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第三十七話 静寂のあと

 音が、遠かった。


 何かが潰れる音も、

 地面が軋む音も、

 自分が叫んでいる声も。


 全部、どこか遠くの出来事みたいに聞こえていた。



(……いやだ)



 何が嫌なのか、

 もうよく分からない。


 ただ、近づいてくるものが、

 全部怖くて。


 触れられるのが、

 全部気持ち悪くて。



(こないで)



 足元が、沈む。


 また、何かが潰れた気がする。

 でも、見ていない。


 見たくなかった。



(……見ないで)



 呼吸が、うまくできない。


 胸が苦しい。

 頭が重い。


 何かをずっと叫んでいる気がするのに、

 言葉が、自分でも分からない。



(……もう、やだ)



 涙が止まらない。


 目の前が、ぼやける。


 でも、

 身体だけは勝手に動いている気がした。


 何かが近づけば、

 それを拒むように。


 重くして。

 押し潰して。

 遠ざけて。


 ただ、

 それだけを繰り返していた。


 どれくらい、そうしていたのか。


 分からない。


 ふと。


 周りが、静かになっていることに気づいた。



(……あれ)



 さっきまで、

 何かが、

 たくさんあったはずなのに。


 音も。

 気配も。


 何も、ない。


 身体の力が、

 ふっと抜けた。


 その瞬間。


 膝が、

 がくりと崩れた。



「……ぁ」



 地面が近づく。


 冷たい土の匂い。


 そのまま、

 意識が、すっと沈んでいった。





 急に。


 重さが消えた。


 さっきまで、

 森全体を押し潰していたような圧が。


 嘘みたいに、

 すっと消えていく。



(……止まった?)



 リヴァルは、

 息を呑んだ。


 地面の沈みが、止まっている。


 木々の軋みも、

 石の砕ける音も。


 もう、聞こえない。


 ただ、

 静かだった。


 その中心で。


 彼女の身体が、

 ゆっくりと崩れ落ちた。



「……っ!」



 反射的に、

 枝を蹴った。


 地面に降りる。


 駆け寄る。


 倒れ込む寸前の身体を、

 思わず支えた。


 重い。


 だが、

 そんなことを考える余裕はなかった。



「……大丈夫か……!」



 返事はない。


 呼吸はある。

 だが、浅い。


 腕の中の彼女は、

 ひどく静かだった。


 泣いた跡が、

 はっきりと残っている。


 頬が濡れて、

 まつ毛が固まっていた。


 さっきまでの、

 あの圧倒的な存在感は、

 もうどこにもない。


 ただの、

 一人の女が、

 そこにいるだけだった。

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