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【第9話】大型連休(2) 悠斗と璃奈

大型連休に入った駅前のショッピングモールは、平日よりも少しだけ騒がしかった。昼を過ぎても人の流れは途切れず、通路のあちこちで足を止める人の姿がある。


坂口璃奈は、紙袋をひとつ、ふたつと腕にかけながら、時計を見て足を止めた。

午後二時を少し回ったところだった。


店を回っている間は気にならなかったが、こうして立ち止まると、昼食を取っていないことに気づく。


「……あ」


小さく声を漏らしてから、周囲を見回した。


モール内には飲食店が並んでいるが、どこもそれなりに混んでいる。

並ぶのも面倒だな、と思いながら、ふと入口の方を思い出した。


バーガーノート。大野悠斗がバイトしている店だ。

近いし、時間も潰せる。何より、顔を出す理由としてはちょうどいい。璃奈は、紙袋を持ち直してモールの一角へ向かった。


店内は思ったより落ち着いていた。ピークの時間帯は過ぎているらしく、レジ前に並んでいる客は二、三人ほど。


カウンターの奥に、見覚えのある背中があった。白いシャツにエプロン。髪の色ですぐに分かる。

注文の途中で目が合ったが、すぐに視線は作業に戻った。


番号が呼ばれたので受け取り、席に着く。ハンバーガーの香りが鼻をくすぐる。

気づいたのは、腹が空いてからだった。

一気に食べ尽くしてしまったが、まだ少し物足りない。

追加でチキンでも頼もうかとカウンターへ向かうと、悠斗が返却口の片付けをしていた。


「買い物だった?」

「うん、さっきまでね」

仕事の邪魔をしないよう、悠斗の言葉に短く返す。


「三時で終わるんだけど、その後少し時間ある?」

璃奈は少しだけ考え、返答する。

「いいよ。じゃあ、ここで待ってるから終わったら連絡して」

それだけ言って、席に戻った。


スマホを開くが、特に見るものはない。さっき買った紙袋の中身を確認したり、窓の外を眺めたりしながら時間を潰すと、スマホが短く震えた。


<悠斗:今、上がった>


璃奈はカップを片付けて、入口の方を見る。少しして、私服姿の悠斗が出てきたので合流する。


「お疲れ」

「待たせたな」

「ううん。今日は買い物終わったし、いい暇つぶしだった」


並んで店を出る。外に出ると、店内の空調とは違う、少し湿った空気に変わった。


「どこか行きたいところ、ある?」

「決めてなかったんだ?じゃあ、遠くなければ、どこでも」

「なら、この先の公園でいい?あそこならお互いの家も近いし」

「うん」

「荷物持とうか?」

「夏向けの服が少しだけだから大丈夫。ありがと」


ショッピングモールを出て、行き交う人々の中を歩き出す。思い出し笑いをしながら、悠斗が言う。


「そういえば、さっきチキンを追加しようか迷ってたでしょ」

「分かる?」

空腹を見抜かれたことが恥ずかしく、璃奈は俯き苦笑する。


「返却口の前で、メニュー見てたから。何か食べるのかなって」

「あれね、いけそうだった。どうしようか迷ったんだけどね」

「結局、足りた?」

「微妙。でも、もういいかなって」

「珍しい」

「お腹空いてる時に食べすぎると太るって言うし、やめちゃった」


歩き続け、住宅街へ向かうと、人の声が少し遠くなる。


「GWって部活ないから暇なんじゃない?」

「そうだね。家にいるか、たまに走ったりはしてるけど」

「運動もしないとだな。俺は高校に入ってから全然だ」

「中学のときは、毎日走ってたのにね」


悠斗はそれを聞いて、懐かしそうに目を細めた。


「坂口から見てどう?陸や石田さんはもう慣れた?」


切り替わった話題に、顎に手を添え考える。


「うーん。陸はすぐ馴染んだかな。沙耶はまだちょっと遠慮してる感じ」

「そっか。俺は毎日行けてるわけじゃないから、石田さんとはまだほとんど話せてないかも」

「まあ沙耶は人見知りが歩いてるような子だから、慣れよ、慣れ」


公園が見えてくる。どこにでもあるような狭い公園だが、遊具は一式ある。

GWだからだろうか、珍しいことに、今はほとんど人がいなかった。


「ベンチでもいいけど、ここは子供心に帰って、ブランコかな」

「いいね!子供がいたらさすがに譲ってあげないとだけど」


腰を下ろして、璃奈が足で地面を蹴る。

しばらく二人で大きく漕いだり、靴投げをしたり。時間は笑顔と共に過ぎ、夕暮れが訪れる。


「部活、落ち着いたよな」

一通り遊び、悠斗は少し赤みがかった空を見上げて呟いた。


「そうだね。六人の場所って感じでまとまってきたと思う」


先程から、悠斗は部活の話題を手放していない。

何かあるのだろうか。


「坂口も、俺たちだけじゃなく、後輩二人への面倒見もいいし、もう大丈夫だよな」


何か言いたいことがあるのか、悠斗の言葉に璃奈も真剣な表情を向ける。


「そろそろ、()()()()()なだけじゃなく、俺のことも考えても、いいよな」


悠斗を見上げ、その視線の先に璃奈は自分が写っていることを知る。


「大野、何かやりたいことでもあるの?」

言葉を探し、恐る恐る口にする。


「……いや、まだもう少し先の方がいいか」


悠斗は視線を外し、再び空を見上げる。

一体何が言いたかったのか、分からない。だが、聞いてしまえば何かが壊れそうな響きが、そこにはあった。


「帰ろうか」

悠斗の言葉に、璃奈は黙って頷いた。

今日は2本投稿させて頂きました。明日からは平日に1本ずつの予定です。

ここから少しずつ話が動き出しますので、よろしければお付き合いください。

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