回想2
それからというもの、俺は赤毛の人間に対して剣の指南をした。っと言っても、する事なんぞ剣に模した堅い棒を持って打ち合う事位だ。俺は口で教えるなんて器用な事は出来ない。何より剣の使い方を教えるのであれば実戦の方が手っ取り早い。
最初こそ剣の持ち方さえなっていなかったが、少し教えると一生懸命に覚えようと気に所を何度も俺に聞いてきた。教えるのは俺らしくないと思っていたが、こうして教え覚えられるのは悪い気がしなかった。
それに最初、体を鍛えたいと言ってはいたが、動いてみると結構動けている。軽く攻撃を誘いその隙を突いてみたら、直ぐに対応して反撃してきた。勘が良いと言うべきか、思っていたよりも剣を使えている様に感じた。
本当に剣を持ったのは初めてか?疑問に思い聞いてみたが、本当に剣を持ったのは俺との実戦が初めてだと言う。それならきっと才能だな、と言った。
別に才能があるか無いかなど関係は無い。こうして打ち合えるだけで俺としては満足だった。しかし、俺が才能と言う言葉を出した瞬間、何故か人間は表情を曇らせた。
「…持ってたって、結局。」
目線を下げて、落ち込んだ様子になってしまい、見ているとどうも気が乗らなくなり今日はここまでにすると言った。人間も了解し、頭を俺に向けて下げてから立ち去った。
一体何だったのかろうか。訓練中でもしていない間も互いの事は詮索しないとは決めているが、訓練に支障が出るとなれば、聞いておいた方が良いだろうか?
次会った時に決めて良いだろうな。あまり考え込んでこちらまで支障をきたす訳にはいかない。何があったか知らないが一休みしてからあいつがまた来るのかはあいつ次第だ。
翌日、こうして森へと訪れたが、あいつが来るのかまだ分からない。思い出せばあいつの事を何も知らずにいた。剣の指南をある程度済ませば別れるつもりだったから。だから何も知らなくても良いはずだったのに、何故か今になってあいつの事を気にしている。複雑な心境だ。
待った。もう少しで約束の時間だ。果たしてあいつは来るか。来たとしても訓練を出来るかは確認すべきだろう。誰かが近づいて来る気配を感じた。ちゃんと来れたなと思っていると、近づいて来るであろう音が可笑しい。あいつが来る時は草の乾いた音がゆっくりと踏みしめて来る音なのだが、今聞こえて来る音は勢いよく草を掻き分けるような凄まじい音が、それも速くこちらに近づいて来る。
明らかにいつものあいつではない、別の何かが来る!一体何だ!?予想していなかったから身構える位しか出来ない!とにかく音のする方を見た。すると人影らしきものが見えて来た。そう思った瞬間にはもう目の前にいて、俺に蹴りを繰り出していた。
速い速度で蹴りを喰らったおかげで地面を抉りつつぶっ飛ばされた。一体何が俺にけりを喰らわせてきたのか見る為に直ぐに起き上がり見た。そこには見覚えの無い山吹茶色の長髪を持った人間だ。見覚えの無い人間に何故ぶっ飛ばされたのか分からず、混乱していると、山吹茶色の人間の後ろから再び誰かが近づいて来る気配と、今度こそ聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「まっ…待って、カナ…イ。話を…はぁ、速いよぉ。」
速く移動して来た山吹茶色の人間を追いかける為に、こちらも走って来たのだろうがかなり息切れをしていてやっと追い着いたあいつがいた。あいつ、結構体力無かった様だな。次は走り込みでもするか、と現実逃避気味に思考していた。
あいつが来た所で、問題となるあの蹴り飛ばし人間の正体を聞きださねばならない。さっきの口ぶりから、二人が知り合いなのは明白だ。
「はぁ…ごめんなさい。私の知り合い、カナイが失礼な事をしてしまって。」
「失礼で結構だ!お前だな!アルを苛めたというのは!」
あからさまに態度が真逆な二人を見つつ、一体何の事を言っているのか知る為に詳細を聞いた。片方が随分ご立腹の様だが丁寧に説明してきた。突発的な事をしておきながら律儀な奴だ。
