第三十九話 名も知らぬまま
『なんで女なのに男みたいな格好してんだ?変なやつー』
『男女とは一緒に遊ばねー!女子と遊んでろよ!』
俺は男だっ。俺だってみんなと遊びたいのに......。
『凪ちゃんスカート履かないの?絶対似合うのにー!』
『凪ちゃん彼氏作んないの?こんなに可愛いのに勿体ない』
俺は男でっ、ちゃんと、女の子が好きでっ......。
『ごめんなさい。私、男の子が好きだから......』
『俺と付き合ってくれ!お前のことしか考えられないんだっ』
なんでっ、なんで......。
『無理だよォ、君は、か弱い女の子なんだから...。』
あっ......。っ......。
そう、か......。俺は......ほんとに......。
*
(リヴァル視点)
「ちが、うの......わたくし、は......」
少し前から、彼女がうなされ始めた。
額に汗を浮かべ、涙を流しながら。
どんな夢を見ているかは分からない。
ただ、彼女にとって苦しいことなのは間違いないだろう。
私は彼女の横へ座り、涙をそっと拭う。
思えば、私は彼女の事を何も知らない。
世界樹に選ばれし聖剣の勇者。
仮面を身につける時は、声も仕草も男そのもの。
仮面を外せば、見るものの目を奪う可憐な容姿、仕草。
男の友人のような気さくな一面もあれば、
母のような優しい眼差しを子どもに浮かべたりもする。
鎧袖一触の強さがあるにも関わらず、
それを鼻にもかけず、ひけらかすこともしない。
「よく分からない人だ」
そう評するに相応しい人物、それが彼女。
だが、私は見てしまった。
彼女の“弱さ“を。
彼女は、泣いていた。
普通の女の子のように、
怯え、怒り、悲しみ、肩を震わせて。
“誰にも見られたくない“
“理性を失う前に“
彼女が何を抱えているかは、分からない。
ただ、あの悲痛な叫びに込められていたものが、
良いものではないであろうことは、分かる。
「私は、貴女に何をしてあげられるだろうか」
必要としていないかもしれない。
拒絶されるかもしれない。
でも、それでも私は、
「貴女の、助けになりたい」
私は彼女の事を何も知らない。
だから、彼女が目を覚ました時に言うセリフは決まっている。
『貴女のお名前を、教えてくださいますか』




