5話 寒さが襲う
外はクレソンが言った様に、絶賛猛吹雪だった。辛うじてここが森の中であるのは判るが、吹く風が体を痛めつけてきて三人は洞窟から足の歩みを止めてしまった。
「サムいー!」
カルミアに至っては猫の獣人という事で寒さに相当堪えている。クレソンの方は幾分か耐えられるらしく、率先して前を歩いていた。
「風がさっきより弱くなってきたから、後少しの辛抱だぞ。足元気を付けて歩けよ?特に最早千鳥足になってるそこの猫耳隊員さん!」
「へっへい!だっ…ダイジョー…ブっすぅ!」
「良し!」
互いに言っている事と自身の状態が噛みあっていない事を無視して、深く積もった雪に苦戦しつつ大股で歩き出す。山の方を見ていた『ソレ』も歩き出した。二人同様に雪に足をとられているが、表情は変わらず無表情で苦痛も何もなく二人の後を着いて行く。
歩いている最中、カルミアは洞窟を出る前にクレソンから渡された塊をさっきからいじっていたが、何か不具合があるらしく、渋い表情で立ち止まりクレソンを呼び止めた。
「んっどした?カルミア。」
「…クレソーン。クレソンからもらったダンボーの魔法具、ゼンゼンあったかくなんなーい。」
カルミアに言われ、クレソンはカルミアが待つ塊を受け取り、あちこち見て弄り回した。結果、どうやら塊は何かの不具合があって壊れてしまったという結論になった。
クレソンの言葉にカルミアは悲鳴の様な不満の声を上げた。どうやら寒い場所でも温まる事の出来る道具か何かの様なのだが、壊れてしまっていて温まる事が出来ないらしい。
起動してから徐々に熱を上げて、一定の温度まで達すると保温状態になる筈だったが、それが無駄に終わってしまい、道具をいじるクレソンではなく、一番に寒がっていたカルミアが一番落ち込んだ様子を見せた。
クレソンの方は道具の様子をまだ見ていたが、どこも壊れていない筈と呟き腑に落ちない様子だが、仕方ないとまたその道具を懐に仕舞いまた歩き出した。カルミアも諦めた様子であからさまに落ち込んだ姿勢のままクレソンの後に続く。
森の中を歩けば木が壁代わりになり、洞窟を出たばかりの時に比べたら風を防いでくれて少しましになった。それでも寒さだけはどうしようもない。そこは洞窟の中にいた時と変わらず寒さが身に染みる。
そんな寒さを誤魔化す為か、二人は歩いている最中も話をしていた。
「そっそういや、隊長…どーなったかなぁ?」
「そうだなぁ。隊長の事だから生きてるだろうし、怪我して動けないって事も無いだろうし。」
歯をカチカチ鳴らしながらも喋るカルミアを気遣い、壁役となり風避けになりながら返事を返すクレソン。自分らがそもそもこの北の地に降り立つ切っ掛けである隊長の安否がやはり気がかりらしい。
「…どうしよう。もし…隊長に会えなかったら、おキュウキンもらえないよぉ!」
「あぁ!そうなったら俺ら、この土地でやるべき事をやっても無事に帰れないかもしれない!」
安否とは違う事を考えていた。どちらにしろ二人は先の事が気になっている。寒いせいで不安に駆られているのかもしれない。そんな不安を払拭するにはここでの目的を果たさなくてはならない。外部から見ても二人の目的は分からないが、先に進む二人について行けば分かるだろう。
先に進み森の中。先にクレソンが言った通りに雪の勢いは弱まり、雪の白と木々の黒の光景が見えて来た。とは言え寒さは変わらずまだ三人の周囲を取り囲むようにして襲って来る。
一度洞窟に戻ろうとクレソンが提案しようと振り返ったその時、向こうの木々の間に何かが見えた。見えたそれを見失わない内にクレソンは走って見つけたものに近寄る。カルミアも走るクレソンの後に続いて走った。
クレソンが見つけたのは木で作られた看板だった。雪が降り積もっていた看板から雪を払い落とし、何が書かれているのかを確認した。
