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【第7話】写真部始動(3)

中原陸が見学で来てくれた翌日の放課後。

仮とはいえ人も増え、何かが始まった予感がして早く部室へ向かいたかったのだが、

そういう時に限ってホームルームが長く続いた。

俺は皆より一足先に教室を飛び出そうとした。


「駿、嬉しそうだな」

「まだ中原くんも加入が決まったわけじゃないのに」

「もし彼がダメなら、また勧誘し直しだよね。それも考えなきゃ」


そんな三人の言葉が聞こえたが、今は聞こえないことにした。

まだ新歓の締め切りまでは一週間近くある。あがくのは、その時でいい。


鍵のかかった部室の前には、誰かが立っているのが見えた。

前髪の長い、大人しい印象の一年生。確か名前は――


「石田さん、だったよね」


突然名前を呼ばれた少女は、ビクっとして猫背気味の体を起こす。


「……あ、は、はい」

「えーっと、写真部に何か用事?」


そう聞いてみるも、しばらく待っても返答がない。落ち着きなく視線を彷徨わせている。


「……あ、あの、ですね」

「うん」


またしばらく間が空く。これは、辛抱強く用件を待った方が良さそうだ。


「良かったら、中に入る?」


そう声をかけると、彼女はコクコク頷いてくれた。

鍵を開け、ドアを開く。いつものように窓を開け、空気の入れ替えを行う。


「入っていいよ。適当に空いてる椅子に座ってくれればいいから」


まだ廊下に立っていた石田さんを招き入れる。


「……は、はい。失礼します」


見るからに人見知りだ。緊張するなという方が無理だろう。

石田さんは周囲の壁を見渡し、先輩方の撮った写真を眺め、興味深そうに頷いている。

その間に俺は椅子に鞄を置いて、今度こそ驚かせないよう近づく。


「それ、もう卒業した先輩たちの撮った写真」

「……あ、そう、なんですか」

「うん。俺も何枚かは撮ってるけど、まだそこには並べてないんだ」

「どうして、ですか?」

「特に深い理由があるわけじゃないけど、俺は校庭とか近場の写真ばかりだから、かな」


壁に貼られているのは、文化祭の風景や旅行先の写真など、独特のものが多い。

そこに近所の自然風景が主体である俺の写真を貼ってしまうと、少し浮いてしまう気がした。


「……なるほど?」


首をちょこんと傾げ、よく分かってなさそうな石田さん。これは、俺の説明が悪いだけだろう。


「…あ、それで、なんですけど」


空気に慣れてきたのか、段々と会話が成立してくる。

石田さんは、がさごそと鞄を漁り、一冊の専門書と紙を出してきた。


「あ、それ」


カメラの専門書と入部届だった。


「……は、はい。もし、よろしければ…入部、させてもらえませんか?カメラの勉強もしてきました」


セリフを練習してきたのか、拙いながらもしっかりと話す。

写真に興味があったのだろうか。前に会った時には、そんな風には見えなかったけれど。


「ありがとう、よろしければ、なんてとんでもない。歓迎するよ」

「……はい」


石田さんは、ぎこちないながらも微笑んだ。



石田さんに着席してもらい、カメラを渡す。


「それ、部の備品だから。適当にいじってていいよ」


彼女は表情を明るくし、専門書と照らし合わせながらカメラに向き合う。

そんな時間がしばらく続いた頃、ノックと共に三人分の足音が聞こえる。


「お疲れ様ー…ってお客様?」


璃奈は開口一番、石田さんを眺める。

ビクっとした彼女はカメラを落としそうになり、慌てて持ち直すが、


「……あ、あ、あの、その」


完全に縮こまってしまい、俯いてしまう。


「…ふふ。慌てないでいいよ。はじめまして」


それを見た陽向が、落ち着かせるように場を取りなす。

璃奈も、これはまさかの反応だったらしく、やっちゃったか、と天を仰ぐ。

この場に割って入るのは危険と判断したのか、悠斗は既に我関せず、と着席している。

石田さんは、何度か深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた後に言葉を出す。


「……は、はじめまして。一年の、石田沙耶と言います」


それで言いたいことは言い切ったのだろう。ほぅっと息を吐き、また俯いてしまう。


「彼女、今さっき入部してくれたんだよ」


さすがに彼女に任せきりなのも可哀想になったので、助け舟を出し、さりげなく視線だけを陽向に向ける。


「へえ、そうなんだ。私、紡木陽向って言うんだ。よろしくね、沙耶ちゃん」


それを受け取って、陽向も続けて自己紹介を行った。

こういうときは幼馴染が役に立つ。男相手じゃ石田さんも辛いだろう。


「さっきは驚かせちゃってごめん。私は坂口璃奈。よろしく、沙耶」


どうでもいいけど、二人ともいきなり名前呼びとか距離の詰め方がエグそうだが、大丈夫なのか?


