族スタイルだということに。
しかも仮面付き。手には謎の木刀。
怪しくないわけがない。
*
「次の方」
門番の声に呼ばれ、俺は一歩前に出た。
もちろん仮面はつけたままだ。
――その瞬間、門番の視線が、俺の全身を上から下まで往復する。
「……あー、その格好は?」
怪訝そうな、それでいて気まずそうな声。
そこでようやく、俺は自分の姿を思い出した。
裸に毛皮を纏っただけの姿に裸足。
手に木刀を持ち、おまけに怪しい仮面付き。
(……あ)
完全に不審者だった。
「も、森で暮らしてた。修行...しててな(ふひゃぁぁあ!こんなんただの変質者じゃねーか!)」
動揺を隠し、世界樹の木刀を見せながら肩をすくめる。
「街に来るのは初めてだ」
「……森?」
門番は眉をひそめる。
「ずいぶん奥の方から来たようだな」
「さあな。人の気配はなかった」
嘘は言ってない。
俺は本気で、辺境の森だと思っていたのだから。
門番の視線が、今度は仮面に向く。
「その仮面は?」
「呪いだ。取れねぇ」
「確認のため、外してもらう」
門番が手を伸ばした。
(あ、これマズいな)
俺は即座に、仮面に重力魔法をかけた。
仮面そのものを、頭に押し付ける。
門番が掴んで引っ張るが、微動だにしない。
「……っ!? 何だこれは」
「呪いで取れねぇって言っただろ」
低く言う。
嘘だが、門番には判断がつかない。
門番は舌打ちし、手を離した。
「……分かった。無理に外す必要はない」
完全に納得したわけじゃないが、これ以上は突っ込まないらしい。
「街に入るには市民権が必要だ」
「持ってねぇ」
「なら銀貨一枚だ」
「……悪いが、金の使い方自体知らねぇ」
門番は一瞬驚いたが、すぐに表情を戻す。
「そういう者も、たまにいる」
取り出したのは、小さな木板だった。
「仮入場札だ。有効期限は三日」
俺に渡しながら、淡々と続ける。
「三日以内に銀貨一枚を支払えば、正式に滞在を認める。支払われなければ――」
門番は一拍置いて、
「奴隷落ちだ」
「……随分物騒だな」
「そういう決まりだ」
そう言って、門番は肩をすくめた。
「冒険者ギルドに行け。依頼を受ければ、すぐに金は手に入る」
「冒険者ギルド、か」
覚えておこう。
「最後に確認だ」
門番は、水晶を取り出した。
「右手、左手。交互に触れろ」
(犯罪歴でも調べる道具か?)
言われた通り、手で触れてみる。
――何も起きない。
水晶は光らず、音も鳴らない。
門番は手を凝視していたようだが、軽く頷きすぐに水晶をしまった。
「問題ない。入っていい」
「助かる」
「ようこそ、リムネアの街へ」
門番のその声とともに、俺は門をくぐった。
――俺は知らない。
あの水晶が、
手の甲に刻まれた魔法陣を確認するためのものだということを。
本来なら、俺の左手には
“新たな魔法属性”を示す
六芒星の魔法陣が刻まれているはずだった。
だが――
不変(限定)。
見た目は、何があっても変わらない。
魔法陣すら、最初から存在しないかのように。
こうして俺は、
世界中が探し回っている存在だと知られぬまま、
仮面の蛮族として、街へ足を踏み入れた。