「ここ…から、な・ん・とう…南東?南東に進んだら、まちあるって!」
「いあぁー!まちー!早くいこっ!ハヤ足でいこう!」
運よくヒト里への手掛かりを見つけ、先程までの暗い雰囲気が吹き飛ぶ勢いで喜ぶ様を見せる二人。だが、方向を間違えない様にと何度も確認している二人を横目に『ソレ』は先に歩き出した。それも二人が行こうとしている方向とは違う方へと。
気付いた二人は急ぎ『ソレ』の肩に触れ止めた。
「まってまってまつっ!どこいくの!?」
二人に止められつつも未だ二人が行こうとは違う方向へと進もうとする『ソレ』に二人は困惑した。見つけた看板が目に入っていないのか、二人でしていた話を聞いていないのか分からないが、止めても尚進もうとする様に二人は『ソレ』には今考えた事とは違う理由があると考え出した。
「どうした?そっちに何かあったのか?」
「あたしからはよく見えないけど、そっちにいきたいのかな?」
獣人であるカルミアが気付かないとは思えない。何が『ソレ』に見えたのか。聞いても『ソレ』は答えず、ただ黙った進む方向、山がある方へと行こうとしている。
「どしたんだろう?わかんないけど、あたし…サムくてヨロコびで得たやる気がなくなってきました。」
「…もしかして?」
寒さによりまちへと行きたい欲求が増したカルミアとは違い、クレソンは何か思い当たる事があり、思考した後に『ソレ』に向き合い、問い詰める。
「なぁ君、この先に何かあるんだな?間違いなく、あるから行こうとしているんだよな?」
目と目を合わせながら聞かれ、『ソレ』は変わらず無表情で何も喋らない。だが、確かに今自身が進む先に行きたい、という意思をクレソンは感じ取ったらしい。
「…そっちに行こう。」
「…えぇええぇえ!?」
『ソレ』が行こうとする方へと一緒に行く事を決めたクレソンにカルミアは当然の如く不満を見せる。一刻も早くまちへと行きたい、なのに何故まちがあるであろう方向とは違う、それも山へと行こうとしているのか。不満に思うとは当たり前だ。
そんなカルミアに向き直ってクレソンは真剣な表情になる。続けて不満を口にしようとしたカルミアはそんな表情のクレソンを見て口を噤んだ。
「考えて見ろ、カルミア。この子は今まで自分から動く事はなかった。精々俺らの後を着いて来る位で、それは記憶を失ってしまってどうすれば良いか、自分でも判らなくなっている為だと思う。
だが、今この子は自分から行きたいと思って自分から動いている。これはきっと予兆だ。」
言われてカルミアも気付いた様に目を見開いた。記憶を失って自発的な行動をしない状態だと思っている矢先に自発的に行動し始めた。これは、『ソレ』が何かを思い出している予兆ではないかと。
隊長が言っていた案内役としての『ソレ』。もしかしたら今、自分らがこの北の土地に来た目的の地へと、今『ソレ』が導こうとしているのではないかと。
もしそうなら、今その好機を逃す手は無い。
「よしっ…モクヒョーヘンコー!目指すは山!センドーはキミ、マカせたぞ!」
知って俄然減った筈のやる気が再び増し、カルミアは『ソレ』を自分らの前に出し、道案内を任せて再び進行を再開した。クレソンもそれに続いた。
「おっ良いのか?まちに行って休みたかったんじゃないか?」
冷やかす様にカルミアに話し掛けるクレソンだが、そんな語り掛けを嘲笑う様にしてカルミアは言った。
「なぁにネぼけてんの!そもそもまちにいこうってなったのは、こうして目的をハたすタメのキョテンを作るタメだったでしょ?でも、目的さえハたせばもうキョテンを作る事もしなくていーでしょ?」
寒さが苦手なのはそうだが、それから逃れる為に動いている訳では無い。そういう事を言いたいらしい。なるほどとクレソンは言い、改めて自分らの『役目』を果たそうと、『ソレ』の案内の下移動を開始した。




