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永久にトモに_とある異世界譚(改)  作者: humiya。
第2章 ベリーとスパイン
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23話 俺から恩返し(終)

 意識が定まらない。熱が出て何も考えらなくなった時の様に虚空を眺め、在りもしないものを見続けている様だ。

 辺りは濃い霧に包まれている様で、視界がはっきりしない。足取りも重い。

 次第に意識が浮上してきた。そしてだんだんと俺が何をしていたのか思い出してきた。

 故郷で家族を含めた大勢から疎まれた事、故郷を出て旅に出た事、旅した先で大勢と会った事、そしてサイゴ、俺がどうなったのかを。

 あぁ…俺は死んだんだ。正確に言えば肉体を失い、中身だけの状態になったんだ。

 これは俗にいう『幽霊』になったという事か。幽霊になると記憶を失うと聞いたが、俺はそんな事にはなっていない。何もかも覚えている。良かった事も、嫌な事も全て。

 思い出して、胸の辺りが重くなる。締め付けられてその場にうずくまる。

 なんであんな事になったんだろう。俺はただ、自分が楽しいと思える生活を送りたかっただけなのに、気付けばそんなものとは無縁な人生になってしまった。

 それでも確かに充実したものだったと言えるし、それも全て自分自身で台無しにしたとも言えて、何ともふり幅の大きい生き方をしたと思う。

 これからどうなるんだろう。アルがいなくなった後、俺は何せずにいた。これからも実体を持たず、ふらふらと彷徨う存在として残り続けるのだろうか。


 随分と落ち込んでますね。大丈夫?


 いきなり俺とは違う、聞いた事の無い声が聞こえて思わず仰け反った。周りを見れば、霧に包まれた場所から、どこかの森の開けた日の差す場所に立っていた。

 ここはどこか分からず、こちらに話し掛けたであろう女の姿を見た。

 最初に目に映ったのは、月白げっぱく色の長い白髪だった。葡萄えびぞめの色をした目が確かに此方を捉えられて背筋を伸ばされる気になる。


 君は『不死族』かな?こんな場所にいて、何か探しているのかな?


 不死族、幽霊の他に腐食した屍体したいの体を持つ種族を含んだ総称だ。合っていると言えば確かにそうだ。そして探している、という言葉に俺は言葉を詰まらせた。

 探している物は確かにあった。でももうなくなった。それも自分の手で消してしまった。だからもう何もする事が無いと、俺は呟く様にして言った。

 その言葉を聞いた女は、少し考える素振りを見せた後、俺の方へと向き直った。


 なら、君は今自由なんだね。体だって透けているし、どこも透り抜けて行けるんだね。


 自由…か。それは以前の時も言えた事だ。そこへ行くのも、勝手に決めて行ったり行かなかったりしても、誰にも咎められない、そんな生活だった筈だった。

 でもその時も、今も自由だからと良かったと言えるのか?以前の生活だって結局どこにも行けた筈なのに、どこにも行く事が出来なかった。

 アルを見捨てた罪悪感に縛られ、きっと今もその罪悪感に縛られて幽霊になったんだろう。そんな自分が本当に自由と言えるのか?


 うん、言えないね。


 言っておきながらあっさりと否定しやがった。何が言いたいんだこいつは。


 うん、確かに君は自由ではないね。だって、自分で勝手に自分を縛って苦しんでいるんだもん。本当はそんな事をする必要なんて無いのにさ。


 何を言っている。俺が罪悪感を持つ事が間違っていると言いたいのか?


 君のそれは罪悪感じゃないよ。それはただ諦められなくて足掻いているだけだよ。

 本当はやりたい事があって、それを今は忘れていて、それで手探りで探し回っているだけ。

 手段なんて、なんでも良いけど最初はやっぱり皆探すんだよ。君もまだ見つけられなくて、だから君は歩いているんだよ。


 何を言っているのか分からないが、なんとなく俺の事を励ましたくて言っているという事は分かった気がする。

 探している、という言葉もそうかも、と思えた。俺は何かを探している。それをまだ見つけられていない。アルやカナイ達に出会えても、俺はまだ手に入れられていない。

 しかし、何故俺に対してそんな事を言うんだろうか。まるで俺の事を知っているかのような口振りだったと感じた。


 何、私も『ヒトの親』だからね。君を見ていてそんな風に感じただけさ。まっ親『未満』ではあるけどね。


 言ったそいつの腹をよく見れば大きく膨らんでいた。そうか、こいつはもう直ぐ親になるのか。

 俺が出会って来た、見て来た親と比べたら随分と調子の軽い奴だ。だが、悪い感じが全く感じられない。不思議な奴だ。

 それから、俺は歩く事を一旦止めて、その親になる予定の奴を眺めた。こいつは出会った奴とも違い、大人しくもどこか芯のしっかりした奴だ。いや、そもそも俺が出会った奴らはどいつも極端なだけかもしれないが。

