【第2話】四月、放課後(2)
昨日の放課後、竹田先生が部室に入ってきて言った。
「このままだと廃部だからな」
軽い口調だった。冗談めいた言い方ですらあった。
けれど、内容だけは妙に具体的で、聞き流せる種類のものじゃなかった。
その場では誰も詳しい話をしなかったし、出来なかった。
条件も期限も分からないまま、とりあえず「まずいらしい」という感覚だけが残り、解散した。
だから今日は、その続きだと思っている。放課後、部室に寄る前に先生から話を聞いてきた。
写真部のドアの前で一度足を止める。鍵を出すまで、ほんの一瞬の間。
別に大げさな話をするつもりはない。聞いてきたことを、そのまま伝えるだけ、そう考えて、鍵を回した。
部室の中は、昨日と変わらない。机も椅子も、壁に貼られた写真も、そのままだ。
変わっていないからこそ、意識してしまう。この場所が、当たり前に続くものだと思っていたことを。
いつものように窓を開け、空気を入れ替えると、頬に触れる新鮮な空気が気持ちを落ち着かせてくれる。
鞄を椅子の背に掛けて、いつもの席に座ると、ほどなくして、陽向と璃奈が入ってきた。
「……昨日の話、だよね」
璃奈の声は、確認というより前置きに近かった。
「うん」
それだけ答える。
少し遅れて、悠斗も入ってきて椅子に腰を下ろした。
「結構、はっきり言われたよな」
昨日の言葉が、ここにいる全員の頭に残っているのが分かる。
「条件を聞いてきたよ」
そう言ってから、言葉を選ぶ。一度整理しないと、そのままでは出てこない。
「写真部が続くには、正式な部員が五人以上必要らしい。新歓が終わるまでに揃わなかったら、その時点で廃部」
数字にすると、逃げ場がなくなる。誰もすぐには口を開かなかった。
「前にもあったみたいでさ。去年、文芸部が同じ理由で廃部になったとも聞いてる。だから……多分、今回も同じなんだと思う」
説明を重ねても、印象が軽くなるわけじゃない。むしろ重く伸し掛かってくる。
璃奈が、ふーむと腕を組む。
「五人か。思ってたより、だいぶ現実的に足りないね」
悠斗が俺を見る。
「今、正式な部員数って?」
「俺と、悠斗だけ」
状況をはっきりと口にすると、少し間が空いたあと、璃奈が言った。
「……じゃあさ。私たち、入部したほうがいいってこと?」
「いや、二人に強制する気はないよ」
これは条件を聞いた時から考えていたことだった。
「写真を撮るだけなら、個人でも出来るからさ。部費が出るとか、名義が使えるのは助かるけど、
なくなったら何も出来なくなる、ってほどでもないかな」
自分で言いながら、どこかで線を引いているのが分かる。
部活と、今の距離感と、その両方に。
璃奈は少し考えるような顔をして、頷いた。
「そっか。分かった。ちゃんと考える」
陽向も、間を置いて言う。
「すぐには決められないけど……私も考えるね」
悠斗が鞄を手に立ち上がる。
「じゃあ俺、バイト行くから先に帰るわ」
「それなら、伝えたかったことは言えたし解散しようか。聞いてもらってありがとう」
「ううん、こっちこそ時間もらったしありがとね」
そう言って、璃奈も鞄を持って立ち上がった。
「うん、皆もお疲れ様でした」
陽向の笑顔は、少しだけ硬かった。
俺も鞄を肩に掛けて、椅子を元の位置に戻す。
四人で部室を出て、廊下に出る。誰かが先に行くこともなく、そのまま昇降口へ向かった。
今日、何かが決まったわけじゃない。ただ、状況を言葉にしただけだ。
それでも、昨日までと同じ気分で部室に来ることは、もう出来ない。
写真部は、まだそこにある。でも今後は、どうなるかは分からない。




