この出逢いを運命と呼ぶのならば──
【Tips:破魔術師】
妖や怨霊を始めとする、魔の者を討つ為の術を使う者を言う。日本に居る全ての破魔術師は高天ヶ原が統括しており、才覚あるものは幼少期から【保護】されている。
また、高天ヶ原の破魔術師としての登録を拒む者は粛清対象である。
「黒鋼、そろそろこんな辛気臭い所は出るぞ」
「はいはい、これからもよろしくね……シロ!」
何も無い、2匹しか居ない無限の漆黒の中でボク達は契約を交わす。
「では往くぞ……」
「うん!」
妖艶に手を振る。すると、何も無かった黒い空間から光が溢れ出して“道”が開く。
彼女──高慢で孤高で…だけどボクには構ってさんな相棒は、優しくボクの手を取って……なんて事はしてくれなくて。気ままな足取りで進む彼女の後ろを、置いていかれないようにボクも進んでいった。
◇◇◇◇
「ヌシ、素晴らしいなぁ!もっと妾を愉しませろッ!」
「なんのッ!」
音が遅れる程の攻防に、当事者のボクは言い表しようの無い高揚感を覚えていた。
自分の命が賭かっていて、現在進行形でボクの躰には傷が増えていく一方だって言うのに……目の前の凶悪な存在を前に自分の口角が吊り上がっているのが理解る。
「面白い、面白いぞッ!ここまで妾を愉しませておいて、まだ底が見えないとは実に面白いッ!!もっと、もっとだ!こちら側に来い!」
「うぐっ!?…まだまだ!」
襲ってくる刀にばかり意識を向けていたら、唐突な蹴りを防げなくて吹き飛ばされる。最初に爪先で顎を掠められて、怯んでるうちに回し蹴り……殺意高過ぎでしょ、いや殺し合いしてるんだけど。
「ヌシ、才覚はあるというのに圧倒的に実戦経験が足らんなぁ。しかし吸収は早くて良い事だ」
「ゲホッ、ゴホッゴホ……」
「少し待ってやるぞ、息を整えたらまた掛かって来るが──」
下段からの斬り上げ。それ自体は読まれていただろうから、斬撃を受け止められた瞬間に刀から手を離して鳩尾に拳を叩き込む。
「かっ!」
「はあっ!!」
肺から空気が抜けて怯んだのを見て、すかさず顔めがけて膝蹴りを放った──だけど。
「キヒヒッ、やはり良いッ!」
「なんで、受けてんのよっ!?」
片手で受け止められた。空中に放った刀を取って追撃しても弾かれる。本当に……どうやってこんなバケモノに勝てって言うのさ…。
ボクは月守 魅央。裏社会では高名な破魔術師の家系に生まれたんだけど、色んな不幸が祟ってちょっと前までは出来損ない扱いされてきた。
それがどうしてか理解らないけど、本家が大事に保管してた特別な刀の使い手に選ばれてしまって……【黒き巫女】として500年封印されてた【呪いの女王】と戦う御役目を押し付けられた。まぁそれが目の前のバケモノなんだけど。
「これこれ、考え事とはいかんなぁ?」
「うぐっ…」
呪いの女王の討伐隊は本家の人も含めて20人近く居たっていうのに…今戦ってるのはボクだけ。
しかもボクは何故か気に入られてしまって、その上で遊ばれている状態。せめて動ける人達は見てないで加勢に入って欲しいんだけど…。って言うか、さっき斬られた背中が痛い。一応傷を治すことは出来るけど、相手の攻撃が苛烈過ぎて全然そっちに集中出来ない。
「キヒヒッ、好い眼をしておる…」
「そりゃ、どうも…」
「実に面白い…ここで殺してしまうのは実に惜しいなぁ」
「はぁ…じゃあ、大人しく頸を差し出してくれないかな?」
「冗談を言うのであれば、それらしい顔をせねば伝わらんぞ?」
今の問答……敢えて術式で傷を癒す時間を作られた。悔しいけど、余裕綽々で居られる程度の実力差があるのは確かで…。
「さて、ここからは少し手加減をやめるぞ?」
「は──」
「死んでくれるなよ?」
耳元で聞こえた声に身の毛がよだつのと、術式によって生まれた爆炎に躰が吹き飛ばされるのは同時だった。って言うか、それを認識する頃には氷漬けにされて、電撃に焼かれて、鎌鼬に巻き込まれて、他にも沢山……痛いことが沢山降り注いできて──
「…ふむ、途中までは致命傷を防いでいたが……もう少し手加減すべきだったかの?」
「……」
「息は…あるようじゃな。少しすればまた起き上がって来るであろう、心が折れたのであれば……それまでじゃ。暫しの間は紛い物共で箸休めと──ほう?」
……脚刺されてるのに、なんで笑ってるのさ…。
「キヒヒッ、最早執念ではないか。こんなに血溜まりを作っておいて、まだ動こうと言うのか」
「ゲホッ…ボクは……ゲホッゴホッ…」
「血に塗れたその顔も唆られるモノがあるのぉ…」
顎に手を添えられて、強引に目線を合わせられる。敵で呪いから生まれた存在なのに、その顔はとても綺麗で……同性でも見惚れるくらいの美貌だった。でも、ボクの勝ちだ!
