第二十五話 空の主
空の上。
小型の翼の魔物たちが、ゆっくりと道を開けるように散っていく。
その奥から――
現れた。
大きい。
いや、大きいなんてもんじゃない。
月明かりを遮るほどの、巨大な影。
翼が、一度動くたびに空気が揺れる。
重たい風が、地面まで降りてくるのが分かる。
長い首。
鋭い爪。
ぼろぼろに裂けた皮膚。
ところどころ、肉が落ちて骨が見えていた。
「……なんですの、あれ」
思わず、呟く。
(ドラゴン? トカゲ?)
よく分からない。
でも。
さっきまでの鳥とは、明らかに格が違う。
空にいるだけで、圧迫感がある。
そして――
臭い。
風に乗って、どこか腐ったような匂いが流れてきた。
(うわぁ、なんかヤバそう)
その巨大な影が、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。
目が、濁っている。
生きてるのか、死んでるのか分からないような、
そんな目だった。
「……大きいですわ」
つい、声が漏れる。
その瞬間だった。
巨大な口が、ゆっくりと開く。
喉の奥に、黒い何かが集まっていくのが見えた。
(……ん?)
次の瞬間。
――ゴォォォォォッ!!
空気が裂けた。
風の塊が、一直線に叩きつけられる。
空気そのものがぶつかってくるような衝撃。
「っ――!」
直撃。
体が後ろへ押し出される。
足が地面を削り、土が弾ける。
滑る。
どんどん、押される。
(ちょ、待っ……)
無意識に体を軽くしていたせいで、踏ん張りが効かない。
だから、余計に後ろへ流される。
(あ、これ――)
反射的に、魔法を切った。
――ズドンッ!!
切った瞬間、足が太ももまで地面にめり込んだ。
重さが、一気に戻る。
衝撃は残っている。
でも、吹き飛ばされはしない。
「ぅっ……!」
顔をしかめる。
そして。
遅れて、別のものに気付いた。
「……くっさぁぁぁあああああいっ!?」
思わず鼻に両手を当て、叫んだ。
さっきの風。
ただの風じゃない。
ゲロだ。あいつゲロ吐きやがった。
腐った臭いが、まとわりついてくる。
鼻が曲がりそうだ。
「な、なんですのこの息っ……!」
鼻を摘んだまま、周りを見渡す。
空気が、重い。
どろっとしている感じがする。
さっきブレスが当たった地面のあたり、
黒い霧みたいなものが、薄く残っていた。
(うわ……気持ち悪……)
あんなの身体に当たったの?
最悪すぎるんですけどー......。
恨みがましい視線を元凶に向けるとーー。
そいつはまたゲロを吐き出すところだった。
――ゴォォォォォッ!!
「ぃやぁぁぁぁああああああっ!くっさ、くっっっっっさぁぁぁあああああああいっ!!!」
うわぁぁぁぁぁあああああ!くっさ、臭すぎるぅぅううううううううううううっ!!!
これ、これやばい、無限コンボくらってる、死ぬ、死んでまうっ。
俺は急いで地面から抜け出すと、空へと浮き上がった。
遠距離は「死」。直接殴るっきゃない。
「うぇっ、はぁはぁ......ぅえっ」
自分の身体から漂う悪臭に吐き気を催しながら、俺は巨大トカゲへ突っ込んだ。




