回想3
故郷を捨て、辿り着いた地で何故か剣の指南をする事になった。そうして過ごす内に、周りに人が集まってきた。
最初はカナイ。訓練相手であるアルの幼馴染だと言い、お節介な性格か、何かとアルの世話を焼き、俺に対してもあれこれ言って来て煩い奴だ。
やれもう少し話せだの、今日のアルを見て何を思ったかだの、手をつないだかだのと、途中明らかに妙なお節介が混じっていて居心地悪い気分になる。どこかこいつから噂好きな連中の集まりの空気を感じた。
それからまた日にちが経ち、アルらが来るのを待っていると知らない女が近づいて来た。俺が剣を腰に差しているのを見ると、女はいきなり自分と撃ち合いをしてくれなんて言って来た。
頭には見覚えのある黒い一対の角を生やしており、髪も濡羽色で着ている服も黒く、少し汚れてはいるものの非常に動きやすそうな服装から、こいつも俺と同様に旅をしていたのが分かる。
とは言え、見ず知らずのヒトなのは変わらないから、断ろうと思ったがアルが来るのにまだ時間がありそうだから、暇つぶしにと了承した。
その結果は散々だった。負けた訳ではない。どころかまた勝負がついていない。互いに装備している剣を撃ち合ってかれこれ何時間と過ぎたか。気付けばアル達は既に着ていて俺と謎の人物の撃ち合いを眺めていた。
俺に向かって何かを聞いて来るが、今意識をそちらに向けている場合ではない。少しでも集中を切らすと隙を突かれたやられる。
視界に端にカナイもいるのが分かる。俺らの様子を見て呆れているのが分かる。奴はそういう奴だと知った。
結局撃ち合いは終わらず、カナイが仲裁に入り強制的に終わらせられた。正直助かった。戦うのは好きだし楽しいが、相手は倒れないどころか疲れる気配も無く、こっちが倒れる所だった。
そして話を聞くと、剣の撃ち合いを言って来た人物はセヴァティアと名乗った。これはまた長い名前の奴だ。そう考えているのが感づかれたのか、相手の方からセティーと呼んで良い!と元気良く言い放たれた。何か調子の狂う奴が来た。
それからどういう訳か、セティーまで訓練をする場所に訪れる様になった。なんでも俺の実力を認めたが故に、これからは俺の目標に自身も訓練をしたいのだと言う。セティーも強くなる為に旅に出たと言っていたが、俺と同じ様で違うのは明らかだ。そもそも当人の性格や雰囲気がそうだった。
セティーは現状を常に楽しみ、他者との交流も率先してやっている所など、俺では想像出来ない。
そういう人物故に俺に目を着けるのは良いが、こっちの訓練の邪魔はしないでほしい。俺とアルが撃ち合い、その後休憩に入った直後に次は自分と即座に俺との撃ち合いを始めようとするし実際本当にやらされる。戦い好きでも限度があるわ馬鹿者。
そんなお騒がせな人物が訓練に加入したかと思うと、またヒトが増えた。今度はカナイの奴が連れて来た。なんでも暇そうにしている所を無理矢理引っ張って連れて来たとか。なんともそいつにとって迷惑な話だ。
と言っても、どうやら以前から知り合っていたらしい二人、再会したら様子が変わった相手の事が気になり、心配してこうしてヒトが今多く集まっているであろうこの場所まで連れて来たと。
いや、何故ヒトが集まる場所に連れて来るんだ。これはあれか?自分だけじゃどうしようもないから他の奴にも頼ったって事なのか?他力本願って事か。
そして問題となるその人物。人間にしては明るい髪の色をしていた。柿色の短い癖毛で目の色も飴色と目立つ色をしていた。人間の髪色と言えば黒や赤、茶髪位しか見ないが、偶にこうして派手な髪色を持つ者を見かける。
