幕間 エルフの里の裏側と、小さな違和感
客人が装備を受け取った後。
里の一角、木の幹をくり抜いて作られた工房の奥で、数人のエルフが静かに話していた。
そこには、里長と装備担当のエルフがいる。
そして、入口の外には――
弓を背負った青年が一人、壁にもたれるように立っていた。
リヴァル・ルーヴェン。
中の会話が、気にならないはずがなかった。
盗み聞きするつもりはない。
ただ、足が離れなかった。
*
「……本当に、あの方に“この程度の装備”を渡してよろしいのですか?」
装備担当が、小さく声を落とす。
言葉は慎重だが、その目は真剣だった。
里長は、少しだけ考えてから頷いた。
「構いません」
短く、はっきりと。
「むしろ――あの方が“これでいい”と望まれるなら、それが一番です」
「……望まれる?」
「目立たぬものを、と仰っていましたから」
里長の視線が、床へと落ちる。
そこには、白い木刀が静かに横たえられていた。
机には置けない。
重すぎるからだ。
床に直接、そっと置かれている。
それでも、床板はわずかに軋んでいた。
「……やはり、あれは」
装備担当の声が、少し震える。
「触れるだけで分かります。あの剣の重さは、普通ではありません」
里長は、静かに目を閉じた。
「ええ」
「森の核に、近いものです」
それ以上は、言わなかった。
*
「ですが」
装備担当は、まだ迷っているようだった。
「もっと、強い装備を用意することもできました。護符も、軽減の術式も、いくらでも」
里長は、ゆっくり首を振る。
「……あの方は、それを望んでいません」
「……」
「分かるのです。力を誇る者ではない」
少しだけ、微笑む。
「“普通でいたい”方です」
その言葉に、装備担当は黙り込んだ。
しばらくして、小さく息を吐く。
「……では、あのベルトだけでも」
「十分です」
「聖剣の重さを少しだけ和らげる程度のものですし」
「それでいいのです」
里長は頷いた。
「支えるためのものは、あってもいい」
*
外で聞いていたリヴァルは、そっと視線を落とした。
(……あの人は)
あの装備が、特別なものであること。
あの剣が、普通ではないこと。
きっと、何も知らない。
ただ。
動きやすいから。
軽いから。
それだけで、喜んでいる。
(……やはり、変な人だ)
だが。
嫌な意味ではなかった。
*
一方その頃。
別の部屋では。
凪が、新しく渡された下着と格闘していた。
「……これで、付け方は合っているのでしょうか」
柔らかい。
やたらと体に密着する。
動きやすいのは分かる。
だが――
「うーん、やはり違和感がありますわね......。」
胸元の感覚が、妙に落ち着かない。
支えられて固定されている感じはする。
だが今まで付けてなかった分、締め付けられてるのが窮屈に感じてしまう。
「……これ、必要ですの?」
ぼそっと呟く。
だが、少し動いてみると。
走る。
腕を振る。
跳ぶ。
――確かに、邪魔にならない。
むしろ胸が動かない分、煩わしさが減ってる気がする。
(ほー、確かにこれは合った方がいいな)
と感心しながら、次は蹴り上げなどの足を使った動作をしてみる。
すると、今度はパンツがお尻に食い込み、新たな違和感が生まれる。所謂PKってやつ。
「……なぜ、女性の下着はこんなに小さいのでしょう?」
女の人たちは気にならないのだろうか。
俺はすごく気になる......。
食い込んだパンツを直しながら、下は男物にしてくんないかな......とため息をついた。
(厚意で貰ってるもんに文句なんか言えるわけ無いけどな...)
まあ、そのうち慣れるだろう......。
*
工房の外。
リヴァルは、ゆっくりと顔を上げる。
ちょうどその時、部屋の扉が開いた。
中から出てきた凪と、目が合う。
「……あ」
ほんの一瞬だけ、仮面を付けていない顔が見えた。
すぐに、付け直される。
何事もなかったように、歩いていく。
「……」
リヴァルは、何も言わなかった。
ただ、少しだけ姿勢を正した。
(……案内役、か)
自分の役目を、思い出す。
あの人は、きっとまた森へ戻る。
里に留まるような人じゃない。
風みたいに来て、
風みたいに去っていく。
そんな気がした。
リヴァルはしばらくその背中を見送り、
やがて何も言わず、持ち場へと戻った。




