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普通に考えて...?



 君は自分を普通の人間だと思うか?


 君は普通が好きか?


 俺は普通が嫌いだ!


 俺は自分を普通とは到底思わないし、普通の人間にもならない。


 他人に合わせて普通を守り、列を乱さずに生きる。

 そんな人生はつまらないと思っている!


 俺は普通なんかに縛られない!

 世間一般的には、とか普通はこうする、とかそういうのを毛嫌いしている!


 俺は普通に逆らうため日夜あらゆる「活動」を行っている。だが、いつも空回りと失敗だらけ。

 小学校を卒業し、普通に中学校に入学するのが嫌で高校に願書を提出し、飛び級で高校入学を図ったが何の返事も帰ってこず、高校に直談判に行こうとするも高校の前で不良に絡まれ、あえなく退散したり、中学校の入学式が嫌で体育館の裏の倉庫で隠れてやり過ごそうと考えるも、体操マットの上でそのまま寝てしまい、しかも誰にも気づかれずに起きたら夜になっていたなんてこともあった。


 これ以外にも様々な活動をしてきたが完全にうまくいったと言えるものは一つもなかった。だが俺は諦めない!絶対に普通には屈しないぜ!だから俺は日夜「普通」に逆らう活動をしている。


 今日は学校で「活動」するため、中学校に向かった。



 第一話「普通が嫌いだから、中1でタバコをやる!」



 俺は今、自分の教室にいる。時計の針は午前7時ピッタリを指していた。"普通に考えて"中学生が朝起きるくらいの時間だ。俺は窓側で、教卓から見て一番後ろに座り、机の上に足を乗っけて不良のような座り方で校庭を見ていた。校庭には先生らしき人がうろうろしたり、何かを話したりしているのが見える。あまり見慣れない先生や用務員のような人もいたのは、登校時刻より一時間も早いからだろうか?

 早朝の薄暗さと、窓から差し込むほのかな日の光だけが教室内を漂う。まだ生徒も先生も、誰もいない。今は5月初旬。少し涼しい風と空気が心地良い。


 "普通に考えて"登校時刻の一時間も速くに学校に来てる生徒なんていない。全国の中学校の平均登校時刻は午前8時15分から20分の間らしいから、全国の中学生で俺が1番早い登校かもしれない。

 俺は朝早く学校に来た。その程度で「普通」に逆らったとかしょぼすぎる、と思ったかもしれない。だが俺の本当にやりたいことはそれではない。




 俺のやりたい事それは普通じゃないこと。今から俺が本当にやりたい事をやる!俺はポケットからおもむろに手のひらサイズほどの青い箱を取り出した。そして廊下の音に全力で耳を澄ます。


 ...........足音も何も聞こえない。俺は箱から右手の二本指で細くて白い棒を一本。俺は二本指でその棒を挟むようにして持つ!

 そう気づいたかもしれないがタバコだ。"普通に考えて"中1でしかも学校でタバコを吸ってるなんてありえない。そして今の時代、タバコは体に悪いと言われ、世間一般の風当たりは強い。だから、普通とか世間一般とかが嫌いな俺にはまさにうってつけのアイテムと言える。何よりかっこいい。最近はそうでもないと思われることが多いらしいけど、まだ俺の中ではかっこいいと思ってるし、世間がどう思おうが俺は世間とか普通には縛られない!

