【第8話】大型連休(1) 駿と陽向
部活が軌道に乗りはじめた四月の終わり、大型連休へ突入する。
休みに部活を行うほど熱量を持たない我らが写真部は、それぞれの休日を謳歌すべく奮闘する。
両親は相変わらず仕事で不在。俺も健全な高校男子らしく、家でゴロゴロしつつ、やり過ごそうとしていた。
そんな平和はたった一言で、いとも容易く粉砕された。
「ねえ、駿くん。私、暇なんですけど」
「知りません」
「ねえ、駿くん、私、暇なんですけど」
「他を当たってください」
「ねえ、駿くん、私、暇なんですけど」
「…あ、はい。その圧をやめてもらえませんかね、暴君様」
「暴君じゃありませーん、お姉ちゃんでーす」
「陽向って、ほんと家だと性格変わるよね」
「それは、駿くんも同じだと思いまーす」
「家ならリラックスできるし、肩の力を抜くのは当然じゃない?」
「じゃあ、私もそれ」
「陽向は外で猫被りすぎなんだよ!二重人格かっての」
「何か言った?」
「なんでもないです。圧やめてください」
「でも、部活が楽しくなってよかったよねー」
「話が斜め上に飛んで行ったし」
「陸くんも沙耶ちゃんもいい子だし、もうすっかり六人組って感じだね」
「まあ、そうだね」
「駿くんは、沙耶ちゃんにデレっとしてるし?」
「してませんが、何か」
「いやいや、私、沙耶ちゃんならいいと思うよ。カメラ好きそうだし、言葉は少ないなりに、駿くんには心を開いてる感じするし」
「それは陽向に対してもそうだと思うけど」
「いつか、ここに沙耶ちゃんを連れてくる日もあるのかなー」
「こ、こいつめんどくせえ」
「駿くんほど私は手間がかかる子じゃありません。駿ママにはいつも可愛がってもらってるし」
「そういう問題じゃないんだよなあ」
「で、何して遊ぶ?」
「まーた、話が変わるんですね。家にいてもやることないし、外に出る?」
「外かー。めんどくさい」
「悠斗ー!早くこの我儘暴君を引き取ってくれ!」
「今、大野くんはここにいません。だから駿くんが構ってください」
「誰だよ…陽向をこんな風に育てたのは」
「パパとママと駿くんじゃない?」
「俺もかよ!」
「駿くん五割くらいね」
「俺の割合、高くない?」
「ふっふー。私を甘やかしたツケが回ってきたね」
「もう、ほんと…はあ、もういいです」
「分かればいいんだよ、うん」
「はい、そうですね。何がやりたいですか?」
「んー、ゲームでもやる?」
「いいけど、陽向がゲームしてるとこ、見たことないよね」
「璃奈の家でたまにやったりするよ」
「じゃあ、やるか。どんなのならできる?」
「えっと……じゃあ、これで」
「レースゲームか、対戦だけどいいの?」
「負けた方が罰ゲームでもする?」
「お、自信ありか。いいよ?じゃあ負けたらアイス奢りってことで」
「うん。じゃあ、いってみよー」
「テンション高いっスね」
「陸くんの真似?」
「違うけど……って、ぶつかってくるな!前塞ぐな!他のNPCがどんどん先に行っちゃってるだろ!」
「1位になったら、とは言われてないし」
「くっそ、徹底して妨害してくる気か…ってバナナやめろお!」
「実は、このやり方。璃奈に教わったんだよね」
「坂口ぃ!陽向に汚れた生き方を教えるんじゃねえ!」
「そうやって人の悪口言うのよくないと思うよ」
「澄ました顔して、やることエグすぎないですか?陽向さん」
「駿くんの教育の賜物だね」
「俺はそんなこと教えたことないんだけどなあ……あー、陽向が三位で俺がビリか」
「はい、まずは私の勝利。駿くん私にアイス奢りね」
「うー。悔しいけど負けは負け。分かったよ。もう一回する?」
「違うのやりたーい」
「はいはい、好きなの選んで」
「じゃあ、これにしよ」
「ずいぶん昔のゲームだね。俺やったことないな。なんであるんだろ、これ」
「駿パパの趣味じゃない?」
「まあ、いいか。これ格闘ゲームみたいだけど、陽向は大丈夫?」
「いけるいける」
「その自信はどこから……じゃあキャラ選ぶところからみたい」
「んー、じゃあ私、この金髪の外人さんにするね」
「女キャラじゃなくていいんだ。じゃあ俺はこの主人公っぽいので」
「じゃあ、レッツファイっ!」
「ノリノリっスね…って、そんなに後ろに下がったら、追い込まれるだけじゃないの?」
「その方がやりやすそうかなって」
「まさか、このゲーム知ってて選んだ?…って、なんか、めっちゃ衝撃波飛んでくるんだけど」
「頑張って避けてー。ジャンプも出来るよ」
「じゃあ、飛び込んで…って、なんだその蹴り!?」
「駿くん、頑張れ!」
「うー、煽ってくるじゃん。近寄れないし!どうすりゃいいんだ、これ。弾幕回避しようとすると蹴りが来るし!」
「よっし!また私の勝ち!駿くんアイス二本目ね!」
「陽向、絶対このゲーム知ってて選んだでしょ?」
「えへ。実は璃奈に色々と」
「坂口ぃ!」
「何かと駿くんには、助けられたり、先を行かれたりって多いからね。たまには、私もお姉ちゃんらしいところを見せないと」
「そんなこと言って、ただ坂口にやられた鬱憤晴らしでしょ、これ」
「そうとも言う」
「はあ…いいさ、俺をサンドバッグにしてくれればさ。こうなりゃ、とことん付き合うから、やりたいものあったら言って」
「ううん、夕食の準備もしたいし、ここまでかな。へへん、勝ち逃げ!」
「お前さ、ほんっとお前さ」
「駿くんが遊んでくれて楽しかったよ?だから今日の夕食は、駿くんの好物リストからチョイスしよ」
「そんな甘美すぎる提案で俺がなびくとでも思ってる?」
「エノキの入ったつくねの生姜焼き、副菜に里芋とこんにゃくの煮物、味噌汁は豆腐と油揚げ」
「陽向さん、今からアイス買ってきましょうか」
「あれも冗談。言わなくったって買ってくれたりするくせに」
「……」
「文句言っても遊びに付き合ってくれて、ゲームに負けても合わせようとしてくれて。料理じゃ釣り合わないほど、駿くんには感謝してる」
「言われるほど大げさなことはないんだけどなあ」
「それは誰が、どう感じるか、でしょ」
「そうかもね。俺も陽向の作った料理じゃなきゃ満足できないし」
「そういうこと気軽に言うから、もうね」
「ん?何が?」
「何でもないですー。さ、夕食の準備するから駿くんは邪魔邪魔!部屋でゴロゴロしてきなさい」
「はいはい」
一緒に夕食を採り、宿題を片付け、軽く話して陽向は戻った。
一人で過ごすつもりだったけど、こういう一日も悪くない。




