退屈なはずのお茶会なはずが魔物の話題になったらゲーム知識が出た件について
【あらすじ】
「無能な令嬢として平穏に生きること」を目指す優月は、シスコンの兄たちから逃れるため、第一王子セドリックとの婚約を受諾。しかしその王子は、人の本質を歪める闇スキルを持つ、優月にとって最大の脅威でした。
【今回の見どころ】
お茶会に招待された優月は、どうにか淑女のフリで乗り切ろうとしますが、退屈のあまり意識は上の空。そんな中、セドリック殿下の口から漏れた「魔物」の単語に、優月の「オタク本能」が爆発!
隠していたはずのゲーム知識が次々と飛び出し、ついにセドリック殿下に「攻略しがいのある秘密の宝箱」としてロックオンされてしまいます。
さらに、この世界に「無属性」が存在しないという衝撃の事実が判明し、優月は最大の危機感を抱くことに――!
「平穏に生きたいのに、なぜ私だけ設定がチート級なの?!」
絶望と興奮が交錯する第5話、スタートです!
拝啓 お父さん、お母さん。
優月は、………あの馬と鹿の王子であるセドリック王子にお茶会に招待され、現在進行形で退屈です。ふざけるんじゃありませんわよ?!何が楽しくてお茶会に参加しなきゃいけないんですの?!…こほん。とりあえず粗相をしないようにします。
冒頭でも言った通り、私フローラ(優月)は第一王子にお茶会に招待されて二人きりで対面でお茶会をしています。メイドさんとか警護の騎士さんとかはいるけど。
紅茶の味なんてなかったんだ。緊張で何も感じないんです。
「フローラ嬢、二人きりになれて嬉しいよ」
「殿下にそう言っていただけるなんて、身に余るお言葉ですわ」
私は嬉しくありませんです。淑女スマイルで乗り切るしかない。この馬と鹿の王子がね、闇スキルを使ってくるんです。私の隠蔽スキル、空位の器があるから助かってるものの…
第一王子の闇スキルの一つ。真実の歪み。
効果として簡潔に言うと王子が渇望する対象の真の姿を捉えつつ王子が欲しい情報に歪めて認識させるっていうヤバいスキル。
やめてもらっていいですか?本当にこの王子は馬と鹿なのかな?!
「フローラ嬢は何が好きなのかな?」
あ、やべ。王子の問いかけ聞いてなかった。
ここは適当に答えとこ。
「……と、申しますと?」
「君の好みを知りたいんだ。どんな些細なことでもいい。あのデザインのドレスが好きだとか、クッキーが好きだとかね」
「私の好みですか…」
えぇ~…フローラの好みなんて知らないんですけど…私(優月)であればいくらでも答えることが出来るんだけどね
退屈すぎる。私にとってはこんなお茶会、拷問だ!お家に帰ってステータス画面をずっと眺めてたいよ!それぞれの属性の魔法の詳細を見たい!
「フローラ嬢?」
王子が話しかけようとした時、騎士の一人が王子に耳打ちをした。
え?何の話してるの?
「……魔物が」
魔物って言った?え、この異世界魔物居るの?!おっとこれは盛り上がって参りましたよ!!魔物がいる異世界ね!OKOK。
「セドリック殿下、魔物がどうかしたのですか?(本音・魔物がいるなら教えろ)」
「…いや、フローラ嬢みたいな令嬢に振る話題じゃないから」
「私には話してくれないのですか…?(本音・そんな気遣い要らないから話せ)」
「うっ……分かったよ。魔物の報告があったのは三体。一体目が近辺の森林にある洞窟の奥深くで生息していることが分かったシャドウ・リヴァイアサンだ。この魔物はこの世でも珍しい闇属性と水属性の二属性持ちので伝説級の古代魔獣だ」
「シャドウ・リヴァイアサン?!」
闇と水の二属性持ちだって?!リヴァイアサンって言えばかの有名なボス級の魔物じゃないですか!それに加えてシャドウって興味がそそられるねぇ!
