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永久にトモに_とある異世界譚(改)  作者: humiya。
第2章 ベリーとスパイン
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回想6

 森の奥、そこで俺はアルと出会い多くの時間を過ごした。集まるヒトが増えてからは最初の場所に行く事は無くなったが、今久しぶりにその場所に来ていた。

 そこは高い位置、崖際で眼前に森や山が遠目に見える景色にはずだった。今では陰際の光景は無くなり、代わりに開けた広場の様な草原が広がり、見た事無い白い花が咲いていた。

 そして更にその奥、何かが光って見えた。よく目を凝らすと木の陰の様な物が見えた。だが見えるだけで本当に木があるのかは近づいて見なければ分からない。

 白い花が咲き乱れる広場、その中央にアルが立っていた。俺の事を待っていたのだろう、俺の姿を見とめる柔らかく、小さく笑った。見た事無い静かな笑みだった。


「見て、すごいね。本当にあの木がこんなに近くにある。このまま進めばあの木の傍まで行ける。木に大きな穴が開いて見えるから、もしかしたら木の中にまで進めるかもしれない。」


 嬉しそうに光っている方を指してアルははしゃぐようにして言う。俺には影に見えているが、アルには完全な気の姿が見えているらしい。それも穴が開いているという。


「敵討ちか?」


 俺が言うと、アルは困った様に眉をひそめた。


「…そう思うよね。私もね、最初は自分の手でそう出来たらって思ったよ。でも、時間が経つにつれてそういう気持ちが薄れていったの。薄情かなぁ。」


 言うアルの表情は困った様に眉を顰めたまま笑っていた。どうやら家族を失った悲しみは薄れているらしい。しかしそれは可笑しなことでも薄情な感情でもない。

 どんなに深い悲しみに暮れたとしても、時間が経てば自然と心に整理がついて悲しむ気持ちも落ち着いていくものだ。それがアルであっても他と変わらない。

 そしてアルが言うに、今ここにいるのは敵討ちではないという事だ。なら何故来たんだ。


「何故って、だってこのままじゃ皆危ないんでしょう?なら、なんとか出来る私が行くしかないじゃないか?」


 あぁそうだ。きっとこの先に進めるのはアルだけだ。現に俺はこの場に立っているだけで肌にじりじりする痛みを感じている。恐らくあの光る方向に進めば、もっと痛みを感じるか何かして進む事が出来なくなる。そう直感した。

 アルをこのまま行かせたら、もう追いかける事も二度と会う事も無くなる。そんな予感が頭をよぎる。


「行けるのは確かにアルだけだが、行って何をする?クロッカスの奴が言ってたろ。あれだけの力を持った存在に何かを施せば反動もでかくなる。下手をすればお前が死ぬかもしれないんだぞ?」


 これはあくまで仮説だ。だがありえない事とは言えない。力の強いものに近づく、触れるだけで影響を受けるのは当然の事。それが破壊行為となればしっぺ返しが来るかもしれない。

 それに、アルの言う木に接触するのは最終手段だと決めたはずだ。アルもそれに同意していた。だがアルは来た。嘘をついてまでここに来るという事は、皆に言えば確実にとめられるとアルにも分かって来たという事だ。


「…もう良いんじゃないか?こんな世の中。」

「えっ。」


 気でも抜けた様な返事を返されたが、俺は気にせず話し続けた。


「他所の連中は戦争を続けて、それがなくてもまちの至る所で貧困で彷徨う奴らが溢れてる。

 俺らだってそうだ。実の親にさえ見放されて生きて来た。それも俺らだけじゃない。そんな奴らがそこかしこにいる。

 なんで助ける必要がある?嫌な事ばかり続けて、最後には自滅して荒れた土地だけ残して、迷惑極まりないだけだ。いっそ放って置いたって良いだろ。」


 今まで考えた事を全てぶちまけた。本当に生きて来て嫌な物ばかり目にしてきた。余所者だからとヒトをいぶかしんだり、血が繋がっているだけで他に何もしれやらない家族。そして戦争ばかりの昨今。

 もしそれらが原因で異変が起きたというなら、それこそ自業自得だ。俺らが関係無い奴に対して助けてやる義理は無い。しかもそれをアルがやるなんて、一番あってはならない。


「…うん、本当に嫌な事ばかりだったね。私も一人の時はいつもこの場所で隠れて泣いて、誰もいないし誰も来ない。そんな日々が続くのが辛かった。

 …それでもね、シオン。私、生きて来たんだよ?心が痛むばかりだったけど、それでもこうして生きて、そしたら皆に会えたんだよ?

