【第4話】写真部始動(1)
廃部の話を部室で説明した、その翌日の放課後。
教室は普段通りざわついていたけれど、昨日の続きが頭の片隅に残っていた。
廊下の向こうから聞こえてくる部活勧誘の声が、今日はやけに近く感じる。
「今日も部室に行くよね」
陽向が、確認するような口調で言った。
「うん」
そこに、璃奈が続く。
「生徒会で入部届をもらってきた。部室で出そうと思う」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
璃奈が部活に距離を置いてきた理由は、俺も知っている。だから、その一言の重みを噛み締める。
「……本当にいいんだな」
「決めたよ」
短い返事だったけど、迷いはなかった。
「分かった。ありがとう」
そう言うと、璃奈は小さく肩をすくめた。
悠斗が、少し楽しそうに口を挟む。
「じゃあ、改めて四人で活動だな。新生写真部結成って感じがして、結構いい」
「盛りすぎ」
璃奈はそう言いながらも、否定はしなかった。
◆
部室の鍵を開ける。
窓から差し込む光が、机の端に影を落としていた。窓を開け、空気を呼び込む。
壁に貼られた写真も、隅に立てかけた三脚も、いつもの場所にある。
見慣れたはずの光景なのに、今日は少しだけ目が止まる。
これから使う場所として見ているせいか、感じ方が違った。
「はい、これ。入部届」
璃奈が封筒から二枚の紙を取り出して、机の上に置く。
「陽向の分と、私の分」
「預かるよ。あとでまとめて提出する」
そう言って、引き出しにしまった。
部員の数はこれで四人になった。それだけのことなのに、考えることが増えた気がした。
誰からともなく鞄を置き、椅子を引く。そんな、いつものリズムを今日は少し嬉しく思えた。
「……新歓のことなんだけどさ」
少し間を置いて、璃奈が口を開く。
「ポスターの掲示や合同説明会への参加は必要だと思う。何をしてる部か分からないと、人も来ないでしょ」
「確かにそうだね」
そう言って、軽く頷く。
「写真部って分かるものを、説明会の個別に分かれた時に展示してみるとか?」
「合同説明会のときに展示できそうな写真、どのくらいありそう?」
陽向や悠斗も意見を出してくれる。
「数はある。ただ、新歓向きかどうかは選ばないと分からないな」
答えながら、壁の写真に目を向ける。
これまで撮ってきた写真は、ほとんどが自分のためのものだった。
人に見せる前提で並べると思うと、少しだけ緊張する。
それからも、当番や配置の流れについて話をした。
「段取り考えてくれて助かる。ありがとう、坂口」
一段落したところで、璃奈を見る。
「いえいえ。やるからには本腰入れないとね」
「俺もできるだけ動くよ。バイトがないときは、色々言って」
「期待してる」
やる気を見せる璃奈や悠斗が頼もしく思えた。
その後もしばらく話し合い、活動の大枠を決めていった。
ある程度まとまり、そろそろいい頃合いだと感じたところで、俺は切り出した。
「……少しだけいい?」
三人がこちらを見る。
「今の光が良さそうだから。新歓用に使えるかは分からないけど、撮影してきたい」
「うん、行ってきなよ」
陽向がすぐに言った。
「戻ってきたら、続きを決めよ」
カメラを肩に掛けて、部室を出た。
◆
ドアが閉まって、足音が遠ざかる。
「……行ったね」
陽向が、壁の写真から視線を外して言った。
「行った」
璃奈が短く返し、悠斗は椅子に深く腰を下ろして、軽く背伸びをした。
「駿、あの時間帯好きだね」
悠斗が、何気ない調子で言う。
「夕日じゃないかな。この時間帯が一番いいんだって」
陽向はさらりと言葉を返す。
「言ってたっけ、そんなこと」
「うん。前にね」
少し間が空く。音が消えたわけじゃないのに、部室の密度だけが変わった気がした。
「……こうなると」
璃奈がぽつりと言う。
「出ていくって言っても、戻ってくる前提なのがさ。なんか、部室ある部活だなって思った」
「分かる。文化部ならではだね」
悠斗も乗り、陽向も続く。
「戻る場所があるって、落ち着いていいね……静かでも、変じゃない」
璃奈は一歩下がって、写真全体を眺めた。
「でも、写真部って何やればいいんだろう」
「まあ、無理しない程度で俺たちらしくしてればいいんだよ」
悠斗が軽く付け足す。
「続ける方が大事だし」
「それはそう」
陽向が笑う。
三人の視線が、自然とドアの方へ向いた。
「私たちだけであれこれ言っても何だし、西村が戻ってきたら、また考えよ」
璃奈が放った言葉に、
「だね」「四人で」
二人も同調した。
部室には、さっきより少し軽い空気が残っていた。
◆
部室に戻ると、さっきより光が低くなっていた。
「おかえり」
陽向が、いつもの調子で言う。
「どうだった?」
「何枚か撮れた」
それだけ答えて、カメラを机の上に置く。新歓用に使うかどうかは、あとでみんなで決めればいい。
「じゃあ、今日のまとめしよ」
璃奈がスマホの画面を示す。合同説明会の日程や、掲示板の場所がメモに残っている。
まだ決めきれていないこともあるが、後は流れでどうにかなりそうだ。
「これなら何とかなりそうだね」
悠斗の言葉に皆が頷く。
「うん。みんな、ありがとう」
一通り確認して、俺は立ち上がった。
「今日はここまでにしよう。次は、展示の写真選びからでいい?」
「それで行こ」
璃奈が頷いて、ふふっと笑い、俺の方へと目を向ける。
「頑張ってね、部長」
「……やっぱ、そうなるよね」
苦笑しながら返す。
「出来るだけ、やってみるよ」
「頑張れ、部長」
悠斗が軽く言って、鞄を肩に掛けた。
部室を出る前、鍵を確認する。
新歓の準備は始まっていて、やることも決まっている。
ここは、もう集まる場所になっていた。




