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幕間 世界樹の精霊の観察記録




幕間 世界樹の精霊の観察記録


 私は、世界樹に宿る精霊。

 この森が生まれた時から、ずっとここにいる。


 風の流れも、魔素の揺れも、動物たちの気配も、すべて感じ取れる。

 だから――気付かないはずがなかった。


 半年前。

 森の奥で、魔素が――大きく歪んだ。


(……なに、これ)


 地面が、沈んでいる。

 いや、正確には――押し潰されている。


 目には見えない何かが、森の一部にだけ、常にかかり続けていた。


 空気が重い。

 土が締まりすぎている。

 動物たちも近づかない。


 最初は、新しく生まれた魔物かと思った。でも、違った。


 そこにいたのは――一人の人間だった。


 細くて、小さくて、華奢で。


 なのに。


 地面が、めり込んでいる。

 走るたびに、地面が沈む。

 跳ぶたびに、土が弾ける。

 木に触れるたび、枝が折れる。


「...こわっ」


 思わず、そう呟いてしまった。

 精霊なのに。


 その人間は、毎日、同じことを繰り返していた。

 自分に何かをかけて、苦しそうに動いている。


 転んで。

 倒れて。

 めり込んで。


 でも、次の日にはまた動いている。


 ある日、気付いた。


 あれは、魔法だ。

 重力。

 それも、異常な質の。


 魔素が、歪んでいる。

 重すぎて、空気の流れまで変わっている。

 こんな魔法、見たことがない。


(……人間って、こんなこと出来たっけ)


 知らない。

 少なくとも、普通じゃない。


 それから半年。

 その人間は、どんどんおかしくなっていった。


 地面が、少しずつ沈んでいく。

 森の一部だけ、地形が変わっていく。

 動物が、遠回りするようになった。


 ある日。

 ついに、木を引き抜いた。


(……え?)


 それも、片手で。

 しかも。

 その木を、振り回していた。


(…………なにしてるの?)


 理解が追いつかなかった。

 木だ。

 森の木だ。


 それを、ただの棒みたいに振っている。

 しかも、楽しそうに。


 そんなある日。

 その人間は、こちらに来た。

 二本の世界樹の元へ。


 私は、少しだけ、わくわくしていた。


 珍しい来訪者。

 半年以上も観察してきた、不思議な存在。

 何をするんだろうって。


 そして。


 隣の世界樹を引き抜いた。


(……え?)


 世界樹を。

 ...なんで?


(え、ちょっと待って待って待って)


 呆然と見ている間に、

 枝を折り、

 削り、

 圧縮して、

 棒にした。


 世界樹を。

 木刀にした。


(………………)


 精霊として、

 かなり衝撃だった。


 でも。

 次に、その人間はーーこっちを見た。

 もう一本の、“本物”の世界樹を。


(ひょえっ)


 その日は結局、そのまま帰っていった。


 でも、あの目。

 あれは明らかに、次の獲物を見る目だった。


(え、人間こわー...)



 そして更に半年後。

 やっぱり来た。

 世界樹を木刀に変えに、あの人間が。

 そして、気付いた。


(……この人間、何者?)


 存在の階位は低い。

 なのに、魔力の量があり得ないほど多い。

 肉体の密度も、おかしい。

 存在が、少しだけ、歪んでいる。


 人間の形をしているのに、

 どこか、人間じゃない。


 森の一部みたいに、

 大地の一部みたいに、

 重くて、強くて、静かで。


 そんな風に観察してたら、

 人間が超出力の魔力を出し始めた。


 今度こそ、本気で焦った。

 あのまま放っておいたら、

 確実に引き抜かれてた。


 だって、あの目。

 完全に「やる気」の目だった。


 説得して。

 お願いして。

 必死に止めて。


 そしたら。


「では、重くて丈夫な木刀をくださいませ」


 そう言われた。


「……木刀?」


 もっとこう、

 不老不死とか、

 精霊魔法とか、


 普通はそういうのを望むのに。


 木刀。


 それも、すごく嬉しそうに。


(……変な人間)


 でも。

 悪い人では、ないと思う。


 世界樹を守ってくれた。

 無理に引き抜かなかった。

 ちゃんと話を聞いてくれた。

 目つきは怪しかったけど...。


 だから、私は木刀を作った。

 世界樹と同じ重さの、特別な一本。


 あの人間は、すごく喜んでいた。

 本当に、嬉しそうだった。

 それが、少しだけ、嬉しかった。


 ーー


 あの人間が立っていた場所は、

 今も少し、地面が沈んでいる。


 きっと。

 この森を出ていくんだろう。


 あの目は、

 「外」を見ていた。


 もし、あの人間が森の外へ行ったら――


(……絶対、何かやらかす)


 そんな気がした。


 だから、

 もう少しだけ、見ていたくなった。


 ......近くで。

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