「紅蓮荊棘ッ!」
「ガッ!?…キヒッ、ヌシは──」
ボクは、自分の血を自在に操ることが出来る。近寄って来たところで、血で出来た無数の棘が敵の躰を引き裂いて拘束していく。血溜まりが出来るくらいの量に一気に絡み付かれたら流石に抵抗出来ないらしくて、その隙にボクは愛刀を拾い上げて振り抜いた。
「──本当に面白いなあッ!!」
噴き付けられた血で両目を潰されて、視界が戻る頃には馬乗りになられて両手を頭上で押さえ付けられてた。
相手は片手なのに、どんなに力を込めても動かせなくて……見降ろしてくる笑顔は蠱惑的で思わず見惚れそうになった。向こうもそれに気付いたのか、澄ました笑みを浮かべてるし…。
「少し驚いたぞ?その異常な治癒能力が術式だと思っていたのだがなぁ」
「離してッ!」
「まだ戦意は無くならぬか……気に入ったぞ!妾のモノにしよう──」
鈍い音に続いて激痛が走る、声が出ない。
両腕をへし折られて、それまでボクの腕を抑えていた手が今度は顎に伸びる。歯を食い縛るボクの頬に手を伸ばしたと思ったら、優しく頭を撫で始めて…。
「暫し大人しくしておけ、ヌシとの戯れはまた後で…なぁ?」
「ま、待っ…て…」
「安心せぇ、羽虫共と処分したら──ん?」
そこで、敵はふと視線を上げた。
ボクは訳が理解らなくて、ただ恐ろしい程に殺気立ってる敵の姿にボクの抵抗する意識も削がれていく。本当に、さっきまでの戦いが遊びでしかなかったって痛いほど思い知らされた…。
「貴様等、コレはなんだ?」
低い、心臓が押し潰されそうな声……なのにボクの全身から痛みが引いて、温もりに包まれた。
少しして躰を起こすと、敵がボクに治癒術を使っているのが見えて更に困惑した。不意討ちでもしてやろうかと思ったんだけど、その時点でボクもやっと異常事態に気付いた。
「これ、封印の結界…??」
「最初に撫でてやってから大人しいと思ったが、貴様等……最初からこの娘を捨て駒にするつもりだったな?」
「えっ…?」
巨大な氷柱が本家の人に向けて放たれるけど、途中で結界に阻まれて砕け散る。
嗤う本家の人達、青筋を浮かべて怒りを顕にする殲滅対象……これじゃどっちが仲間か理解ったものじゃない。淡い期待と共に結界に触れると、やっぱりボクは弾き飛ばされた。
「なんで…ボクはずっと、家族の為に頑張って来たのに」
ボクが忌み子だった所為で、親にも弟と妹にも迷惑を掛けてばっかりだった。
だから、ボクがこの刀に選ばれてからは必死に頑張ったのに……結果を残せば家族に良い暮らしがさせてあげられるって、そう言われて、なのにボクは…。
本家の男達の声は聞こえない。でも、ボクを指差して嗤っているのは理解る。
ふざけるな、怒りが込み上がって仕方無い。こんな気持ちは初めてで、胸の中がムカムカする…身を委ねたらきっと楽なんだろうけど…。
「……キヒ、キヒヒヒヒッ!!いや、存外これは良いのかもなぁ?」
「…え、何を言って……」
「貴様等が妾を何年封じたいのかは知らんが、この程度の結界ではいつでも出られそうな練度だしのぅ……幸い、暇を持て余す必要も無さそうだ」
そう言ってボクを見る。ほんとに何を考えてるんだろう──なんて思っていると、結界の向こう側に居たうちの1人が…まるで雑巾を搾るみたいに捩じり殺された。
「…………え??」
「ほれほれ、早く立ち去らなければ次は貴様等だぞぉ?」
こっちから喋る声は聞こえてたのか、本家の人達は凄い勢いで封印の場から逃げて行った。
いや、結局置いて行かれたんですけど…。
「さて、これでゆっくり話せるな。そろそろ外の世界とは時の流れがズレ始める頃だろう」
「あの、ボクさっきから付いて行けてないんだけど」
「なに、これから順を追って説明する……と、その前に。ヌシの名は何という?」
「……?」
何故そんなことを聞くのか、ボクには全く理解らなかった。でも、向こうの纏う気配が和らぐと不思議と心が落ち着いて……気付けばボクはその問いに答えていた。
「ミオ、魅力の魅に中央の央で魅央…」
「また不気味な名を与えられたものだな……ま、後で考えるとしよう」
「失礼な……って言うか、ボクに聞くだけじゃなくてそっちも名乗ってよ」
「……ヌシ、まさかそれすら聞かされずに妾のもとに来たのか…」
言われてみれば、ボクはこの女について何も知らされずにここまで連れて来られた。
よくよく考えたらおかしいのに、流されるままで何も確認しなかった……してたところで何か変わったかと言われると、何も変わらなかったんだろうけど。
「まぁ良い。妾の名は禍月白咲姫…然と覚えておくのだぞ?」
…途轍もなく嫌な予感がした……って言うのは半分嘘で。
確かに不安な事ばかりだけど、それ以上に禍月白咲姫…後にボクがシロと呼ぶ相棒との出逢いにわくわくする気持ちの方が圧倒的に大きかったんだ。
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