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第ニ十一話 月下の乱戦

 地面を蹴った瞬間、体が一気に前へ出た。


 夜気が、肌を叩く。

 月明かりが、森の影を白く切り裂いている。


 目の前には――魔物の群れ。


 小鬼。

 狼。

 豚頭。


 大小様々な影が、地面を埋め尽くすようにうごめいていた。



「……本当に、多いですわね」



 思わず口に出た。

 だが、立ち止まる理由はない。

 そのまま、真正面から突っ込む。


 最初に飛びかかってきた小鬼を、拳で迎え撃った。

 まずは一発......!


 ドゴッ!!


 骨が砕ける感触が、拳越しに伝わる。

 軽い。拍子抜けするほど。



(……えっ、よわ)



 振り抜いた腕の勢いのまま、次の一体を蹴り飛ばす。


 バキッ!


 体が宙を舞い、後ろの魔物にぶつかってまとめて転がる。

 足元に、さらに数体が群がってくる。


 蹴る。

 踏む。

 殴る。


 肉が裂ける音。

 骨が折れる感触。

 ぬるい飛沫が、足元に散る。


 戦いは既に一方的と言ってもいいほど。

 順調、なはずなんだが――



(……なんか、変だな)



 魔物たちの動きが、妙だった。


 ただ襲いかかってくるだけじゃない。

 じり、じり、と距離を詰めてくる。


 囲むように。

 逃がさないように。


 荒い呼吸音が、あちこちから聞こえる。

 ぶしゅう、と湿った鼻息。

 低く濁った唸り声。


 そして――血走った目。


 妙に、粘つく。



(……?)



 殴りながらも一瞬、手が止まりかける。

 なんだこいつら。動きが、おかしい......?


 周囲の魔物をひとしきり殴り飛ばし、俺の周りだけ魔物がいなくなる。


 その時魔物の群れの中から、豚頭の一体がよだれを垂らしながらにじり寄ってきた。


 今までのヤツらより少しデカい。

 目が、妙にギラついている。


 その視線が、顔じゃなくて――身体の方を舐めるように見ているのに気づいた。


 胸、そしてーー。



「......はぃ?」



 完全に手が止まる。

 視線をゆっくりと下に向け、自分の身体を見下ろす。


 月明かりに反射した、一切なにも身に纏っていない、俺の体。


 ドクンドクンと、心臓の音がやけに大きく聞こえる。



(……まさか)



 一瞬、理解が遅れて。


 ある可能性に行き着いた俺は、唖然としながら目の前の豚頭にもう一度目を向けた。


 

 ーー反応していた。


 ある部分が、盛大に。



「あ......え......?」



 頭が、うまく働かない。

 こいつら、俺のことを″そういう目″で見てるってこと、か......?


 思わず一歩、後ずさる。



(いや、俺は男で、いや体は女だけど、は?俺に反応してる?なんで?は?)



 動揺のあまり、体が固まった。

 


 そんな俺の様子に構うことなく、豚頭はジリジリと俺との距離を詰めてくる。

 

 気付けば、周囲は再び小鬼どもに囲まれていた。

 

 どいつもこいつも、俺を、俺の裸を見て、「興奮」していやがる。


 言いようのない不快感が、波のように押し寄せてくる。



「い、嫌...来ないでっ!(い、嫌だ...来るなっ!)」



 密集した魔物どものむせ返るような体臭で、息が詰まる。


 遠慮なく、俺の身体を舐めまわす、ギラついた目。

 ニタニタと、下卑た表情。

 

 ぞわっ、と全身が粟立った。



(気持ち悪りぃ......!こいつら、俺を......!)



 反射的に、両手で身体を隠す。

 戦っている最中なのに、そんな女みたいなことをしている自分に戸惑う。

 ゾワゾワと全身を這いずりまわる不快感に、涙さえ出てきた。



 そして、


 豚頭の伸ばした汚らわしい手が、


 俺の身体に触れーー



「っきゃぁぁぁぁあああああっ!!(っうわぁぁぁぁああああああっ!!)」



 次の瞬間、目の前の豚頭を思い切り殴り飛ばした。


 ドガッ!!


 頭が潰れ、体が後ろへ倒れた。

 俺を囲んでいた小鬼どもも、豚頭を殴り倒した勢いに押され距離をとる。



 一瞬の空白。



 次の瞬間にはまた、群がってくるだろう。

 ーー俺の体を求めて。


 まだ、あの気持ち悪い視線が身体に纏わりついているようだ。

 豚頭を殴り飛ばしてなかったら、今頃、俺は......。



「はぁはぁ、はぁ......うぅっ。......許しませんわ、絶対に、んぐっ、絶対に許しっ、ません......!!」



 腕で乱暴に涙を拭い、俺を取り囲む魔物の群れを睨みつける。

 

 この、変態どもが......!


 怒りで視界が真っ赤に染まった。

 

 次の瞬間。

 さっきとは別の、あの気色悪い豚頭が、腕を振り上げてきた。


 ドンッ!!


 その拳を、正面から受け止める。


 地面が沈む。

 足元の土が、めり込む。


 だが、



「効きませんわ......。」



 怒りパワーマックスの今の俺には、これっぽっちも効かない。


 力を込める。

 ぐっと踏み込み、逆に押し返す。

 オークの腕が、ぐにゃりと曲がった。


 そのまま体を引き寄せて――


 ドゴォッ!!


 腹に拳を叩き込む。

 巨大な体が、後ろへ吹き飛んだ。


 ......いつも以上に力が出てる気がする。

 本当に怒りで力が増しているようだ。


 いや、そんなことはどうでもいい。


 今は――


 この変態どもを、一匹残らず、ぶっ潰す。



 四方から、魔物が押し寄せてくる。


 地面が揺れる。


 月明かりの中、影がうごめく。


 息を吸う。


 ゆっくり、吐く。



「……来なさい」



 次の瞬間。


 群れが、一斉に襲いかかってきた。

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