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第九話 落ちてきた少女

 その頃。


 受付から階段を降りた先、訓練場。

 そこに一人、男が立っていた。


 武技ギルドSランク【力】

 ガルド・レオンハルト。



(……やはり手掛かりは、なしか)



 謎の新属性。

 世界が認めた、新たな頂点。


 それを探すため、この辺境の街リムネアまで来たが、聞き込みをしてもそれらしい情報は一切なし。

 冒険者ギルドであれば何かしらの情報があるかもしれないと足を向けてみたが、そちらも結局空振りだった。



(はぁ......俺は魔物どもをぶん殴る方が性に合ってるんだがな...)



 ーーSランクといえば謂わば生きる伝説。


 そんな人物が居れば人が集まってくるのは必然で、その分情報は集めやすかったが、人の波に揉まれたガルドは少し辟易していた。


 気分転換に体を動かしたくなったガルドは、『情報を整理したい』とギルドへ掛け合い、少しの時間地下の訓練場を貸切にしたのだった。



「ふぅぅ...時間も限られてるし、いっちょやるか。」



 ガルドの周りには現在、赤いオーラのようなものが陽炎のように揺らめいている。


 ーー闘気。『身体強化』を始めとした武技を扱う際に必要となる、魔力とは別の生命エネルギー。


 本人の努力次第で誰でも扱うことができるこの闘気だが、数多の死線を潜り抜けてきたガルドの闘気は一線を画す。


 ガルドが本気で闘気を解放すれば、今立っているギルドどころか、ここら一体が瓦礫の山と化すだろう。


 ガルドはその闘気を右腕に集中させ、的に向かって拳を振るう――


 その瞬間。


 バギャッ!!!



「!?」



 凄まじい音と共に、天井が砕けた。


 次の瞬間。


 人が、降ってきた。



「な――」



 だが、技はもう出ている。


 止められない。


 次の瞬間。


 ドガーン!!!


 ガルドの一撃が、落下してきた人物に直撃した。


 訓練場を埋め尽くす土煙。



「……っ」



 ガルドは、その場に膝をついた。



(……殺した)



 それも、木っ端微塵に。


 闘気を宿した拳で殴れば、一般人なら確実に即死。ギルドに属する上澄の冒険者でも、ガルドの闘気を受ければ無事では済まない。

 

 そしてガルドは、今までの経験から相手を殺した感覚を確かに感じ取っていた。


 やがて、土煙が晴れる。


 そこにいたのは――


 地面に半分めり込んだ、気絶した人物。


 ……原型が、ある。



「……は?」



 信じられない思いで、近づく。


 そこにいたのは、毛皮を身に纏った、少女。



「……」



 ガルドは、息を呑んだ。


 ここらでは見かけない黒髪に、華奢で小柄な、信じられないほど整った顔立ちの少女。


 どう考えても自分より20歳は下。自分の子どもと言われてもおかしくない程歳下の少女は見て、ガルドはーー



「……」



 言葉が、出なかった。


 現在の状況を忘れ、

 ただ、見惚れてしまった――


 その瞬間。


 パチリと、少女の目が開いた。



「……っ!?」



 視線が合う。


 次の瞬間、少女は勢いよく起き上がった。

 近くに転がっていた仮面を拾い、震える手で掴む。


 そして。



「……っ」



 泣いていた。

 大きな瞳からポロポロと涙をこぼし、声を押し殺しながら。


 ガルドはそんな少女を見て、体が固まったように動かなくなってしまった。


 なぜ天井から降ってきた?

 すまないことをした。

 なぜ外傷がない?

 生きてて良かった。



 ーーなんでこんなに、目が離せない。



 色んな感情がごちゃ混ぜになり動けないガルドを後目に、少女は何も言わず、階段へ向かって歩いていく。



「お、おい――」



 呼び止める間もなく、少女は姿を消した。



「……一体、何が……」



 未だ混乱中のガルドは、暫くの間呆然と立ち尽くしていた。





(……くそ)



 階段を上りながら、涙が止まらなかった。


 あれだけ修行したのに。


 一撃で、気絶した。



(弱ぇ……)



 女みたいに泣いた自分も、最悪だった。


 仮面を付け直し、俯いたままギルドを出る。


 誰かが、何か言っていた気がする。


 でも、頭に入らなかった。



(……帰ろう)



 森へ。


 もっと修行しよう。


 筋肉が足りなかったんだ。強くならなきゃ、意味がない。


 門番に街を出ると告げると、少し驚かれたが――



「……まだ半刻も経っていないな」



 仮入場札を回収され、そのまま許可が出た。

 どうやら本来は銀貨の支払いかギルドの依頼書がなければ出られないらしいが、なにやら気を遣ってもらったらしい。


 俺は、肩を落としたまま、森へと戻った。



(惨めだ……)





[精霊ちゃんの小話]


 やっほー。世界樹の精霊ちゃんだよー。


 あららー。泣いちゃってるねー、あの子。


 でもねー、本当だったら、今頃泣くことすらできてないはずなんだよね。


 あのオジサンの攻撃が当たった瞬間――

 あの子、確かに壊れてたんだ。


 普通の人間なら、そのまま終わり。


 でも。


 一瞬で、元に戻った。


 なにあれ。

 人間って、あんなふうに戻るものだっけ?


 ……それとも。


 あの子が、おかしいのかな。


 なんだか、

 精霊より精霊っぽいんだよねー。

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