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幕間 エルフの里の裏側と、小さな違和感

客人が装備を受け取った後。


 里の一角、木の幹をくり抜いて作られた工房の奥で、数人のエルフが静かに話していた。


 そこには、里長と装備担当のエルフがいる。


 そして、入口の外には――

 弓を背負った青年が一人、壁にもたれるように立っていた。


 リヴァル・ルーヴェン。


 中の会話が、気にならないはずがなかった。


 盗み聞きするつもりはない。

 ただ、足が離れなかった。





「……本当に、あの方に“この程度の装備”を渡してよろしいのですか?」



 装備担当が、小さく声を落とす。

 言葉は慎重だが、その目は真剣だった。


 里長は、少しだけ考えてから頷いた。



「構いません」



 短く、はっきりと。



「むしろ――あの方が“これでいい”と望まれるなら、それが一番です」


「……望まれる?」


「目立たぬものを、と仰っていましたから」



 里長の視線が、床へと落ちる。

 そこには、白い木刀が静かに横たえられていた。


 机には置けない。

 重すぎるからだ。

 床に直接、そっと置かれている。

 それでも、床板はわずかに軋んでいた。



「……やはり、あれは」



 装備担当の声が、少し震える。



「触れるだけで分かります。あの剣の重さは、普通ではありません」



 里長は、静かに目を閉じた。



「ええ」


「森の核に、近いものです」



 それ以上は、言わなかった。




「ですが」



 装備担当は、まだ迷っているようだった。



「もっと、強い装備を用意することもできました。護符も、軽減の術式も、いくらでも」



 里長は、ゆっくり首を振る。



「……あの方は、それを望んでいません」


「……」


「分かるのです。力を誇る者ではない」



 少しだけ、微笑む。



「“普通でいたい”方です」



 その言葉に、装備担当は黙り込んだ。


 しばらくして、小さく息を吐く。



「……では、あのベルトだけでも」


「十分です」


「聖剣の重さを少しだけ和らげる程度のものですし」


「それでいいのです」



 里長は頷いた。



「支えるためのものは、あってもいい」





 外で聞いていたリヴァルは、そっと視線を落とした。



(……あの人は)



 あの装備が、特別なものであること。

 あの剣が、普通ではないこと。

 きっと、何も知らない。


 ただ。


 動きやすいから。

 軽いから。

 それだけで、喜んでいる。



(……やはり、変な人だ)



 だが。


 嫌な意味ではなかった。





 一方その頃。

 別の部屋では。


 凪が、新しく渡された下着と格闘していた。



「……これで、付け方は合っているのでしょうか」



 柔らかい。

 やたらと体に密着する。

 動きやすいのは分かる。


 だが――



「うーん、やはり違和感がありますわね......。」



 胸元の感覚が、妙に落ち着かない。


 支えられて固定されている感じはする。

 だが今まで付けてなかった分、締め付けられてるのが窮屈に感じてしまう。



「……これ、必要ですの?」



 ぼそっと呟く。


 だが、少し動いてみると。


 走る。

 腕を振る。

 跳ぶ。


 ――確かに、邪魔にならない。

 むしろ胸が動かない分、煩わしさが減ってる気がする。



(ほー、確かにこれは合った方がいいな)



 と感心しながら、次は蹴り上げなどの足を使った動作をしてみる。


 すると、今度はパンツがお尻に食い込み、新たな違和感が生まれる。所謂PKってやつ。



「……なぜ、女性の下着はこんなに小さいのでしょう?」



 女の人たちは気にならないのだろうか。

 俺はすごく気になる......。


 食い込んだパンツを直しながら、下は男物にしてくんないかな......とため息をついた。



(厚意で貰ってるもんに文句なんか言えるわけ無いけどな...)



 まあ、そのうち慣れるだろう......。





 工房の外。


 リヴァルは、ゆっくりと顔を上げる。


 ちょうどその時、部屋の扉が開いた。


 中から出てきた凪と、目が合う。



「……あ」



 ほんの一瞬だけ、仮面を付けていない顔が見えた。


 すぐに、付け直される。


 何事もなかったように、歩いていく。



「……」



 リヴァルは、何も言わなかった。


 ただ、少しだけ姿勢を正した。



(……案内役、か)



 自分の役目を、思い出す。


 あの人は、きっとまた森へ戻る。

 里に留まるような人じゃない。


 風みたいに来て、

 風みたいに去っていく。


 そんな気がした。


 リヴァルはしばらくその背中を見送り、

 やがて何も言わず、持ち場へと戻った。


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