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絶対不可侵能力  作者: サクヤ
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白い世界

会話が始まると、

地の文なんか見る影もありません。


 少年は宙を漂っていた。


 周囲の空間には色がない。


 しいて言うなら、真っ白な何もない空間。


 よく白一色の場所に長い時間閉じ込められたりすると精神崩壊を起こすというが、この空間に満ちている白色ではそんなもの当てはまらない。


 そもそも、少年は眠っているのだから。


 どれ程この場所で時間が経ったのかは分からないが、それでも少年は安らかな顔をして眠り、未だ宙を漂っている。





 少年を拉致(?)した者は少女だった。


 世界は違えど同じ人間。


 いや一概に違うとも言えなかった。


 少女が向こうの世界、即ち少年がいた世界に着いたとき、まず最初に驚愕した。


 それこそ、いろいろあった少女の人生でも最大級のものだった。


 それくらい、少女がいた世界、少年がいた世界の二つは『似すぎていた』。


 調べたところ、世界に存在する国の名前、それぞれの国で話す言葉、大陸の地形など、あらゆるものが『同じ』だった。


 流石に、科学の進歩状況は少し違っていたし、こっちはモンスターを見かけないなどの違う点もあったが。


 そして少女は考える。


 それは両方の世界で考えられていた、概念のようなもの。


 自分がそれを証明したということに少なからず高揚し、叫びたい気持ちを必死に自制しながら、そっと呟く。



「・・・パラレルワールド・・・」 





 少年はいきなり目を覚ました。


 まるで何かに無理やり起こされたかのように。


 なぜかものすごい勢いで跳ね起きたが、浮いている状態でそんなことをしても少し腹筋が痛んだだけだった。


 辺りを見回してみたが、白いだけで、他には何もない。



「ここは・・・どこだ?」



 少年はゆっくりと目の前に手を掲げ、引っ掻くような動作をする。


 すると、何もないはずの空間に、布のしわのようなものが出来た。



「能力は使える・・・片方使えたんだ、もう一つの方も使えるだろ。今この場所じゃ確かめられない」



 他にどうすることも出来ず、ただうんうん唸っていたが、またもや唐突に『それ』は現れた。


 よく見ると、少年と同年代くらいの少女だった。


 少女は無意識なのか、相変わらず男女問わず惹きつけるような声で少年に話しかけた。



「こんにちは、なのかどうかは分からないけれど・・・おはよう、というべきかな」



 少年は少し驚いたが、二度目なので硬直するほどではない。


 それに、もしこの人物が自分をここに連れてきたのなら、どっちにしろ会話は必要だと思い、警戒を解いて答える。



「どっちでもいいさ。それより、君は誰? 俺をここに連れてきたのも君なのか? あのとき俺の前に現れた人とそっくりだけど・・・顔も、声も」



「そうだよ。あれ? もしかして迷惑だった?」



「いや、そんなことはない。君を求めたのは俺だろ。迷惑とかじゃなくて、説明してほしいだけだ」



「そっか。今なら元の世界に戻してあげることは出来るけど、どーする?」



「元の、世界?」



「そう。私は、世界に絶望し、何か決定的な変化を求める君の叫びを聞いて君の世界に飛んだの」



「なんだ、それ・・・?」



「私にも分からないよ。とにかく聞こえたんだもん。だから、どーせ暇だし、いいやって思って・・・」



「随分適当なんだな。でもそんなほいほい世界を飛び回ることなんか出来るのか?」



「うん、まあ。私の能力ならね。テレポートしたり、空間と空間を繋いだりできるんだ。だから、私の世界から他の世界に行って帰ってくることは出来る、みたい。今回初めて成功したの!」



「へー。まあ俺も出来そうだったんだけどな」



「え?」



「俺の能力でも出来そうだったんだ。ただ、他の世界っていうのがどうしても分からなくて・・・」



「空間系の能力を持っているの?」



「まあな。それだけじゃないんだけど。君の世界にも能力とかあるんだ?」



「うん。なんせ君の元いた世界と同じっぽいからね」



「へ? ・・・それじゃ意味なくね?」



「違くてー聞いたことくらいあるでしょ? 『パラレルワールド』ってやつ」



「あるけど・・・え!? もしかして・・・」



「私達は同じ世界の住人でありながら、違う世界の住人なの。・・・よく分からないけど。そこで、君を私の方の世界に連れて行こうと思ったの」



「連れていくって・・・戻ることは?」



「出来ない。『パラレルワールド』の概念からすると、それは無数にある。だから、一度空間の接続を切ったら、次また世界と世界を繋ぐことに成功したとしても君の元の世界に繋がる可能性は・・・0、とは言えないけど・・・無理。可能性が0じゃないならーとかいってもそんな次元じゃないの。結果、不可能だよ」



「そっか。まあ未練とかは全く無いんだけど、ただ、それじゃ意味がないんだ」



「・・・・? どうして?」



「俺の敵はさ、『世界』なんだ、多分」



「どういうこと?」



「なぜかは分からないけど、俺は『世界』そのものに命を狙われてた。だから、その世界に行っても・・・」



「知ってるよ? ああそんなことか。大丈夫、それは心配無用!」



「は? 何で?」



「私達の世界はねー友好的なんだよ。たまに世界様がやって来たりもするし。流石に、貧しい人を救ったり、今まさにモンスターに殺されそうになっている人を助けたりもしない、ただ見守るだけなんだけどね」



「・・・・・・めちゃめちゃだな、その世界。ってか、モンスターって言ったか?」



「うん、そっちの世界では見なかったね。いないの?」



「いるわけねーだろ!」



「えー!? なら、すごい平和なんだね・・・?」



「そうでもないけどな!」



「とにかく、どーする? 行く? 色々楽しいこともあるよ? それに、君のことは誰も知らない。また一からやり直せるんだよ!」



「そんな軽い感じで世界旅行か・・・面白そうだし、行くよ」



「もう戻れないよ? 多分・・・」



「いいさ。言ったろ? 未練は無いって」



「分かった。じゃ、行こう!」



 白い世界が消滅した。


 二人は、様々な物が、色が混ざり合ったどこかに放り出され、落ちていく。


 そんな混沌とした世界にとうとう少年は意識を手放した。












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