第二十二話 怒りのままに
群れが、一斉に襲いかかってきた。
地面が揺れる。
唸り声。
足音。
濁った息。
すべてが、月明かりの中で一気に押し寄せてくる。
だが――
(……もう、怖くない)
さっきまで感じていた気持ち悪さも、戸惑いも、全部。
今は、胸の奥でぐつぐつと煮えたぎる何かに押し流されていた。
怒りだ。
ただ、それだけだった。
「……全員、まとめて相手して差し上げますわ」
自分でも驚くくらい、声が静かだった。
次の瞬間。
地面を蹴る。
――ドンッ!!
踏み込んだ足元の土が、弾けるように沈んだ。
体が、一直線に前へ出る。
最初に飛び込んできた狼型の魔物を、横から殴りつける。
ドゴッ!!
首が曲がり、そのまま地面に叩きつけられた。
(軽い)
軽すぎる。
前に戦ったときよりも、ずっと。
次の瞬間には、小鬼が二体、三体と腕に、胴にとしがみついてくる。
――この変態どもが......気色悪ぃ!
腕を振り、勢いそのままに身体を横に回転させる。
それだけで、小鬼の体がまとめて宙を舞った。
バキッ!
ゴッ!
回転したまま蹴りを繰り出せば、何かが砕ける音が連続で響いた。
「邪魔ですわ!!」
声と同時に、前へ踏み込む。
豚頭の魔物が、腕を振り上げて突っ込んできた。
その拳を、正面から受け止める。
ドンッ!!
衝撃が、腕から肩へと伝わる。
だが。
「......効きませんわ。」
むしろ。
(身体が、軽い)
前より、明らかに。
身体が、思い通りに動く。
力が、勝手に出る。
ぐっと、腕に力を込める。
ギシッ、と豚頭の拳が軋む。
そのまま引き寄せて――
ドゴォッ!!
飛び上がり、にっくき豚頭に膝蹴りをぶち込む。
おまけに後ろ回し蹴りもプレゼントすれば、巨体は勢いよく後ろへ吹き飛び、後続の魔物を巻き込んで転がっていった。
完全にオーバーキルだが、あいつはダメだ。
(アレだけは、絶対に許さない)
息が荒い。
心臓が、ドクドクと音を立てている。
でも。
疲れている感じは、全然しない。
(むしろ、動きやすい)
全身が、熱い。
血が巡っているのが、はっきり分かる。
背後から飛びかかってきた小鬼に、振り向きざま肘を打ち込む。
素早く接近し噛み付いてこようとする狼に、足を振り上げ踵落としをくらわす。
二体で左右から抱きついてこようとする変態豚頭どもに、飛び上がって180度開脚。それぞれの顔面を蹴りで粉砕する。
息つく暇もないほど魔物どもは襲いかかってくるが、全て余裕で対応できるくらいに身体が動く。
(なんか、今の俺......)
「最高に、調子良いですわ」
一つ一つの動作を考えている余裕はない。
前から。
横から。
後ろから。
魔物は、途切れない。
だが。
(負ける気が、しねぇ)
口の端が、少しだけ上がった。
*
ドゴッ!!
ドンッ!!
バキッ!!
音が、途切れない。
気づけば、足元は魔物の体で埋まり始めていた。
だが、まだ来る。
まだ、止まらない。
(……めんどくせぇな)
どんだけいんだよこいつら......と、うんざりしながら小さく息を吐く。
その時。
視界の端に、最近では見慣れたトレーニング道具が転がっているのが見えた。
――岩。
さっき、吹き飛ばした魔物がぶつかって崩れたのか。
俺の身長の倍はある大きい塊が、地面に転がっている。
(……あ)
ふと、思う。
(あれ、使えるな)
殴る蹴るだけじゃ、数が多すぎる。
あいつらの臭い体液を浴び続けるのもうんざりしてきた。
だったら。
(まとめてやった方が早いか)
懲りずに抱きつこうとしてきやがった豚頭を蹴りで粉砕し、俺は岩まで移動。
「このままでは、少々使いづらいですわね」
まずは岩の角張ったところを数ヶ所拳で砕き、なるべく球体に近くなるようにする。
準備は整った!(岩を少し砕いただけ)
それでは、これから......
「大玉転がしを、開始いたしますわっ」