 早朝の教室。足を机において日の光を浴びながらタバコを一服、そんなシチュエーションを求め、朝早くに来たのだ。世間一般、"普通に考えて"あり得ないし、そんな事に一体何の意味があるんだというのが、普通の意見だろう。しかし、俺が目指しているのはそういう事である。意味など、この朝焼けと静寂の教室の空気をタバコと一緒に吸いに来た。それでいい。俺は指に挟んだタバコを口に近づけ一服。


 やはりタバコは旨い。そしてさらにもう一服。


 ここに来るまで、家を抜け出したり、朝練のフリして先生に挨拶したり、教師から隠れたり色々面倒だった。誰にもこのことは話していない。俺だけの秘密だ。だから俺が良いと思ったことが何よりも大事だ。この瞬間、俺はすごく気分が良かった。



 しかし、そこで俺は痛恨のミスをしてしまった。



 俺は口に近付けた時、俺はうっかり手からタバコを滑らせ、地面に落としてしまった。タバコは真ん中くらいで二つに割れ白いかけらと粉が周りに飛び散った。そしてほのかにココアの香りが漂った。


 痛恨のミスだ。


 このタバコは"普通に考えて"吸えない。このタバコはココアシガレット。今までタバコと言ってたのも全部ココアシガレットなのだから。


 俺が今まで言ってた、タバコを吸うとは全部吸っているフリだった。吸っていたのは教室の空気だけだった。本物のタバコは未成年なので買えなかった。なので、苦肉の策としての代用でココアシガレットを使ったのである。決して、本物のタバコは怖かったとかそういうのではない。


 地面に散らばったココアシガレットを見て俺は焦る。ああ、まずい。ここでお菓子食ってた事がばれちまう...。この中学校、というか全国的に見ても中学校では普通、お菓子は禁止である。やばい。でも落ち着け、"普通に考えて"ここは掃除用具で……


 ...............いや待てよ。"普通に考えて"?いや何を言う。俺は普通を毛嫌いしている。現に今こうして教室に登校時刻の一時間前に来てるのも、学校で一人、お菓子食ってるのも全部"普通に考えて"あり得ない事だ。そうだ俺の目的を見失うな!

 "普通に考えて"はダメだ!


 地面に落ちたココアシガレットをじっと見る。そうだ。一本落ちて一本が無駄になったんだ。金がもったいないって今思ってる。でも無駄にならない方法がある。俺はしゃがみ込み、割れて2本になったココアシガレットの片っぽを人差し指と親指で、つまむようにして持った。"普通に考えて"床に落ちた食べ物は食べない。"普通に考えて"は...ね。


 俺は口を歯科検診の時くらい大きく開ける。俺は床に落ちた食べ物くらいなんてことはねえ!ココアシガレットを持った手を大きな口に近づける。落ちたもんだろうが関係ねえ。食ってやる!これで証拠隠滅も同時にできる。一石二鳥だ!俺はさらに口を大きく開け、口にココアシガレットを近づけた。行くぞ!!



 ........そこで俺の手が止まる。..........正直汚ねえ...。落ちた食べ物は衛生上良くないから、食いたくねえ....そんな感情が湧き出てきた。

 いや、今更何を言う。大体落としたのはお前だろ。お前のせいだろ。さっき普通に考えるのは駄目とか言って、食べようと意気込んでたのは誰だよ!と自分に向けて言った。さっきの勢いでそのまま押し切ろうと思ったがやはり迷っている。


 "普通に考えて"...いやいやそもそも床には何億という菌が生息しててそこに落とした食べ物を口に入れるって結構危険じゃないか?3秒ルールっていうのもあるけどあれはそこまで科学的根拠がないって話も聞くし、何より3秒なんかとっくに過ぎてる。

 俺はもとはかなりのビビりなのだ。近所の犬が怖くてその道をずっと通らなかったり、新種の病気が流行った時もそれが怖すぎてマスクを二重にして外に出たり、外から家に帰って来た時もアルコール消毒液をしてから手を石鹸で洗うくらい用心していた程あらゆる物や現象に対してビビりで怖がりなのだ。今年中学校に入学してビビりを克服しようと思ってたけどやっぱ怖い!


 いやいや待て。"普通に考えて"はダメだ。「普通」なんかクソ喰らえだっ。いやでもやっぱ落ちた食い物は菌ついてそうだから食いたくない。俺は葛藤していた。くそっ!早く決めなければ!どうすればいい!?


