表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

【第4話】写真部始動(1)

廃部の話を部室で説明した、その翌日の放課後。

教室は普段通りざわついていたけれど、昨日の続きが頭の片隅に残っていた。

廊下の向こうから聞こえてくる部活勧誘の声が、今日はやけに近く感じる。


「今日も部室に行くよね」

陽向が、確認するような口調で言った。


「うん」

そこに、璃奈が続く。


「生徒会で入部届をもらってきた。部室で出そうと思う」

一瞬だけ、言葉に詰まる。


璃奈が部活に距離を置いてきた理由は、俺も知っている。だから、その一言の重みを噛み締める。


「……本当にいいんだな」

「決めたよ」

短い返事だったけど、迷いはなかった。

「分かった。ありがとう」

そう言うと、璃奈は小さく肩をすくめた。

悠斗が、少し楽しそうに口を挟む。

「じゃあ、改めて四人で活動だな。新生写真部結成って感じがして、結構いい」

「盛りすぎ」

璃奈はそう言いながらも、否定はしなかった。



部室の鍵を開ける。

窓から差し込む光が、机の端に影を落としていた。窓を開け、空気を呼び込む。

壁に貼られた写真も、隅に立てかけた三脚も、いつもの場所にある。


見慣れたはずの光景なのに、今日は少しだけ目が止まる。

これから使う場所として見ているせいか、感じ方が違った。


「はい、これ。入部届」

璃奈が封筒から二枚の紙を取り出して、机の上に置く。

「陽向の分と、私の分」

「預かるよ。あとでまとめて提出する」

そう言って、引き出しにしまった。


部員の数はこれで四人になった。それだけのことなのに、考えることが増えた気がした。

誰からともなく鞄を置き、椅子を引く。そんな、いつものリズムを今日は少し嬉しく思えた。


「……新歓のことなんだけどさ」

少し間を置いて、璃奈が口を開く。

「ポスターの掲示や合同説明会への参加は必要だと思う。何をしてる部か分からないと、人も来ないでしょ」

「確かにそうだね」

そう言って、軽く頷く。

「写真部って分かるものを、説明会の個別に分かれた時に展示してみるとか?」

「合同説明会のときに展示できそうな写真、どのくらいありそう?」

陽向や悠斗も意見を出してくれる。

「数はある。ただ、新歓向きかどうかは選ばないと分からないな」

答えながら、壁の写真に目を向ける。

これまで撮ってきた写真は、ほとんどが自分のためのものだった。

人に見せる前提で並べると思うと、少しだけ緊張する。

それからも、当番や配置の流れについて話をした。


「段取り考えてくれて助かる。ありがとう、坂口」

一段落したところで、璃奈を見る。

「いえいえ。やるからには本腰入れないとね」

「俺もできるだけ動くよ。バイトがないときは、色々言って」

「期待してる」

やる気を見せる璃奈や悠斗が頼もしく思えた。


その後もしばらく話し合い、活動の大枠を決めていった。

ある程度まとまり、そろそろいい頃合いだと感じたところで、俺は切り出した。


「……少しだけいい?」

三人がこちらを見る。

「今の光が良さそうだから。新歓用に使えるかは分からないけど、撮影してきたい」

「うん、行ってきなよ」

陽向がすぐに言った。

「戻ってきたら、続きを決めよ」

カメラを肩に掛けて、部室を出た。



ドアが閉まって、足音が遠ざかる。

「……行ったね」

陽向が、壁の写真から視線を外して言った。

「行った」

璃奈が短く返し、悠斗は椅子に深く腰を下ろして、軽く背伸びをした。

「駿、あの時間帯好きだね」

悠斗が、何気ない調子で言う。

「夕日じゃないかな。この時間帯が一番いいんだって」

陽向はさらりと言葉を返す。

「言ってたっけ、そんなこと」

「うん。前にね」

少し間が空く。音が消えたわけじゃないのに、部室の密度だけが変わった気がした。

「……こうなると」

璃奈がぽつりと言う。

「出ていくって言っても、戻ってくる前提なのがさ。なんか、部室ある部活だなって思った」

「分かる。文化部ならではだね」

悠斗も乗り、陽向も続く。

「戻る場所があるって、落ち着いていいね……静かでも、変じゃない」

璃奈は一歩下がって、写真全体を眺めた。

「でも、写真部って何やればいいんだろう」

「まあ、無理しない程度で俺たちらしくしてればいいんだよ」

悠斗が軽く付け足す。

「続ける方が大事だし」

「それはそう」

陽向が笑う。

三人の視線が、自然とドアの方へ向いた。

「私たちだけであれこれ言っても何だし、西村が戻ってきたら、また考えよ」

璃奈が放った言葉に、

「だね」「四人で」

二人も同調した。

部室には、さっきより少し軽い空気が残っていた。



部室に戻ると、さっきより光が低くなっていた。

「おかえり」

陽向が、いつもの調子で言う。

「どうだった?」

「何枚か撮れた」

それだけ答えて、カメラを机の上に置く。新歓用に使うかどうかは、あとでみんなで決めればいい。

「じゃあ、今日のまとめしよ」

璃奈がスマホの画面を示す。合同説明会の日程や、掲示板の場所がメモに残っている。

まだ決めきれていないこともあるが、後は流れでどうにかなりそうだ。


「これなら何とかなりそうだね」

悠斗の言葉に皆が頷く。

「うん。みんな、ありがとう」

一通り確認して、俺は立ち上がった。

「今日はここまでにしよう。次は、展示の写真選びからでいい?」

「それで行こ」

璃奈が頷いて、ふふっと笑い、俺の方へと目を向ける。


「頑張ってね、部長」


「……やっぱ、そうなるよね」

苦笑しながら返す。

「出来るだけ、やってみるよ」

「頑張れ、部長」

悠斗が軽く言って、鞄を肩に掛けた。

部室を出る前、鍵を確認する。

新歓の準備は始まっていて、やることも決まっている。

ここは、もう集まる場所になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