「う、うん。で、二体目がエレメンタル・コア。この魔物は隣国ラゼボ王国の領土にある生命の木の近くに居ることが最近判明した。厄介なのが、魔法が全属性持ちということと少しでも近づくとその者の魔力を引き出して周囲の生態を破壊してしまうことだ」
「エレメンタル・コア…?!最近判明したってどうやって判明したのですか?!」
「そ、それは…」
「エレメンタル・コアと言うことはその魔物自体がエネルギー生命体で魔力だけで生きていてとても珍しく属性間のバランスが奇跡的に崩れた時でないと発見・討伐は不可能なはずですよね?!」
「フ、フローラ嬢よく知ってるね…。さっきの態度と今では全く違うな…」
「セドリック殿下!どうなんですか?!」
「あ、あぁ…フローラ嬢の言う通り不可能だ。最近判明したのはアーチャー公爵の長男、ジークベルト殿のお陰なんだよ」
「ジークベルト様、ですか?」
「ジークベルト殿のスキルでエレメンタル・コアがその森の生命の木に居ることが分かったんだ」
公爵、侮れないな!あの水スキルを使ったんだな。なるほど、理解した。
「エレメンタル・コアを倒す討伐隊は出すのですか?」
「……いや、フローラ嬢が先程言った通りに討伐は出来ない。不可能なんだ。少しでも近づけば生命の木に何が起こるか分からない。その生命の木はラゼボ王国にとっては、重要だからね」
「まさかその生命の木が無くなると、ラゼボ王国全体の森林が枯れてしまうとかですか?」
「…ご名答。フローラ嬢は聡明だな。その通りだよ」
当たってしまった...!ゲームもしてたオタクだったから、安易に想像ついちゃったよ!やっべぇ…そして魔物の名前聞いてテンション上がってたわ
「…殿下、出過ぎた発言失礼しましたわ」
「そう言わないでくれ、フローラ嬢。むしろ今のフローラ嬢の方が楽しそうに見える」
うっ!私がお茶会に退屈してたことが王子に気付かれたかもしれない。
「それで、殿下。三体目の魔物は何なのですか?」
「三体目の魔物はマナ・フロッグ。これは沼地とか魔力が豊富な水辺に生息する低級の魔物なんだが、水と土属性の二属性持ちが意外と厄介なんだ」
「……マナ・フロッグ」
なんだ、フロッグってことはカエルの魔物か。なんかさっきの二体の魔物と比べてテンション上がらないや。二属性持ちって言われてもふーんって感じだし
「マナ・フロッグは普段は地中に潜んでいるんだけど、水属性の魔法を魔法を浴びると体が膨張して、体内に非常に純度の高い魔力結晶を生成する。この結晶は魔力回復薬の最上級の素材となるんだ」
「つまりレアドロップがあるってこと?!」
「レアドロップ…?」
「こほん。失礼しましたわ。今聞いた言葉は忘れてくださいませ。…マナ・フロッグは討伐するのですか?」
「あ、いや。マナ・フロッグは冒険者ギルドに登録している冒険者たちが討伐するんだ。そもそも魔物は冒険者が討伐しなければならないんだ。王族は簡単には動けない」
「冒険者ギルド?」
この異世界には冒険者ギルドが存在するの?
「フローラ嬢は知らなかったかな?」
「えぇ、存じ上げておりませんわ」
「冒険者ギルドは各国にあって、サコヴィナ王国にもある。ランクはS~Gランクまであって、一番高いのが…」
「Sランクですね!そして一番低いのがGランク!」
「え、あ、うん…」
「Sランクの冒険者はどれくらい強いのですか?!」
「え、えっと…サコヴィナ王国では居ないけど、隣国ラゼボ王国では一人だけ居るよ。君も知っている人物がSランク冒険者でもあるな」
「私でも知っている人物……?」
「ジークベルト=アーチャーがSランク冒険者だ」
「え?!」
「そういう反応になるよな…。フローラ嬢、ジークベルト殿は水と光の二属性持ちと言う珍しい逸材なんだ。本来、貴族でも王族でも魔法の属性は一人一つの属性しか持たない。その点、ジークベルト殿は二属性持ち。つまり前代未聞ということになる」
公爵の二属性持ちが前代未聞なら、私の場合どうなるんです?全属性持ちなんてエレメンタル・コアしか居ないってこと?いや、待って。エレメンタル・コアには無属性はなかった。
……雲行き怪しくなってきたかもなぁ
「セドリック殿下、今一度確認したいのですがこの世界に存在する魔法の属性っていくつあるんですか?」
「…火・水・風・土・光・闇の6つの属性がこの世界で存在する魔法の属性だ」
やっぱりぃぃ!!無属性がない!?そもそも無属性って何?!あれか?隠蔽スキルである空位の器が無属性の魔法ってことになるのか?!