 そんな時廊下から大きな足音がこの教室に近づいてきた。



 まずい。本当にまずい。この音は走っている時、スリッパが廊下の床を叩くことで鳴るクソでかい足音だ!この音を聞いて教師どもは廊下で走る生徒がいることを察知し、「おいお前!廊下を走るな!」と怒鳴り散らす。先生がやってたんなら何も言われない。理不尽だ。

 俺は大焦りでとりあえず持ったココアシガレットをそのままポケットに突っ込んだ。この走ってる奴が俺に気づかずにこの教室を通り過ぎていく可能性も考え、その場に身を伏せ、隠れてやり過ごす方法も考えたが、そいつはこの教室を通り過ぎる気配がなく、直前で止まろうとしているのを足音で察知し席に座り姿勢を正した。


 俺は更に焦る。下に落ちたもう片方のココアシガレットはそのままだ。まずい。ばれたら家に連絡いってそれから…などと良くないシナリオが頭をめぐる。仕事はまだやったことないけど仕事のミスがばれる時ってこんな気分なのかもなどと今考えるべきじゃないことが浮かぶ。足音が普通に歩くスピードになり、息を切らす声が聞こえてきた。

 そして扉を開け放ち現れたのは、俺の担任だった。


 一番最悪のパターンだ。俺は更に焦った。俺の担任は怒るとめちゃくちゃ怖い。おまけに、拘束時間が長く一時間だろうが平気で説教する。一番面倒な奴が来ちまった!俺は自分の不運を呪う。担任は座ってる俺に気づかず教卓に近づいて行った。

 一瞬このままばれずにいけるか!?と期待した。しかしそんな期待はすぐに消えた。担任は...


「はぁ~。えーと確かここに忘れ…ん?えっ?うわっ!こんなところで何やってんだ!おい!」と俺に向かって叫んだ。


 瞬間、俺はココアシガレットがばれたのだと思った。俺は確かにポケットに片方の棒を入れ、もう片方の地面に落ちている方は先ほど担任が扉を開ける寸前、机を少しだけずらし、見えないように調整して隠した。担任は今教室の教卓のすぐ右に、俺は一番後ろの一番窓側の席に座っている。こんな距離から見えるわけないと思った。

 しかし俺は困惑しながらも、ばれたと言う最悪の事態を想定し、身構える。こっち側に担任が来る。やばい。やばいぞ。そうだ。こんな時どう切り抜けるか。

 こういう時は"普通に考えて"…と思った矢先。


 担任の顔が先ほどの眉を吊り上げて怒る顔ではなく、どちらかというと呆れやため息をつきそうな顔に変わっていることに気づいた。担任は近づいてきて、ため息をついた後、思いがけないことを言った。


「お前…今日は学校休みだぞ…。」「え?いや今日は火曜日ですよ。?火曜休みなんてそうそう...。」「お前…今はゴールデンウィークだぞ…」


 ゴールデンウィーク?……………???あぁ。そう。ゴールデンウィーク。"普通に考えて"...いや普通?そう今、世間はゴールデンウィーク。5月初旬にある5日間ほどの大型連休。学生も当然ゴールデンウィーク。"普通に考えて"みんな休み。今頃みんな寝てる。休日だから、寝てる。ここで今までずっと考えてたこと、および今までの素行がすべて崩れ落ちていき、その瓦礫と共に自分も奈落に落ちていくような感覚になった。



 その後、俺は荷物をまとめ、帰ることにした。

「お前は本当におっちょこちょいというかなんと言うか…本当に…うーん。」と担任は腕を組んで考えるようにしていった。担任は教室に忘れ物を取りに来たらしく、忘れ物のノートらしきものを持ちながら、俺と二人並んで廊下を歩いていた。