見た目も気になる容姿をしているが、さっきから何も喋らないのも気になる。そりゃあいきなり知らない奴らが集まる場所に連れて来られれば驚いて口も閉じるだろうが、結構時間が経ったはずだ。
見ると、目線もこちらに向ける事無くずっとそっぽを向いて気だるそうにしていた。気持ちは分かるが初対面の相手に何も言ってこないし、かと言ってその場を立ち去る素振りも見せない。変な奴だ。
「おいおいクロッカス!折角会ったんだから挨拶くらいしろよ、無愛想だな。」
カナイが見かねて話し掛けるが、そもそもこの場に引き摺って連れて来た張本人が言えたことではない。だが相手も観念したかの様に溜息を吐きつつ頭を掻き、やっとこちらに目線を向けた。
「…クロッカス・アリストだ。」
自己紹介を一言で済ました。これもよく分かる。見ず知らずの他人に自分の情報をあまりひけらかす気になれないんだろう。こうして名乗って他に言う事も無いからと踵を返そうとすると、何かに肩を掴まれた。
「お前、何が得意だ!」
その何かはセティーだった。掴まれた肩から手を離そうとするが、全く動かせない。セティーは見た目細いのに、やたら力強く一度捕まれたらなかなか離さない奴だ。それを今クロッカスという奴は身を持って体験していた。
「まっ…魔法を、使うが。」
セティーの勢いに気圧されて、つい口から自分の事を漏らしてしまう。本当は言うつもりがなかったのだろう。自分が口にした事に本人が驚いていた。
「成る程、魔法か!接近戦でないのは残念だがしかし、魔法を使う奴とは戦った事が無いな!よしっ折角だから一戦交えようさぁ来い!」
そんなクロッカス相手に容赦無く話し掛け、そのまま戦いに持っていこうとしていた。いや、既に戦う姿勢になっていてどう見てもクロッカスを逃がさないという決意が溢れ出ていた。これはご愁傷様だ。あぁなってはもうセティーはクロッカスに勝つか負けるかするまで離す気は無いだろう。
こうして、この場に新たな参加者もとい犠牲者が増えた。
そしてこの訓練の場である森には、次から次へとヒトが増えていった。訓練に使う武器の手入れに為に訪れた武器屋にいた山小人だったり、人魚と出会ったのは驚いたが、その人魚の性格を知って拍子抜けしたりと感情の振れ幅が乱れる様なそんな出会いが続き、少々気疲れしてきた。
そもそも、何故これ程までにヒトが増える事態になったのか。最初こそ一人で旅をして、ある程度の資金が手に入れば今いるまちからも離れるつもりだった。
それが今では大所帯となり、賑やかどころの騒ぎではなくなった。最早一人になる時間すらなくなり、何かと近くに人がいる状態になっている。
それもこれも、アルと出会ってから変わった。
アルと出会って、何気なく受けた剣の指南を続けていく内に引き寄せられるようにヒトが来る様なった気がする。これがアル自身に秘められた何かだろうか。
どこかで聞いた、ヒトを引き付ける魅力を持つ者がいるという話。ある種の才能だろうか。
アル自身はどこか自信もなく過小評価している様に思えた。以前剣の才能があると褒めたつもりだったが、それに喜ばなかったどころか落ち込んだ経緯がある。一体何がアルをそこまで陥れているのか。
カナイに聞いたが、カナイもその事には感づいてはいたが本人があまり話したがらないから、その話題には触れないでいるのだとか。本当にそれは本人の為になるのか?
