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第十三話 確信の手前

 里を出る準備は整っていた。


 王都の使者は書状を収め、

 兵たちは馬の支度を終えている。


 外交は問題なし。

 スタンピートの被害も軽微。


 報告としては、それで足りる。


 だが。



(軽微、か)



 ガルドは馬上から森を振り返る。


 あの穴。

 あの残滓。

 あの仮面。


 偶然にしては、出来すぎている。


 朝の出来事を思い出す。


 気になった。

 だから、試した。


 足をあえて滑らせた。


 ほんの一瞬、相手の素を見るために。



(早い)



 考える前に動いた。


 迷いがない。

 戦い慣れの動きではないが、反射が異様だ。


 それでいて――軽い。


 支えた腕の感触が妙だった。


 細い。

 だが、揺れない。


 そして。


 仮面が外れた。


 見えた顔。


 あの日、ギルドで泣いていた少女。


 黒髪。

 整った顔立ち。

 年若い。


 あの時も妙だった。


 拳は通らず、

 体重は異常。

 そして、男の声。


 だが、強いとは思わなかった。


 今も、思わない。



(強いかどうかは、まだ分からん)



 だが。



(面白い)



 それだけははっきりしている。


 あの距離で、

 仮面が外れ、

 正体が露わになって。


 出てきた言葉がこれだ。



『あの、どうやったらそんなに筋肉が付くのですか?私も筋肉つけたくて』



 思い出して、また笑いがこみ上げる。



「くっくっくっ……」



 なぜ筋肉。


 なぜその話題。


 お前は今、何を優先している。


 妙で、

 無防備で、

 そしてあまりにも自然だった。


 自分の異質さに、

 まるで気づいていない。


 あの日もそうだ。


 泣いて、

 去って、

 何も説明しない。


 あれは何者だ。


 魔法か。

 体質か。

 ただの変わり者か。



(……まあ、いい)



 今は決める必要はない。


 追う理由もない。


 だが。


 次に会った時は、足は滑らせない。


 正面から聞く。


 お前は何者だ、と。


 馬が進み出す。


 森がゆっくり遠ざかる。


 依頼は終わった。


 だが。


 ひとつ、楽しみができた。



「筋肉、か……」



 口元がわずかに上がる。


 次は、ちゃんと答えてやるか。

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