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第十話 忘れられない泣き顔

 アルヴェリア王国、王都。


 石畳を踏みしめながら、ガルド・レオンハルトは静かに息を吐いた。


 結局、収穫は何もなかった。


 謎の新属性の手掛かりも。

 世界が認めたという“頂点”の痕跡も。


 辺境の街リムネアまで足を運び、聞き込みもした。

 冒険者ギルドにも顔を出した。

 それでも、何一つ掴めなかった。



(……まあ、そう簡単に見つかるもんでもないか)



 そう自分に言い聞かせる。


 本来なら、とっくに王都へ戻っているはずだった。

 だが――


 あの出来事のせいで、予定が少しだけ狂った。


 地下訓練場での、あの一件。


 天井が砕け、人が落ちてきて。

 放った自分の一撃が、直撃した。


 普通なら、即死。


 なのに。


 ――生きていた。



(……なんだったんだ、あれは)



 自然と、足が止まる。


 思い出すのは、あの光景だ。


 土煙の中。

 地面に半分めり込んだ、小さな体。


 黒髪の少女。


 そして――


 涙。



(……)



 頭を振る。


 考えるべきは、そこじゃない。


 あの少女が何者だったのか。

 なぜ無傷だったのか。


 それを確かめるため、ガルドはあの後、すぐに動いた。





 まずは、受付へ戻った。


 床には大穴。

 ギルド内はまだ騒然としていた。


 青ざめた顔の受付嬢を見つけ、個室を借りて話を聞いた。


 ミリア・フェルナー。


 この街の冒険者ギルドの受付嬢で、ギルドの“顔”のような存在らしい。


 震える声で、彼女は説明した。


 仮面の人物が来たこと。

 毛皮を纏っていたこと。

 裸足だったこと。

 若い男の声だったこと。


 そして――



「……ずっと、魔法を使っていたみたいで」


「魔法?」


「はい。常時発動している感じで……でも、理由が分からなくて」



 ガルドは黙って聞く。



「止めるように言ったんですけど、“切ったら体重がどうこう”って……」


「体重?」


「はい……床が抜ける、とか……」



 意味が分からない、という顔だった。


 ガルドも同じだった。



「それで、アンチマジックの杖で……」



 その先は、もう知っている。


 魔法が解除されて。

 床が抜けて。

 落ちてきた。



(体重……? しかも男の声、だと?)



 あの体を思い出す。


 細くて、小さくて。

 どう見ても、普通の少女だった。


 落ちてきた時も。

 目が合った時も。

 泣いていた時も。



(……男には、見えなかったが)



 喉の奥で、小さく息を吐く。


 だが、嘘をついているような受付嬢でもなかった。


 それに、床をぶち抜くほどの体重...。



(……ありえん)



 だが、実際に床は抜けた。


 ガルドは受付嬢に礼を言い、部屋を出た。





 次に向かったのは、街の門だった。


 あの少女が街に入ったなら、必ず通る場所。

 門番はすぐに見つかった。



「毛皮の仮面の奴ですか?」



 話は早かった。



「昨日、来たばっかりです。森で暮らしてたとか言っていましたね」



 ガルドはさりげなく尋ねる。



「手は見たか?」


「手?」


「魔法陣があったかどうかだ」



 門番は少し考えてから、首を振った。



「いや。特に何もありませんでした」


「……そうか」



 胸の奥が、わずかに沈む。


 新属性の持ち主なら、手の甲に印が刻まれるはずだ。


 それがないということは――



(……別人か)



 そう、結論づけるのが自然だった。



「水晶も反応しませんでしたし、普通の流れ者かと」



 門番はそう言って、肩をすくめた。


 ガルドはそれ以上、何も聞かなかった。





 そして今。


 王都へ戻り、ようやく一息ついたはずなのに。



(……忘れられん)



 思考の隙間に、ふっと入り込んでくる。


 あの瞬間の光景。


 目が合った瞬間。

 飛び起きて。

 仮面を拾って。


 そして。


 ――泣いていた。



(……)



 新属性の持ち主ではなさそうだ。

 魔法陣もなかった。

 ただの流れ者の可能性が高い。


 なのに。



(なんで、無傷だった)



 あの一撃を、まともに受けて。


 普通の少女が、生きていられるはずがない。


 それに。



(……あの重さ)



 殴った瞬間の、あの感覚。


 手応えは、確かにあった。


 だが、どこかおかしかった。


 まるで。



(……岩を殴ったみたいだったな)



 あの華奢な体で?


 ありえない。


 ありえないはずなのに。


 頭の中で、答えが出ないまま同じ考えがぐるぐると回る。


 だが最後に残るのは、いつも同じだった。


 理屈じゃない。


 疑問でもない。


 ただ一つ。


 あの時の――


 泣き顔。



(……弱そうだったな)



 ぽつりと、呟く。


 守ってやらなきゃならないような。

 そんな、か弱い泣き方だった。


 それなのに。



(なんで、無傷なんだ……)



 理解が追いつかない。


 分からないことだらけだ。


 だが一つだけ、はっきりしていることがある。



(……もう一度、会うかもしれんな)



 理由はない。


 根拠もない。


 それでも、なぜかそう思った。


 そしてその予感は、

 自分でも気付かないうちに、胸の奥に残り続けていた。


 黒髪の、あの少女の――

 忘れられない泣き顔と一緒に。

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