第二十七話 背後の刃
ザシュッ
背中に、鋭い衝撃が走った。
「あっ――!」
体が前にのけぞる。
肺の中の空気が、一瞬で押し出された。
熱っっくない...?
あれ、熱くないわ。
んー?今一瞬、背中がめっちゃ熱かったんだが。
後ろに手を回して背中を触ってみる。
うわっ、なんかネチョってした......これ絶対あの豚頭の体液だろ......。
いや、そんなことはどうでもよくて。
触ってみても背中に違和感はない。
なんだったんだ.....?
「ってこれもどうでもいいですわっ!急がないと......っ」
ーーザザッ
「......」(遠い目)
ゆっくりと顔を動かして後ろを見る。
そこに立っていたのは、見慣れない男だった。
細身の体。
長いコート。
月明かりの中でも分かる、赤い瞳。
手には、細い剣。
その刃の先に、黒い靄のようなものが揺れていた。
男は、こちらを見ていた。
そして――
なんか、固まっていた。
*
「……は?」
男の口から、小さく声が漏れる。
さっきの一撃は、確実に急所だった。
深く、確実に、斬り裂いたはずだ。
血も出た。
手応えもあった。
なのに。
目の前の女は、普通に立っている。
傷一つ、見当たらない。
「……なんだと」
思わず、低く呟く。
女は身体を前に向けたまま、顔だけを動かして男を見ている。
まるで「いくら攻撃しても無駄だ」と、背中で語るように......。
そしてその瞳は、男を見ているような、見ていないような。
男を透かして遠くを見ているような、そんな不思議な目をしていた。
*
(……終わった、な)
あぁ、終わった。
さっきが最後のチャンスだった。
もう一歩も動けない。
悟りを開いたような気持ちで、男を見る。
顔だけ動かして。
身体は、動かせない。出ちゃうから。
さっき一瞬熱いって思っとき、こいつ後ろにいたのか。
多分、こいつになんかされたな。
あっつい系のやつ。
普通ならイラつきもするだろうが、今の俺にはなんの感情も浮かばない。
「消えてくださらない......?一人にしていただきたいの......。」
(消えてくれないか?一人にして欲しいんだ......。)
男はまだ、理解できないという顔をしていた。
なんて勘の鈍い男だ......。
いや、俺にイタズラするくらいだから、なんかしら用でもあるんだろうが......。
「生憎ですが、貴方に構っている暇はないの。早く何処かへお行きになって」
(生憎だが、お前に構ってる暇はないんだ。早くどっかに行ってくれ)
赤い瞳が、俺の背中を、
何度も確かめるように見ている。
ちっ、まだ居やがる......。
くっそ、このままじゃ人前で......。あぁ......。(涙)
「消えなさいっ!私がっ、私の理性が無くなる前に......。お願い......、誰にも、見られたくないの......」
(消えろっ!俺が、俺の理性が無くなる前に......。お願いだ......、誰にも、見られたくないんだ......)
男が、何かに怯えたように一歩、後ずさる。
ええぞ!そのまま帰れ!さっさとぉぉおおお!
「......ぁぁぁあぁあぁああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
(もう、だめだぁぁぁあぁあぁああああああああああああっ!!!!!!!!!」
ちんたらすんなてめぇぇぇええええ!
「(殺すぞっ!!!)殺しますわっ!!!」
*
男は、いつの間にか居なくなっていた。
俺は、また一つ、大切なものを無くした。
「ひぐっ......ゔゔぅっ......」




