第一話 間違えられたまま、始まる
その日も、俺は間違えられていた。
「お待たせしました、そちらの女性の方はこちらへ。」
「...女じゃねぇ、男だ。」
駅構内。電車でケータイを無くした俺は、届けの為待合所にいた。
俺の言葉を聞き、案内係の視線が俺の顔から体へ、そして困惑したようにまた顔へ戻ってくる。
――ああ、またか。
男にしては低い身長。
線の細い体。
女みたいに整った顔。
何度訂正しても、初対面では九割方こうだ。
「お、と、こ、だっ!!!」
「...は、はぁ。(服装も男の子っぽいし、そういうお年頃なのかな?)」
「...。(絶対信じてないだろこいつ)」
俺の両親は絵に描いたような美女と野獣。その美女の遺伝子を十割受け継いだ結果が今の俺。
声を低くして荒っぽい口調を意識してみても、『ガラの悪い女』に見られることはあっても男に見られることはほぼ無い。
可愛い女の子と仲良くなってもそこから先に進むことは無く、「彼氏つくらないの?」なんて言われる始末。
いくら筋トレしても筋肉もつかないし...。
親父の遺伝子どこ言ったん?せめて髭くらい生やしてくれてもいいやん??
うおーん(泣)
駅を出て、夜道を歩く。
街灯は少なく、人通りもない。
「はぁぁ...。(ケータイも無くすし、女にも間違えられるし、最悪な日だな)」
落ち込みながらトボトボ歩く。
コツコツ...
足音が、後ろから聞こえた。
「......。」
歩調を変える。
足音も変わる。
「……。(これ、付いてきてるよな。)」
チラッと振り返った瞬間、思ったよりも近く、1mほど間を開けて男が歩いていた。
目が合った瞬間、全身に鳥肌が立つ。あー、完全にイッちゃってるね、目が。
突然、男が叫ぶ。
「可愛いぃぃぃいいいいイッ!!!ずっと探してたんだよォ、君みたいな子……。」
突然のことで体が固まった。腕を掴まれる。鳥肌が全身に広がったのが分かる。
「や、やめろ!」
力を込めて振り払おうとする。
だが、掴む手はびくともしない。
「無理だよォ、君は、か弱い女の子なんだから...。」
その言葉で、何かが切れた。
「――違ぇっつってんだろ!!」
全力で叫んだ。
拳を振るった。
だが、やはり力が足りない。
腹に走った、冷たい衝撃。
遅れて、熱が広がった。
(ナイフ……)
膝が崩れ、視界が揺れる。
(ふざけるな……)
理不尽だ。
こんな理不尽、許されるはずがない。
(力が……)
筋肉があれば。
力があれば。
こんな奴、簡単にねじ伏せられたはずなのに。
視界が暗くなり――
*
気付くと、俺は雲の上に立っていた。
「……は?」
足元はふわふわしていて、現実感がない。
目の前には、白い髭を蓄えた老人が一人。
「ほっほっほ、ようこそ」
「……ここどこだ」
「天の世界じゃな」
あまりにもテンプレな状況に、頭が追いつかない。
「俺は……死んだのか?」
「うむ」
即答だった。
老人――多分、神様だろう――は、にこにこと俺を見ている。
(……じっと見るな)
その視線に、嫌な既視感を覚えた。
「お主にはこれから、オルディアへ転生してもらう」
「オルディア...異世界転生ってやつか?」
「そうじゃ」
アニメで見たことあるぞ。
剣と魔法。
テンプレ。悪くない。
「何か、望むモノはあるか?」
望むモノ...その言葉に、胸の奥が熱くなる。
「……重力を操る魔法をよこせ」
「ほう?重力とな?」
「自分の体に重力をかけて鍛えんだよ」
ずっと筋肉に憧れていた。こんなナリだから女に間違えられる。力がないから侮られる。
ムキムキのやつらは皆、自信に満ち溢れていた。それに、憧れた。
ああなれたら、きっと俺は俺のままでいられた。
あの不審者野郎だって、筋肉さえあればぶちのめすことが出来ただろう。
筋肉は全てを解決する。
「筋肉があれば、大体なんとかなるからな」
老人は少し驚いた顔をした後、深く頷いた。
「よかろう、それだけでよいかな?」
「あぁ」
それだけでいい。
余計なものはいらない。
筋肉が欲しい。
「ほっほっほ、そうかそうか」
なぜか、やけに楽しそうだった。
「では、転生の儀を始めよう」
足元の雲が光り、視界が白に染まる。
瞬間、意識が途切れた。
皆さん初めまして、蒼蓮りつです。
本作品は私の処女作となります。
至らない点も多くあると思いますが、面白い作品になるよう努めさせて頂きます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




