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第十六話 重さの限界と、よく分からない力

 岩場に通い始めて、数日が経った。


 最初は拳大だった石も、

 今では抱えるほどの岩を軽々と持ち上げられるようになっている。



(……慣れってすげぇな)



 両手で岩を持ち上げる。


 ずっしりとした重み。

 だが、もう苦しくはない。


 肩に乗せて、ゆっくりと屈伸する。



(これくらいなら、まだ余裕あるな)



 地面に置き、少しだけ息を整える。


 森の中は静かだ。

 風の音と、鳥の声だけが聞こえる。



(……もっと重くしてみるか)



 ふと、そんな考えが浮かんだ。


 今までは、自分の体に重力をかけて鍛えていた。

 だが、この岩にも重力をかけたらどうなるだろう。


 単純な話だ。

 重くなる。



(面白そうだ)



 岩に手を置き、意識を集中する。

 ゆっくりと、重力を上乗せする。

 じわり、と腕に負荷がかかった。



(お、いい感じ)



 さらに少しだけ重くする。

 腕が沈む。

 足元の地面が、わずかに軋む。



(……まだいける)



 ぐっと歯を食いしばり、持ち上げる。

 さっきまで軽々だった岩が、急に存在感を増した。



(おお……これだこれ)



 重い。

 でも、持てないほどじゃない。


 腕が震える。

 背中の筋肉が張る。



(これくらいじゃないと、鍛えた気しねぇよな)



 さらに、重力を強めた。

 その瞬間。


 ――ドンッ


 足元が沈んだ。



(……ん?)



 次の瞬間、岩が一気に重さを増した。

 腕が、潰れる。



「っ……!」



 反射的に力を込める。

 だが、重い。

 さっきまでとは、比べものにならない。



(ちょ、かけすぎたか……?)



 重力を戻そうとする。

 だが、焦ってうまく調整できない。

 岩の重さが、さらに増す。


 膝が沈む。

 地面がひび割れる。



「うぎっ......(やべぇ……これ……)」



 腕が軋む。


 肩が悲鳴を上げる。



「......ぅぁぁぁああああ!」


(このままじゃ、潰れる……!)



 咄嗟に、全身に力を込めた。

 ただ、持ち上げるために。

 押し返すために。


 それだけだった。


 ――ぶわっ


 体の奥から、何かが溢れた気がした。



「ほぁ......?」



 熱い。


 体が、妙に軽い。


 さっきまで潰れそうだった岩が、

 急に持ち上がった。



(……あれ?)



 そのまま、持ち上げてしまう。

 肩まで担ぎ上げる。



(なんだ今の……)



 岩を地面に落とす。

 ドン、と鈍い音が響いた。


 ハァハァと荒い息を整え、冷や汗を拭う。

 危うく、自分の魔法が原因で潰されるところだった。


 最初に飛んだ時も自分の魔法が原因で死にかけ、今回もまた、自分の魔法で死にかけるという間抜けっぷり。

 自分の間抜けさに涙が出そうだ。



「でも今回は漏らしてな......」ピチャッ



 ......。


 汗、だよな。うん、これは汗。

 だって全身汗だくだし。


 ね?


 ......ピチャッ



「......漏らしてないからセーフですわっ!」



 俺は振り返らない......前だけ見つめて歩いていくんだ......!


 気持ちを切り替え(涙を拭いて)、先ほどの不可解な力について考えてみる。


 明らかに限界を超えていた。

 それなのに。



(……急に力が出た?)



 試しに、もう一度岩を持ち上げる。

 さっきより、軽く感じる。



(……なんだこれ)



 体が、熱い。

 血が巡っている感じがする。


 拳を握る。

 ギュッ、と音が鳴る。



(……気のせいか?)



 よく分からない。

 ただ――



(なんか、元気だな)



 それだけは、確かだった。


 肩を回す。

 背中を伸ばす。

 さっきまでの疲れが、妙に引いている。



(まあ、いいか)



 深く考えるのはやめた。

 持てるなら、持てるうちに鍛えるだけだ。

 今度は、岩を持ち上げたまま歩く。


 一歩。

 二歩。


 足元の地面が沈む。



(……重いな)



 でも、さっきより踏ん張れる。

 歩いて、下ろして、また持ち上げる。

 何度も繰り返す。


 体の奥に、さっきの熱がまだ残っている気がした。



(これ、いいな)



 筋肉が、ちゃんと使えてる感じがする。

 重さに負けないように、自然と全身に力が入る。



(さっきの感じ、もう一回出せねぇかな)



 少しだけ、意識してみる。

 体に力を込める。


 だが――



(……出ねぇな)



 何も起きない。

 さっきみたいな感覚も、ない。



(まあ、いっか)



 偶然だろう。

 たまたま、踏ん張れただけだ。

 そう思いながら、岩を持ち上げる。


 夕日が、森を赤く染めていく。

 影が長く伸びる。


 気付かないうちに、

 体の周りに、うっすらと揺らめく空気が生まれていた。


 陽炎のように、ゆらゆらと。

 だが本人は、そんなものに気付くはずもなく。



「よし……もう一回ですわ」



 ただ黙々と、岩を持ち上げ続けていた。

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