 きっと皆そうだった。生きて行く中でも、辛い事だらけでも良い事があったから、生きて私達は出会えたんだよ。だから私ね、皆に会えたこの世界が無くなってほしくない。」


 泣きながら、鼻声になりながらアルは言った。それは間違いなく、建前なんて含まれないアルの本心だ。なんとも胸焼けしそうな程甘い考えだ。でも、アルの言葉だからこそ、嫌悪感も何も悪く感じない、綺麗な音だった。

 それでも、俺はアルのやる事を考え、その背を押す事はしない。腰に差していた剣を鞘から抜いた。アルもそれを見て、同じように持っていた訓練にいつも使っていた剣を鞘から抜いた。

 何度も言葉を交わし、それでも話が通らなかった時のたった一つの手段だ。お互いそうしてきた。だから今回もそうだ。


 剣の指南、そう言うが正直俺から指南する事はほとんど無かった。一度教えればアルはどんどんと吸収していき、直ぐに自分の力へと変えていった。正にいつか訓練中にも言った才能なのだろう。それに気付かない身内はどいつも目が節穴だったんだろうな。

 いや、もしかしたらアルのその力を恐れていたのかもしれない。

 訓練を続けていく内に、徐々に片鱗が確実のものへと成っていった。力こそ弱いがアルとの剣戟で俺が押された事は一度や二度ではない。一度咄嗟の判断で懐に忍ばせていた短剣を握ってしまったのは悔しい思い出だ。

 とにかく、アルの剣術の腕は確かだ。戦い慣れた俺と対等に渡り合えると言って良い。しかし、本人はそれを自信に繋げるどころか自分の卑下してばかりだった。その理由を知ったのはあの時、初めてアルの家族の話をした時だ。

 あまりの自己を否定してばかりだっただけに、自分の実力を自分自身が認めて来なかった。その為にその実力を発揮する日は終ぞ無かった。そう思っていたが、その日がこの時披露されるとは思っていなかった。

 撃ち合う音が随分長く続いた。俺が強さを重視した攻撃態勢なら、アルは速さに特化した戦い方をする。俺の振るった剣があたったかと思えばそこにおらず、いつの間にか横か背後に回っている。

 しかし、速くともアルは相変わらず体力が無いから、直ぐに息を切らす筈。だから俺は粘った。アルの剣が掠りはしたが中ってはいない。

 そうして決着がなかなかつかぬまま、互いに息を切らしてきた頃、アルは意を決したかのように頷くと一気に距離を詰め、剣を大きく振るって来た。俺は直ぐに自分の剣で受け止め、そのままつばり合いになった。

 金属がこすり合う音だけが響き、二人睨み合った状態が続いた。俺は直ぐに離れた瞬間、一瞬の隙を突いて攻撃しようと考えたが、その前に動きを見せたのはアルの方だった。正確にはアルの剣を持った手とは逆の手だ。

 今剣術で戦ってはいるが、俺はそこでアルは魔法の手解きをクロッカスから受けていた事を思い出す。今の今まで忘れていた自分を恨みつつ、俺はアルが自身の手の平に仕込んだ魔法陣を発動した。

