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第二十九話 制御不能

 もう嫌だ。

 うんざりだ。


 臭い体液を浴びて。

 臭い体臭に咽せて。


 穢らわしい視線を向けられて。

 穢らわしいモノを見せられて。


 腐った吐瀉物を掛けられて。

 腐った肉片塗れになって。


 変な男に悪戯されて。

 変な男のせいで、間に合わなくて。



 魔物どもと戦い始めてから今に至るまでに、

 色んな感情に振り回されすぎて、

 もう訳が分からなくなってきた。



 俺ってこんなにメンタル弱かったかな。

 前よりも感情の起伏が激しくなってる気がする。


 ちょっとしたことで泣いて。

 声を震わせて。

 怯えて身体を縮みこませて。



 ーーあの時。



 豚頭の魔物たちに囲まれ、遠慮ない視線で全身を撫で回されたあの時。


 勝てると分かっているのに、

 弱いと感じているのに、

 身体が、感情が、言うことを聞かなくなった。


 気持ち悪い。見ないで。触らないで。やめて。近づかないでーー。

 

 その時、本当の意味で理解した。



 ......あぁ。


 俺って、“女“になっちまったんだなって。

 身体だけじゃなくて、多分、心も。



 自覚なんてしたくなかった。

 鈍感のままでいられれば、

 こんな思いしなくてよかったんだ。

 

 ほら、また性懲りも無く、あの変態が近付いて来る。

 それだけでまた、身体は震え、強張り、みっともなく涙が出る。



 ーーもう嫌だ。

 うんざりだ、本当に。





 女は、顔を上げた。

 涙で濡れたままの目。


 焦点は、合っていない。


 でも、

 その中に。


 さっきまでとは違う、

 別の光が混ざり始めていた。



「……こないで、と......」



 小さく、呟く。



「……いって、ますよね……」



 拳が、

 ゆっくりと握られる。



 その瞬間。



 ズンッ、と。



 周囲一帯の地面が、

 一段、深く沈んだ。

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