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第十七話 投げるという技術

 岩場に通うのが、すっかり日課になっていた。


 朝、軽く体を動かしてから空を飛ぶ。

 森を抜けて山の麓まで移動。

 そこでひたすら岩と格闘する。


 それだけの毎日だ。



(……この辺、地形もだいぶ覚えたな)



 上空から見下ろす森は、もう知らない景色じゃない。


 大きな川の位置。

 崖のある場所。

 開けた草地。

 そして、この岩場。


 目印になる地形が頭に入ってきて、移動もかなり楽になった。


 ゆっくりと降下して、地面に足をつける。

 着地も、だいぶ安定してきた。


 最初は盛大にやらかして湖に落ちたりもしたが、今は高度の調整もある程度できる。



(空飛ぶの、だいぶ慣れてきたな)



 少しだけ、横に滑るように移動してみる。

 重力の向きを、ほんの少しだけ変える。

 体が、すっと流れる。



(……おお、いい感じ)



 止まる。

 また少し動く。

 ゆっくり。

 慎重に。


 暴発させないように、細かく調整する。



(前みたいにぶっ飛ぶのは、もう勘弁だからな……)



 あの時の恐怖を思い出して、背筋が少し寒くなる。

 深呼吸して、地面に降り立った。





 今日の相手は、少し大きめの岩だ。

 両手で抱えると、ずっしりと重い。



(持ち上げるのは慣れたな)



 肩に担いで、数歩歩く。

 問題ない。

 前よりも安定している。



(……でも)



 ふと、思う。


 持ち上げるだけじゃ、あまり意味がない気がした。



(なんか、負荷が足りねぇな)



 肩に担いで、持ち上げて、下ろす。

 それを繰り返す。


 それなりに重い。

 それなりにきつい。


 でも――



(慣れてきたな、これ)



 体が重さを覚えてきている。


 同じ動作を続けるだけだと、効きが鈍くなる。

 確かなんかのテレビでやってた気がする。



(違う動き、入れた方がいいか……)



 持ち上げるだけじゃなくて、

 体をひねる動きとか、

 一気に力を出す動きとか。



(……投げるか?)



 瞬発力も使うし、

 腕も、肩も、腰も、全部使う。


 たぶん、こっちの方がキツい。



(よし、やってみるか)



 単純な発想だった。


 岩を両手で持ち、少し後ろに引く。


 体をひねる。


 そして、前に振り抜く。



「はぁっ!」



 ゴッ、と鈍い音を立てて、岩が飛んだ。

 だが。



(……全然伸びねぇ)



 すぐに地面に落ちた。

 距離にして、せいぜい数メートル。



(なんか、力が分散してる感じするな)



 持ち上げるのとは違う。

 投げるって動きは、

 腕だけじゃなくて、足も腰も使う。



(全身、ちゃんと使えてねぇのか?)



 もう一度、構える。

 今度は意識してみる。


 足を踏み込む。

 腰をひねる。

 肩を回す。

 腕を振る。



「っ、はぁあっ!」



 さっきよりは飛んだ。

 だが、まだ感覚がバラバラだ。



(なぁんか、しっくり来ねぇな……)



 息を整えながら、もう一度動きを思い返す。

 持ち上げる時とは違う筋肉を使っているのは分かる。

 でも、どこか噛み合っていない。



(瞬間的に、力をまとめられてねぇ感じか?)



 振り抜く瞬間。

 そこだけ、妙に力が逃げる気がする。



(……なんか、最後で減速してる?)



 だったら。



(前に、引っ張ってやればいいのか?)



 ほんの一瞬だけ。

 腕の動きに合わせて、前方向に重力をかけてみる。


 重くする、というより――

 腕ごと前に引き出されるような感覚。



「っ!」



 投げた瞬間。


 ――ヒュンッ


 音が変わった。


 岩が、さっきよりずっと伸びていく。

 ドォン、と遅れて地面にぶつかる音が響いた。



(……おお)



 思わず目を見開く。



(力、ちゃんと乗ってたな今)



 遠くに飛ばすのが目的じゃない。


 でも。


 さっきよりも、体の動きが一つにまとまった感覚がある。



(今の、悪くねぇな)



 もう一度、岩を持ち上げる。


 同じように構えて、

 振り抜く瞬間だけ、重さを少しだけ乗せる。



「せぃやっ!」



 ヒュンッ!