 先ほど担任は廊下を走って教室にやって来たが、"普通に考えて"廊下を走るのは禁止だと全国の学校では口うるさく言われていることだろう。それは廊下で走った生徒同士がぶつかると怪我の元だから作られた人を守るためのルールなので、担任が休みの日に誰もいないであろう廊下を走るのは別に構わないと判断すべきなんだろうか。結果的に俺がいたから誰もいないわけではないのだが。

 ただ中一にもなってゴールデンウィークに気づかず学校に来るなんて間抜けはそうそういないだろう。朝焼けを浴びながらタバコを吸う計画の方に意識が行き過ぎて気づかなかった。本当に馬鹿である。


 廊下を歩いている途中、俺はトイレに行きたくなり、トイレに行くと一緒に歩いている担任に言うと、「待っててやるから行ってこい」と言ってトイレ前で待っててくれた。


 トイレで用を足しながら、俺は一つの考えに辿り着く。休日に学校に来るなんてめちゃくちゃ「普通」ではないのではないかという考えだ。タバコを吸う計画はよくよく考えたら、別に休日も平日でもどちらでも構わない。"普通に考えて"休日に学校に来るなんて部活やってるやつくらいのもんなんだから、今俺は「普通」を毛嫌いする者としての信条を全うしているのではないかと考えた。


 しかし、今俺はとても眠い。トイレの中であくびを二度ほどした。睡眠不足で意識が朦朧としている。「普通」を毛嫌いしているとはいえ生物の本能、睡眠不足には勝てない。明日はゴールデンウィーク開け。普通に学校である。

 目を半開きにしながらトイレから出ると先生が手に何か持っている。片手には忘れ物のノートを持っているが、もう片方の手にはコーラの缶を持っていた。缶には水滴が付着し、ドライアイスのような冷たそうな煙を少しだけ纏っていた。


「お前、確か最初の自己紹介の時に好きなものはコーラって言ってたよな?せっかく休日学校に来てさ、ただ何もせずに帰るって嫌だろ?やるよ。他の生徒が学校に来てないときに学校に来たご褒美…っていうのもおかしいけど。まあとにかくやるよ。」


 担任は俺にコーラの缶を差し出した。俺は「いや、悪いですよ!そんな!」と言うと、


「いいって!別にこれくらい!あっ、でも他の先生とか生徒には絶対に内緒にな!」


 担任が言った。俺は礼をしてコーラの缶を受け取った。そして職員室の前まで来たところで、「じゃあ俺は戻る。気を付けて帰れよ。」と担任と別れた。担任はコーラを持っていた片手に缶コーヒーを持ち、忘れ物のノートを持ったままその手を上に振っていた。俺は帰り道、貰ったコーラ缶を開け飲むことにした。"普通に考えて"、缶コーラはそのままプルタブを開けたのち、そのまま口につけて飲む。だけど俺は…

 …今はその考えはやめよう。俺はプルタブを開け、普通に飲んだ。いつもより美味しかった。




 次の日、学校でお菓子が見つかった。誰かがお菓子を持ち込んだとされ、学校にお菓子を持ち込むのはより厳しく禁止するとお触れが出された。連休で誰が持ち込んだか証拠を集めづらいので犯人捜しはされないことになり、より厳しく校則を守ろうという運動がなされた。


 より厳しい校則、ルールはとても強化された。


 俺を縛り付けるものはより強くなった。でもこれからも俺の「普通」を嫌う信条は多分揺るぎない。さあ次は一体何をしよう。ところで学校にお菓子を持ち込んだ非普通な奴っていったい誰なんだ?噂によると俺のクラスの床に落ちていたらしい。昨日までゴールデンウィークで連休だったのにその間に持ち込まれたんだろうか?じゃあ、多分部活動してる誰かだろうか?見当もつかない。担任はどこで見つかったかまで知らされていない様子だった。命拾いした。あ、いや、犯人の人の話だぞ。


 ああ、最後に一つ。見つかったお菓子の種類はココアシガレットだったらしい。




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