「…そうですよね」
「………それよりもフローラ嬢。君は魔物の話の時はすごく楽しそうに聞いていたな。それに初めて聞いてたように見せかけて核心を付く質問もしていた。令嬢なのに魔物に詳しいのか?」
グハッ…!ど、どうしよう。つい魔物の話でテンション上がってたからゲームで得た知識を話していたかもしれない。なんて答えるのが正解?教えて、アシェルお兄さん!!
えーとえーと…
「(沈黙3秒)…それは私のお兄様方の話を聞いていたからですわ、殿下。騎士団に所属している兄たちであれば遠征に行ったりして魔物の話が出てくるのは当たり前ですよね?その話を日頃から私にもしてくれているので…」
なんか、苦しい言い訳になったかもしれない。
下手か!下手こいたか!!
「そうだったのか…なるほどな」
納得した?!納得したよ!
良かった、王子が馬と鹿の王子で!!
するとセドリック王子は微笑んで私にこう言った。
「フローラ嬢、この茶会を通して君について収穫がたくさんあったよ。俄然興味が沸いた。必ず私の妃にしてみせる」
「………でも私は能力無しですよ?」
「いや、能力無しだとしても魔物に対するその知識はまさに聡明だった。父上もフローラ嬢が聡明と知れば婚約を認めてくれるかもしれない。だからこそ、君を攻略してみせるさ。……君という名の秘密の宝箱をね」
くぁwせdrftgyふじこlp
◎△$♪×¥●&%#?!
はぁ…はぁ…何を言っているんだ、この王子は
淑女スマイルが崩れてない自分を褒めたい!!
「それは…楽しみにしておりますわ、セドリック殿下。そろそろ時間のようですので、ごきげんよう」
ここは敢えて、空気を読んで!荒波立てないようにするしかない!もう帰る!!
私は帰りの馬車の中でこの鬱憤は、マナ・フロッグにぶつけるしかない!と考えた。
チート級の全属性の魔法を使うチャンスだ!シスコン双子兄と娘バカの父の目を盗んでその他の低級魔物を倒す!
そうと決まれば準備を万端にしておかないと。
魔法はチートがあるから大丈夫として…装備かな?装備なくてもいけるか…?
次回、これがオタクの性!フローラ、チート級の魔法で無双する!
マナ・フロッグ、くらえ!真炎集束弾!(メ○ゾー○)!!
第5話をお読みいただき、ありがとうございます!
優月の「馬と鹿の王子がね、闇スキルを…」という内面の叫びが今回も絶好調でしたね(笑)。特に魔物の話になった瞬間の「そんな気遣い要らないから話せ」の豹変ぶりは書いていて最高に楽しかったです!
王子の「君という名の秘密の宝箱をね」発言で、優月の「平穏希望」は絶体絶命のピンチに追い込まれました。これで、優月はもう逃げられません!
そして、ジークベルト公爵の「Sランク冒険者」設定。優月のチート能力に匹敵する規格外の存在として、今後物語をかき乱してくれるはずです。
さて、次話はついにアクション回です!
兄たちの目を盗み、誰も知らない沼地で低級魔物マナ・フロッグを相手に、優月の魔力 ∞ + 無詠唱チートの「真炎集束弾」が火を吹きます!
優月の初のチート無双、ぜひお楽しみに!