「……は、はい。ありがとう…ございます。紡木先輩、坂口先輩」


大丈夫だったらしい。特に不快そうな様子もない。


「俺、大野悠斗。よろしくね, 石田さん」

「…はい」


シレッと紹介に混ざる悠斗。こういった要領の良さは見習いたい。

コンコンとノックの音が室内に響く。


「失礼します!」


緊張をはらんだ大きな声で中原が入ってきて、更にビクッとする石田さん。

こうして俺たちは中原も交え、二度目の自己紹介をする流れになった。



世間話を交えつつ、中原も石田さんも徐々に輪の中に入り始める。

中原、いや、陸も名前で呼ばれるくらいには互いに受け入れていた。

空気が一体になった心地よさを、全員で共有してきた頃、俺は思っていた話を切り出した。


「あの、ちょっといいかな」


今までは三人だった視線が五人へ増えたことで、ちょっとしたプレッシャーも感じるが、構わず続ける。


「石田さんが入ってくれたことで、写真部は成立した。陸は見学だけど、昨日も言ったように、好きに選んでくれて構わないよ」

「あの…それなんスけど」

「うん」


俺の言葉に少し緊張が戻ったのか、陸が言葉を選んで話し出す。


「俺も入部届を持ってきました。出すのが遅れちゃいましたが、今、正式に入部させてほしいっス」


そういって、陸は入部届を出してくる。既に用意してくれていたことが嬉しい。


「ありがとう、受け取る前に、ちゃんと考えた?」

「はい。お世話になります。それと、皆さんにお願いがありまして」


なんだろう、続きを陸に促す。


「実は俺、敬語が苦手でして、たまに語尾にスって入れちゃうんス」

「今みたいに?」

「はい、今のはわざとですが」


苦笑する陸に、璃奈が目敏く続ける。


「言われてみれば、何度か言ってたよね」

「う…そうなんです。両親にも直せって言われてまして。もし、また言うようなら遠慮なくツッコミ入れてください」

「ふーん?面白いお願いだね。言ったら罰ゲームでもする?」

「そ、それは勘弁してほしいっス!」

「はい、アウトー」

「容赦ないな、坂口」


悠斗が呆れたように呟いた。陽向も可哀想なものを見る目で陸を見ている。

石田さんはオロオロとして、周囲を見守っていた。


「それで、駿は、何か話したいんだよね?」


悠斗が脱線した話を戻してくれる。正直飲まれかけていたので助かった。


「ああ。今後について、なんだけどさ」


一同が真剣に見つめてくる。


「まずは勧誘について。俺はもうポスターの期間内の掲示だけにして、積極的には勧誘しない方向で考えてるんだけど、どう?」

「まあ、今まで積極的だったかって言われると疑問だけどね」


即座に返ってきた璃奈の言葉のナイフが痛い。何とか耐えつつ話を進める。


「俺たちはまだニ年だし、もし人数が必要なら来年がある。今は陸と石田さんが、写真部に馴染んでくれることを優先させたい」

「いいね、それ。陸くんと沙耶ちゃんはどう?」


俺の言葉を受け、陽向が二人にパスをする。


「俺は、あまり大人数は好きじゃないんで、その方がありがたいです」

「……わ、私も…です」

「じゃあ、この六人で新生写真部発進だな」


悠斗も嬉しそうに受け入れた。


「活動もポスターや説明会の通り、カメラというより、まったり中心?」


璃奈の発言に、俺は頷く。


「そうだね。カメラはあくまで興味を持った人がやればいい。分からなければ、俺で良ければ教える」


一呼吸置いて、頭の中で整理していたことを続ける。


「毎日来る必要もない。用事がある人はそっち優先で構わない。ここは居場所であればいい」

「それってさ、写真部である必要あるのかな」


悠斗の言葉はもっともだった。でもこれだけは言う必要があった。


「元々ここはそういう場所だった。だから、皆ここを守ろうとしてくれた。もちろん、俺は撮影を続けるし、それに無理に付き合わせようと思わない」


前にも言ったことだ。だけど、改めて六人として”写真部”になった以上はもう一度言っておいた方がいいと思った。


「まとめだけど、撮影したいなら一緒にやろう。何もしたくない時はダラっとしてよう。好きにできる居場所を作ろう。これが写真部の活動方針ってことでいいかな」

「私は賛成」


最初に肯定してくれたのは陽向だった。璃奈、悠斗、陸、石田さんも続く。


「なんか、決めたようで何も決まってないのが、私たちらしくていいね!」


璃奈が笑顔で締めくくった。

部長らしいことなんて分からないけど、こうして新生写真部が発足した。

本日はここまでの投稿となります。次回投稿は2/12予定です。よろしくお願いします。

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