 たまに奴と話して、それとなく相談めいた事もした。そうすると、そいつはまるで本当に見て来たかの様にピタリと俺の心情を読み当て、納得の出来る答えを返してきた。


 君の親だって、きっと君と話したかったはずなんだ。でも、君は見なかった。見なかったから話せなかった。それだけだったんだよ。きっとお互い、目を見れば話を出来たはずだと思うよ。


 確かに俺は親を見て来なかった。俺に怯える素振りを見て、その時点で俺は親を見なくなった。多分、俺は親を俺を見て怯える姿を見たくなかったんだ。それがすれ違う切っ掛けだったんだろう。

 分かって見れば、随分と後悔の残る人生だった。あれから幾つ時間が流れたか分からないが、感覚でもう随分と長い時間が経った気がする。だから俺の親も、故郷で俺を覚えている奴もいないだろう。

 本当に後悔ばかり出て来る。でも不思議と嫌な感じがしない。それは聞いてくれるヒトがいるからだろう。ヒトと話すのは億劫だと、俺が拒絶した為なんだろう。こんな風に話して、気持ちが楽になるなんて知らなかった。

 まぁ、一部を除けばどいつもこいつも落ち着きの無い奴らばかりで、碌に話を聞かない奴だったのもあるかもしれない。

 そんな風に思い出すと、自然と笑えた。ふっと息を吹き出し、口角が上がっているのが自分でも分かった。そんな姿を見て、奴も笑っていた。

 そうか、あんな目に遭っても俺もちゃんと笑えたんだな。


 そんな時間が流れ、もう直ぐ奴が出産するであろう日が近づいたある日、俺だけがその異変に気付いた。

 奴の腹から、何の生気も感じられない。

 幽霊の状態だからか、ヒト一倍に生き物の気配に敏感になった為に気付いた事だった。何故だ?腹は順調にでかくなっているし、奴の方も健康そのものなのに、何故腹の中にヒトがいる気配が無い?

 どこかで聞いた事のある、嫌な言葉。ヒトの体の事には詳しくないが、何らかの原因で腹の中の胎児が息をしない状態。まさか、出産の日が近づいた今になって!?

 奴は今眠っていて気付いていない。だが、目覚めて医者が診れば、もしくは親になる自分がいち早く気付くかもしれない。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!そんな事になっては駄目だ!何故いつもこうなる。アルの時だって、何も悪い事をしていないのに周りから無視され、最後まで報われなかった。

 こいつだって、悪い事などしていない。むしろ俺に言葉を送り救ってくれた。そんな奴らばかり、何故こんな目に遭う。不公平だ!

 …何かの間違いだと思いたくてもう一度腹の中の気配を探った。そして気付いた。本当に小さくはあるが気配を感じた。良かった、まだ生きている。しかし、その気配が徐々に薄く、消えかかっているのも分かった。

 まだ生きているのに、もう直ぐこいつは死んでしまう。どうにか出来ないのか?実体を持たず、何も出来ない俺に、何か出来ないか?

 そう思っていて、ふと思う着いた。実体を持たない、そしていつか言われた透り抜けられるという言葉。

 そうだ、こいつの命が今半分足りない状態なら、俺が足りない分を補えば良い。

 出来るかどうかなんて分かる筈が無い。だが、やらなければいけないし、今出来るのは俺だけだ。

 結果を考えれば、俺の存在は消えて、奴とは別れる事になるだろう。だが、元々芯の強い奴だし、俺がいないからと悲嘆に暮れる様な奴じゃない。そう信じている。

 こいつには色んな意味で助けられた。だからこれはその恩返しだ。精々しっかり、元気な子を産んでやれよ。


「俺は今ここにいて、自分でやると決めた以上、絶対にやり遂げてみせる。」

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