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第二十七話 背後の刃

 ザシュッ


 背中に、鋭い衝撃が走った。



「あっ――!」



 体が前にのけぞる。

 肺の中の空気が、一瞬で押し出された。


 熱っっくない...?

 あれ、熱くないわ。


 んー?今一瞬、背中がめっちゃ熱かったんだが。

 

 後ろに手を回して背中を触ってみる。

 うわっ、なんかネチョってした......これ絶対あの豚頭の体液だろ......。


 いや、そんなことはどうでもよくて。


 触ってみても背中に違和感はない。

 なんだったんだ.....?



「ってこれもどうでもいいですわっ!急がないと......っ」



 ーーザザッ



「......」(遠い目)



 ゆっくりと顔を動かして後ろを見る。

 そこに立っていたのは、見慣れない男だった。


 細身の体。

 長いコート。

 月明かりの中でも分かる、赤い瞳。


 手には、細い剣。


 その刃の先に、黒い靄のようなものが揺れていた。


 男は、こちらを見ていた。


 そして――


 なんか、固まっていた。





「……は?」



 男の口から、小さく声が漏れる。


 さっきの一撃は、確実に急所だった。

 深く、確実に、斬り裂いたはずだ。


 血も出た。

 手応えもあった。


 なのに。


 目の前の女は、普通に立っている。

 傷一つ、見当たらない。



「……なんだと」



 思わず、低く呟く。


 女は身体を前に向けたまま、顔だけを動かして男を見ている。


 まるで「いくら攻撃しても無駄だ」と、背中で語るように......。


 そしてその瞳は、男を見ているような、見ていないような。

 男を透かして遠くを見ているような、そんな不思議な目をしていた。





(……終わった、な)



 あぁ、終わった。

 さっきが最後のチャンスだった。

 もう一歩も動けない。


 悟りを開いたような気持ちで、男を見る。

 顔だけ動かして。

 身体は、動かせない。出ちゃうから。


 さっき一瞬熱いって思っとき、こいつ後ろにいたのか。


 多分、こいつになんかされたな。

 あっつい系のやつ。


 普通ならイラつきもするだろうが、今の俺にはなんの感情も浮かばない。



「消えてくださらない......?一人にしていただきたいの......。」

(消えてくれないか?一人にして欲しいんだ......。)



 男はまだ、理解できないという顔をしていた。

 なんて勘の鈍い男だ......。

 いや、俺にイタズラするくらいだから、なんかしら用でもあるんだろうが......。



「生憎ですが、貴方に構っている暇はないの。早く何処かへお行きになって」

(生憎だが、お前に構ってる暇はないんだ。早くどっかに行ってくれ)



 赤い瞳が、俺の背中を、

 何度も確かめるように見ている。

 ちっ、まだ居やがる......。

 くっそ、このままじゃ人前で......。あぁ......。(涙)



「消えなさいっ!私がっ、私の理性が無くなる前に......。お願い......、誰にも、見られたくないの......」

(消えろっ!俺が、俺の理性が無くなる前に......。お願いだ......、誰にも、見られたくないんだ......)



 男が、何かに怯えたように一歩、後ずさる。

 ええぞ!そのまま帰れ!さっさとぉぉおおお!



「......ぁぁぁあぁあぁああああああああああああっ!!!!!!!!!!」


(もう、だめだぁぁぁあぁあぁああああああああああああっ!!!!!!!!!」



 ちんたらすんなてめぇぇぇええええ!



「(殺すぞっ!!!)殺しますわっ!!!」





 男は、いつの間にか居なくなっていた。


 俺は、また一つ、大切なものを無くした。



「ひぐっ......ゔゔぅっ......」

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