第四話 森での半年と、ニ本の木
転生し俺が女になった日から、約半年が経った。
俺はあれからずっと、森の中にいた。
動物はいるが、凶暴なやつはいない。
近くには澄んだ湖があり、水にも困らない。
気温は年中快適で、住むには申し分ない場所だった。
「……多分、人の住んでいない樹海の中、ですわね」
そう結論づけて、特に疑問にも思わなかった。
丘に穴を掘り、洞窟を作ってそこを根城にしている。穴は正拳突きで折った木で掘った。
食事は基本果物と湖の魚。魚は目についたやつを重力魔法でヒョイってするだけのお手軽さ。
たまーに獣も狩ったりするけど、毛皮剥いだり骨取ったりで面倒だからあんまり狩ってない。
そんな面倒な獣の毛皮で一応着るものも作った。って言ってもほぼ纏ってるだけみたいなもんだし、重いし臭いしで基本着てない。
修行する時は邪魔だし?あとなんか、色々する時楽だし...色々と。
側から見たら完全に原生民だが、問題ない。
誰も見ていないので。多分。
重力魔法を自分にかけ、動く。
走る。
跳ぶ。
殴る。
最初は数分で限界だった負荷も、今では半日かけても物足りない。
「……最近、効きが悪いですわね」
そう感じ始めた頃だった。
ある日引き抜いた木を素振りしながら、俺の筋肉脳(筋肉を求めてやまない俺の脳)が、ビビッとひらめいた。
「……この木、圧縮して素振りしたらもっと鍛錬になるのでは?」
圧縮した木。
それで木刀を作れば、相当な負荷になるはず。
あと木刀かっこいいし。
観光地に売ってる木刀とか、欲しくなるんだよなー。「うわーアイツ木刀買ってるよ」とか言われたら恥ずかしすぎて死ねるから買ったことはない。
「どうせなら……大きい木がいいですわね」
大は小を兼ねる。大きければ大きいほど良い。木も、筋肉も。
そうして、森の探索を始めた。
*
彷徨うこと、二日。
偶然、見つけたのは二本の巨木だった。
木の周りには色とりどりの花々が咲き乱れ、なにか神聖な雰囲気を感じさせる。
小さい木は目算三十メートルほど。
大きい木はデカすぎて分からん...多分百メートルはありそう。デッケー。
「……いいですわね」
日本ではまずお目にかかれないほどの大木。これを木刀にし筋トレすれば、俺も立派な筋肉を手に入れることができるかもしれない。
半年の修行によって力は確実に増している。
でもなぜか筋肉が付かない。普通半年も筋トレすればそれなりにムキムキになると思うんだが、俺の腕は相変わらず華奢な女のようなままだ。
腹筋も割れないし、太もももおしりも引き締まってる気がしない。胸も柔らかいままだ。そこは断言できる...柔らかいんだ...!
俺は手に入れたいんだ、ツルツルテカテカのニッコリ筋肉を...!たとえあの柔らかさを、犠牲にしたとしても...!!
「ふぅっ、では...はじめましょうか。」
まずは、小手調べ。小さいほうの(と言っても元の世界では見たこともないような)巨木の前に立ち、重力魔法を起動させる。
いつもの要領で引き抜こうとした瞬間、違和感が走った。
「……いやに重いですわね?」
他の木とは、明らかに違う抵抗。
まあここまで大きい木を引き抜くのも初めてだから当たり前と言えば当たり前なんだが、それを抜きにしても魔法の効きが悪い気がする。
それでも、力を込める。あーなんか頭に血が上る。血管ぶち切れそう。
「――っ、ぬぅ……!」
地面が割れ、根が軋み、ようやく引き抜けた。
「……ふぅ」
引き抜くだけでも一苦労だったが、そこからがまた大変だった。
余計な枝をへし折るところから始めたんだが、まず枝が大きい。普通の木と同じくらいの太さがある。
最近では殴れば木をへし折るくらいは出来るようになってきた俺だが、この木なんか硬いし、流石に100本以上の枝を折る作業は骨が折れた。
実際最初のほうは枝を殴る度に拳に激痛が走り「折れた!?」と思ったし。(拳を確認したけど折れてなかった)
半分くらいへし折ったくらいからは痛みも無くなり。足で蹴って折ったりもして2時間くらいで全ての枝を処理することができた。
折った後の枝は重力魔法で遠くにポポイポーイした。邪魔だし。
不法投棄?森にあったものを森に返しただけだから、もーまんたい。
そしてここまででまだ下準備という...。
じーざす。
この時点で俺は汗びっしょり。湖で水浴びしたい...。
こんな森の中で女が1人、素っ裸で汗だくになりながら枝折りまくってるの普通に考えて意味わからんな...女じゃないけど。心は。
*
次は圧縮。これもかなり苦戦した。
デカいからなのか固すぎるからなのかは不明だが、全方向から均一に重力を加えないと力が分散するのか圧縮されない。
んで均等に重力を加えても生半可な出力じゃてんでダメ。身体中から魔力を絞り切るような感覚で「ぬぉぉおおおっ」と力を加えてやっと圧縮される感じ。
途中「パァンッ!」と何かが弾けるような音がして視界が一瞬真っ暗になったりもしたが、すぐ回復したから作業続行。
多分魔力切れってやつか?でもその後もすぐ魔法使えてたし、分からん。
そんなことを繰り返してかれこれ1日...。
「で、できましたわ...」
ついに、「おれのさいきょうのぼくとう」が完成した。現時点での。
ずっしりというよりズドンとした重み。
持っただけで筋肉が軋みを上げているのが分かる。
「これは……効きそうですわ。でも...」
もう一本の、途方もない大きさの巨木に目を向ける。
「あれは……今は無理ですわね」
どう考えても力不足。今の俺では引き抜くことさえ無理だろうな。
まずはこの木刀で鍛えて、またリベンジしに来よう。




