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第二話 近くて遠い距離

 入口をくぐった時、よく見た里の中の光景が目に入った。


 森の匂いは同じ。

 朝の光も、風の冷たさも同じ。


 でも、なんというか――視線が前とは違う......?


 歩いていると、ちらりとこちらを見る人がいる。

 でも、目が合う前に、すっと逸らされる。



(……うーん、やっぱり仮面着けてないからか?なんか知らん人来たぞ的な......?)



 いやでも服装とかこの木刀見れば俺って分かるよな。

 ......もしかして前からこんな感じだった?

 

 嫌われている、という感じではない。

 なんていうか、むしろ恐縮されてる?

 やっぱ世界樹がどーのこーのっていうのが影響してそう。......この木刀捨ててこよっか?


 んー、なんか木刀から抗議の念を感じる......。

 意思でもあんのかなコレ。

 異世界ならあり得そう。


 すれ違うと会釈をされる。

 目が合うと軽く頭を下げられる。

 それだけ。


 そういえばリバル以外のエルフから話しかけられたこと無いんですけど?

 あ、思い出したけど俺誰にも名前言ってないんだったわ......。

 そりゃ仲良しエルフさんできないわな......。


 いまのこの状況は『今更気付く、異世界ぼっち生活』?

 いやぼっちなのは最初から気付いてたから違うか。

 『知らない間にエルフたちに敬われています。〜俺なにかしちゃいました?〜』

 これだな!



「私は、里長に報告へ行ってきます」



 入口を入って少し歩いたところで、リバルが立ち止まって言った。

 まあ、報告は必要だろうな。

 でも、俺の醜態は言わないでね?裸でピンボールしてましたとか止めてね?恥ずか死するよ?



「ナギは、少し休んでいてください」


「はい。分かりました」



 そう答えると、リバルは軽く頷いて、

 静かにその場を離れていった。


 足音もなく、すぐに木々の向こうへ消えていく。

 ......リバルってどのくらいの強さなんだろう?

 今度腕相撲してみよっかな。

 そんなことより......



(……)



 一人だ。里の中で、一人。

 人見知りに定評のある俺。割と苦痛。



(なんか、急にアウェー感がすごいな……)



 とりあえず、歩く。


 昨日までは気づかなかったけど、

 この里、思っていたよりも人がいる。


 家の前で弓を整備している青年。

 薪を割っている大柄な男。

 子どもに何かを教えている女性。


 同じ「エルフ」なのに、

 全然違う。



(……って、そりゃそうか)



 ふと、気づく。



(俺、今まで「エルフ」って一括りで見てたな……)



 里の人。

 弓の人。

 長生きの人。


 それくらいの認識しかなかった。


 でも、こうして見てると、

 当たり前だけど、一人一人違う。


 背の高さも、

 声も、

 雰囲気も。


 人間と、何も変わらない。



(……ちょっと、話しかけてみるか)



 勇気を出して、薪を運んでいた女性に近づく。

 多分20代くらいの優しそうなお姉さん。



「あの、すみません」



 女性が顔を上げる。まあ可愛い。

 そして少しだけ、目を見開く。


 すぐに、姿勢を正して頭を下げた。



「はい、何でしょうか」



 て、丁寧すぎる。

 なんだこの距離感。

 とても雑談を楽しむ雰囲気じゃない。



「えっと……何か、お手伝いできることはありますか?」



 自分でもぎこちないのが分かる。

 ひぃぃ......。


 お姉さんは一瞬だけ困ったような顔をして、それから柔らかく首を振った。



「いえ……客人にそのようなことは」


「い、いえでも、私も何もしないのは落ち着かなくて……」



 言いながら、自分でも「何言ってんだ俺」って思う。

 里の人たちは生活のために働いてるのであって、俺とは状況が違う。

 言葉選び間違えましたね、これ。(白目)


 女性は、少しだけ考えてから、静かに言った。



「お気持ちだけ、いただきます」



 それだけだった。


 拒絶ではない。

 でも、受け入れてもくれない。

 礼儀正しい。

 でも、近くない。


 俺は愛想笑いを浮かべ、木の影へ戦略的撤退をした。

 多分お姉さんの俺に対する好感度は1ミリも変わっていないだろう。

 


(……むずかし)



 これあれだ。高校入学して最初の林間学校思い出すわ。

 まだ周りが友達未満の人たちばっかりだった時の。


 なんか、ものすごく距離を感じる。


 嫌われてるわけじゃない。

 でも、仲良くもない。


 どう接したらいいのか、分からない。

 あの時はどうしたんだっけか......。忘れちゃったよそんなの。



 歩いていると、少し離れたところで子どもたちが集まっていた。


 こそこそと、こっちを見ている。



「ねぇ、あの人……」

「ほんとに人間?」

「世界樹に選ばれたってほんと?」



 ひそひそ声。

 丸聞こえ。



(めっちゃ見られてるじゃん。一緒に遊ぶ?今なら俺暇よ?)



 目が合うと、ぱっと視線を逸らされる。なんでだ。

 近くにいた大人が、軽く子どもたちをたしなめた。



「失礼ですよ」


「……ごめんなさい」



 うん、目合わせて露骨に逸らされるのは割と傷つくから、やめようね......。

 子どもたちは、少しだけしゅんとする。


 でも、やっぱり気になるのか、

 ちらちらとこっちを見てくる。



(……あーなんかモヤモヤするなー)



 まあ種族も違うし、なんか世界樹から木刀貰うの特別っぽいし。

 気になるのは分かる。

 分かるんだけどさー......。


 少し歩いていると、

 ふと耳に入った言葉があった。



「世界樹の御心のままに、ですから」


 誰に向けた言葉かも分からない。

 けれど、それがこの里の常識なのだと

 何となく理解できた。


 この里にとって、

 やっぱり世界樹は特別なものなんだ。


 だから、その世界樹に選ばれた存在は――



(……扱いづらい、んだろうな)



 嫌われてるわけじゃない。

 でも、近づいていいのか分からない。

 そんな感じ。



(……なるほどなぁ)



 立ち止まって、周りを見る。

 皆、普通に生活してる。


 笑ってる人もいる。

 怒ってる人もいる。

 忙しそうに働いてる人もいる。


 でも、その中に俺は入っていない。



(……遠いな)



 近くにいるのに。

 同じ場所にいるのに。

 なんか、遠い。



「ナギ」



 後ろから声がした。

 振り向くと、リバルが立っていた。



「里長への報告が終わりました」



 いつも通りの声。

 いつも通りの顔。


 その瞬間、

 少しだけ、肩の力が抜けた。



「ぁ、はい。お疲れさまでした」


「……何か、ありましたか?」



 短い言葉。

 でも、ちゃんとこっちを見ている。


 少し迷ってから、正直に言う。



「いえ、その……」



 言葉を探して、

 結局、苦笑いになる。



「なんでもないです」



 リバルは少しだけ目を細めた。



「そう、ですか」



 短く、それだけ。

 隣に並んで歩き出す。


 さっきまで感じていた、あの疎外感が。

 不思議と、少しだけ薄れた気がした。



(……リバルだけ、か)



 普通に話せる。

 普通に隣にいられる。

 まあクソ真面目だけども。



(距離感は普通なんだよなぁ)



 それが、なんだか少し安心した。

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