確かに物事のは触れないで良い事もあるだろうが、それが嫌な事であれば、自分の中でそれを溜め込むのは果たして解決に近づけるのだろうか。
こんな風に考えている自分に驚いた。結局は今考えている事だってアル自身の問題だ。俺には関係無いし無視したって構わないはず。
だが、一度考えたら居ても立ってもいられなくなった。
「アル、そういやお前の家って何してんだ?」
他の奴他の事に気を取られ、実質二人きりとなった今の状態、何となくそこも気になっていたからそこから切り込んだ。津次の手入れに気を取られていたから、突然の俺の質問に驚きつつも、聞かれた質問を理解し、顔を俯かせた。やはりあまり触れられたくない話題という事はカナイの時から変わっていないらしい。
「…言いたくねぇなら言わなくても」
言い終えて話を終えるつもりだったが、それをアルが止めた。どういう変化かは知らないが話す気があるらしい。
「…家、結構裕福なんだよね。って服装とか見ればわかるか!…まぁその、だからかな。裕福な家庭だからか、あまり家族仲が良くないんだよね。偏見かもしれないけど、家はそうなんだ。
ううん、本当か私だけかもしれない。私だけが、家族から無い者扱いされてるのかもしれない。」
言葉尻が弱くなっていき、話す内にアルが気落ちしていくのが分かる。
「キョウダイも多くてさ。他のヒトは何かある度に褒められてるのを見るけど、私だけ、何もないの。私自身頑張ってるつもりなの。勉強して、魔法の練習もして、両親に自分の事を話したりもしてきた。
…でも駄目だった。両親が私に対して気にしているのは、いつも髪の色。そして、魔法の強さだった。」
アルが剣だけでなく、魔法の訓練を行っているのは初耳だった。そういえば、クロッカスが来てからよく話をしている姿が見られた。多分クロッカスに魔法に関して色々と質問したりしていたのだろう。
俺も魔法は齧った程度の知識しかないが、それでも何も知らない訳ではない。そう思うと、何故か胸の辺りが重く感じた。
「私の髪、家族の中で異質なんだって。親も他のキョウダイも皆綺麗な黄色なのに、私だけ赤毛で、それも他のヒトと違う赤色で、それが…見てて気持ちの良いものじゃないって。
それに家、魔法の力を重視している家系で、だから魔法の力が弱い私は、もしかしたら違う家系の血が混じってるんじゃないかって言われてて。」
確かに聞いてて気持ちの良い話ではない。これは結局の所アルは家庭の中で自分の居場所が無いのだ。魔法の力も弱く家族の誰にも似つかない髪の色。それが原因で両親からも恐らく他のキョウダイからも居ない者扱いを受けて来たのだろう。
それは自己評価が低くなる訳だ。俺にとっては居ない者扱いされるのは有り難い。しかし、アルにとっては死活問題となる。血の繋がる家族から必要とされず、努力をすれど見向きもされない。そんな環境では、自己肯定が出来る訳が無い。
だからこそ、こうして外に出て人知れず訓練を続けている。多分どこかで姿を見せずにいれば家族の誰かが心配して探しに来ると期待して、だと俺は考えた。しかし、結局期待した結果には至っていない訳だが。
しかし、それなら何故剣の訓練なのだろうか。魔法の力が弱くて見放されているのなら、ここでも魔法の訓練をすれば良い。現に魔法を得意だというクロッカスにも話をしている訳だし。
「…もしかしたら、他の事を極めれば、何か言ってくれるかなって…思って。」
俺の疑問にアルが直ぐに答えた。成る程、趣向を変えて何か変化が無いか試した訳だ。しかし、その結果も芳しくなくなかったと言う。
「やっぱり…剣術の話をしても、何も言って来なかった。魔法の訓練をしろ。とか家は代々魔法を使うのだから魔法を使え、とかも無くただ黙って、こっちを見ないで離れて行っちゃった。何も変わらなかった。」
結局、変化を求めて縋った剣術でさえ家族の関心を得られなかった。きっと俺が出会う前に剣術以外の事を色々と試してきたのだろう。そのどれもが結果を得られず、唯一使えるヒトが近くにいなく会得していなかった剣術に目を付けたという事だったんだろうな。
「駄目だった…駄目だったけど、もう大丈夫だよ。今、剣術を教えてもらうの、楽しいし。それに…あなたといるの、すごく楽しいし、嬉しいから!」
力を振り絞るかの様に、俺に向かって気持ちを吐き出した。その表情には、あの時涙を流した憂いを感じない。ほんのりと頬を赤らめ、瞳が潤んでいる様に見えた。
俺自身、そんな表情を見てどこか嬉しいと言う気持ちが湧き出る。何故だが、アルの嬉しいという感情に共感出来た。
ふと、視線を感じそちらを見た。見た先にはカナイやクロッカス、セティーらがいた。しかも皆こちらを見て楽しげにニヤついている。いつのか気味の悪いカナイの表情を彷彿とさせて腹が立って来た。
その感情を吐き出すかの様に俺は見て来た奴らを怒鳴りつけ追い払った。追い払った奴らはそれでも楽しげに騒ぎ立て、まだ怒りは収まらなかったが、その横でそんな光景を見てアルが笑っていた。
アルのその表情には不思議と怒りが湧かなかったし、見ていてまた嬉しくもなった。
周りに人が増えて困る事が多くなった分、これでも良いと思える事も増えた。むず痒い気持ちになりつつも満ち足りた気持ちにもなる自分も悪くない。そう思えて来た。