(あ、今のもいい感じだ)



 飛距離より、

 体の中の“つながり”が分かりやすい。


 どこで力が逃げてるか、

 どこで噛み合ったか。



(これ、感覚掴むのにちょうどいいな)



 次は、小さめの岩を拾う。

 軽い。

 その分、回数をこなせる。



(数投げた方が、体に覚えさせやすいか)



 投げる。

 拾う。

 また投げる。


 動きを何度も繰り返す。



(……おもしれぇな、これ)



 どこまで伸びるかというより、

 どこまで綺麗に力を乗せられるか。

 それが、少しずつ分かってきていた。


 持ち運びも楽だ。

 地面を見回す。

 岩だらけだ。



(ここ、いい場所だな……)



 持ち上げる練習もできる。

 投げる練習もできる。


 しばらく、夢中になって投げ続けた。


 大きい岩。

 小さい岩。


 遠くに。

 少し上に。

 横に。


 重力のかけ方を変えて、飛び方を試す。



(……ちょっとずつ、分かってきたな)



 投げる瞬間だけ。

 ほんの少しだけ。

 強くしすぎない。


 それだけで、全然違う。





 休憩がてら、空に浮かぶ。

 少しだけ上昇して、岩場を見下ろす。



(この辺、ほんとに岩だらけだな)



 ゴロゴロと転がっている。

 大小さまざま。



(……転がすのも、ありか?)



 ふと、思う。

 大きい岩を、押して落とす。

 それだけでも、結構危ないんじゃないか。



(まあ、今はいいか)



 ゆっくり降りる。

 地面に着地。

 もう一度、岩を持ち上げる。



(投げる、か……)



 さっきより、体の動きが馴染んできている気がする。

 肩も、腰も、自然に動く。


 ぐっと力を込める。

 体の奥が、ほんの少しだけ熱くなった気がした。



(……?)



 だが、それも一瞬で消える。



(まあ、疲れてるだけか)



 深く考えず、また岩を投げる。

 ヒュンッ、と空気を裂く音が、森の奥へ消えていった。





■ステータス項目説明


階位かいい


存在そのものの格を示す指標。

魔物討伐などの実戦経験を積むことで上昇し、上がるほど全能力が大きく伸びやすくなる。


I → II → III → … と段階的に上がっていく。

一般人はほぼ I のまま一生を終える。

Sランク級の存在は VII~VIII に到達することもある。


※数値とは別の「成長倍率」のようなもの。



■体力


持久力・回復力・生命力の総合値。

高いほど長時間戦えるほか、怪我からの回復も早くなる。



■魔力


体内に蓄えられる魔力の総量。

魔法の威力・使用回数・持続時間に影響する。


魔法適性がない者は、ほぼ伸びない。



■力


純粋な筋力・破壊力。

殴る、持ち上げる、投げるなどの物理行動の強さに直結する。



■防御


肉体の硬さ・耐久力。

打撃・衝撃・刃物・落下などへの耐性に影響。



■素早さ


瞬発力・移動速度・反応速度の総合値。

高いほど回避や接近戦で有利になる。



■器用さ


細かい動作の精密さ。

武器の扱い、工作、手先の技術などに影響する。


基本的には生まれ持った資質に左右されやすく、大きく伸ばすのは難しい。

ただし、身体操作の精度を極限まで鍛え続けることで、わずかに向上することもある。



■賢さ


思考力・理解力・判断力。

戦術構築、魔法制御、知識習得の速さに影響。


こちらも資質に依存する部分が大きいが、経験や環境によって思考の質が変化し、結果として数値が伸びる例も稀に存在する。



■能力値について


能力値は訓練や経験で少しずつ上昇する。

ただし、階位が上がると既存の数値がまとめて底上げされるため、

元の数値が高い者ほど成長の伸び幅も大きくなる。

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