 瞬間、俺は受け身も取らずに倒れた。叩きつけられたようにして顔を地面にぶつけ、動こうとくも動けない。これは拘束か麻痺の魔法だと身を持って察した。

 決着が着いた。それもアルの事実上の勝利だ。俺は当然納得がいかずずっと藻掻いている。でも動けない。


「この魔法、しばらく体が麻痺して立てないだろうけど、時間が経てば直ぐに効果が消えるって。だから体そのものには害が無いはずだから安心して。」


 アル直々の説明を聞いても、俺はまだ藻掻いていた。可能性が無くても動きたかった。動かねばいけなかった。


「…この奥に、大きな力の源があるはず。だから、そこを叩けば異変も治まると思うの。大丈夫。終わったら直ぐに戻って来るから。きっと…多分平気…だよ?」


 かろうじて動いた首を思い切り動かして見上げた先に、アルの姿を捉えた。かろうじて見えた表情は、視界が霞んで見えなかったが、笑っている様なそうでない表情に見えた。


「反動は…うん、あると思う。でも、もう時間が無いから、行くね?」


 踵を返し、アルは光の方へと足を進めた。れつも回らず、何か言いたいのに言葉にならない。変な呻き声しか出せず、アルに何も言えない。

 行くな、待て、そんな言葉で止まるはずがないと分かっていても言いたいと願った。しかし、結局俺はアイツの名前さえ呟くことも出来ずにただ見ていた。


「…ごめんね、シオン。バイバイ。」


 最後に聞こえた声は、いつか聞いた鳴き声そのままで、こっちまで泣きたくなった。


 そして少し経ち、辺りが光に包まれた。そしてその光は、望んだものとは違うのだと後になって知り、ただただ叫び声を上げた。


 アルが光の奥、木の下へと赴いてから暫くしてカナイが走って来た。


「あっシオン!アルはどこに!?」


 分かり切った事を聞いてきたカナイに腹を立てつつ、俺は正直に起きた事、アルがどこに行ったかを話した。

 カナイは茫然とした後、膝をついて泣き出した。魔法の効果が切れ、ようやく立ち上がれた俺は、そんなカナイを見下ろしながら聞いた。


「なぁカナイ。…なんであの時、木の話をしたんだ?」

「えっ。」


 突然の俺からの質問に、カナイは反応が遅れて何を聞かれたか理解出来ないと言いたげな表情をしたが、気にせず再度聞いた。


「あの時、アルが気に近づく事が出来ればって言い出したの、お前だよな。なんでわざわざそんな話を皆が集まった中で聞いてきた。

「そ…れは、可能性があれば…と。」

「結果、アルがその話を聞いて『木が見れる自分なら木に近づける』可能性に気付いたんだよね。」


 小さいが確実に大きな感情を孕んだ台詞をカナイに向けてぶつけていく。カナイは俺の台詞の真意に気付き、言葉がしどろもどろとなっていき冷や汗をかく。


「私は!…アルがまさか、本当に実行するとは」

「思っていなかった?幼馴染のお前が、アルの行動原理を考えず?お前、アルが家族の事で悩んでいる事、聞いていなくても薄々気付いていたんだろう?勘が良いんだからな!それで、家族を亡くしたばかりのあいつの前でそんな話をすれば、あいつがどう考えるか想像出来なかったって言うのか?」


 もう小さくない声を張り上げてカナイに問い詰めた。


「お前は、アルに行動を起こさせようと『わざと』話を振ったんだろう?そしたら結果こうなった!アルは行動したよ!お前が『言った通り』にな!」


 カナイは何も言わず、何も言えなくなりうつむいた。そんなカナイに対して俺は言う事を止めなかった。


「幼馴染と言っておきながら、その幼馴染相手に犠牲になる様に頼むとはとんだ信頼関係だな!…もうお前にも、他の奴とも会わないから、早く皆の所へ行け。もうこの森には来るな。」


 カナイに言い放ち、俺は背を向けた。その背後、カナイがどんな表情をしてどんな思いでいるかなど、どうでも良かった。見送る事をせず、ただカナイが俺から離れる音を耳にしながら遠くを見た。

 とんだ八つ当たりだった。それにこの森だって、別に俺の所有地という訳でもないのに、偉そうな事を言った。でももう本当にどうでも良い。


 あいつが、アルがいなくなったから、もう他の事などどうでも良い。

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