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第八話 名を持たぬ影

 外交は、形式的に終わった。


 王都の使者は穏やかな言葉を残し、

 里長もまた、礼を尽くす。


 表面上は、問題なし。


 だが。


 ガルドは森の奥をもう一度見た。


 枝の上。

 もう、影はない。



(……逃げ足も速い)



 面白い。

 ただ放置するには、少し気になる。


 ガルドは近くに立っていたエルフへ視線を向けた。



「一つ、聞いてもいいか」



 低い声。

 声をかけられたエルフは、わずかに警戒を強める。


 若い男。

 弓を背負い、無駄のない立ち姿。



「……何でしょう」


「先ほど、木の上に仮面の人物がいた」



 一瞬。


 空気が止まる。

 ほんの僅か。


 だが確かに。

 エルフの目が揺れた。



「白い仮面だ。片側に模様がある」



 沈黙。


 風が吹く。

 若いエルフは、静かに答える。



「里の者ではありません」



 嘘ではない。

 だが、全てでもない。


 ガルドは目を細めた。



「侵入者か?」


「……客人です」



 客人。

 その言葉に、わずかに含みがある。


 ガルドは一歩近づく。



「名は?」



 ほんの一拍。


 エルフは答えない。

 視線が、ほんの僅かに揺れる。


 迷い。

 守る側の目。



「名をお伝えする必要はありません」



 きっぱりと。


 敵意はない。

 ただ、線を引いている。



(……なるほど)



 ガルドはそれ以上踏み込まなかった。

 無理に押せば、外交に響く。


 依頼は護衛だ。

 深入りはしない。


 だが。



「あの仮面、強いな」



 ぽつりと、呟く。


 エルフの目が、わずかに鋭くなる。



「……そう、でしょうか」



 否定しない。

 肯定もしない。


 ガルドは小さく笑った。



「......もうしばらく世話になる。またな」



 それだけ言って、踵を返す。

 若いエルフは、その背を見送る。


 静かな森。


 確かに視線が交わった。

 名は出なかった。

 それでも。


 仮面の影は、もうただの影ではない。

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