「昨日この子をまち中で見つけて、話し掛けたらこの子の目が赤く腫れていたんだ!これは間違いなく泣いた痕だと分かったぞ!聞けば最後に会ったのがお前だと聞いたから、お前が泣かしたのは間違いないだろう!」
話を聞いて、とりあえずこの猪突猛進の人間の勘違いによって俺は蹴りを喰らったというのが分かった。俺と最後に会ったとあいつがした説明は間違いないから、説明を全部聞く前に結論に至り当日、こうなったと。理不尽極まりなかった。
その後、俺の目線の話をし、続けてあいつの話をした。そうして話の整合性を確かめて一体何があったのかをこのカナイと呼ばれた奴から話をした。
聞けばこの二人は幼馴染らしく、まちの中で度々会っては一緒に出掛けたりして親睦を深めていたらしい。そんな友人である相手が涙を流していたという事で、翌日も会う約束をした場所へと直々に赴いたと。
「それで問答無用に蹴り飛ばすって、随分出来た挨拶する友人だなおい。」
蹴られた箇所である腹の上部分を押さえ、あいつが友人と慕う人間を睨みつけた。事情を知り申し訳なさそうに言ってはいるが、顔が申し訳なさそうにしている様に見えず、腹を立てつつ話を聞いた。
「いやぁすまんな!あの子って普段は我慢強い子で、そんな子が泣いてるってなったら居ても立ってもいられなくなってな!
あっ名乗り遅れたが、カナイと言う。宜しくな!」
溌剌と挨拶をしてきたそいつ、カナイはさっきまでの敵意やら怒りを無かったかの様に振る舞いをしてきた。情緒不安定か?
しかし、内向的だと思っていたあいつにこういった友人がいたとは驚いた。いたのは良いが、突然勘違いしてヒトをぶっ飛ばす様なヒトと仲良くなるのは如何なものか疑問だ。
俺が怪訝な目をして見ていた事に気付いたのか、あいつは必死になって弁明していた。あくまで自分の為だとか、ちょっと突発的な行動が見られるが、悪気は無いとか言う。それはそれで厄介だと思うが、今回は許す事にした。
その後、今度は自分らがどういう関係で会っているのかとカナイから聞かれた。それは気になるか。
その話はあいつの方からされた。俺のその間頷いて返事する位しかしなかった。俺から話すよりよく知る奴から説明された方が良いだろうな。
聞いたカナイと言う奴は、徐々に口角を上げてこちらをニヤついた目で見て来た。いきなり何だ。やっぱり情緒不安定化か。
「そうかそうかぁ。あの人見知りなアルがヒトに教えを乞うどころか、必死になって弁明して庇ったりすると思ったが随分そちらも仲良くしているではないか?」
会った時には逆に楽しげに俺とあいつが一緒に訓練していた事をさも逢瀬でもしているかの様に言って楽しげだ。またとんだ勘違いをしてきた。今度は弁明も通じそうにない。面倒くさい人物と出会ってしまった。
山吹茶色の人間はそれからも首を縦に振って頷きつつ俺とあいつが並んで立つ姿を眺めている。変な趣味をした人間で、相手しているだけで疲れる。
結局この山吹茶色の人間はこのまま俺とあいつの訓練に参加、もとい見学しているとの事。なんでだよ、と思ったら単純に友人が心配だから同行するとの事。それなら別に可笑しな理由ではなくむしろ妥当だ。奇妙な趣味は気にはなるが、昨日から様子が気になるあいつの為にも見学を許す事にした。
ところで、今日会った時から気になっていた事があるから話す事にする。
「そういえばお前、アルって名前なんだな。」
「あっはい!あっ…私もあなたの名前、まだ聞いてませんでしたね。」
そうだったかと反応していると、俺とアルとの会話を聞いていた山吹茶色の人間はまた突然眉間にしわを寄せて頭を抱えだした。
「おいおいお前ら、訓練し合う仲だというのに自己紹介も済ませてなかったのか?人見知りはアルだけかと思ったがそうじゃないみたいだなぁ。」
言われてアルと見合い、妙な静けさが場を包んだ。そんな空気に山吹茶色の人間はまた頭を抱えた。仕方ないから今更ながら自己紹介をする事になった。
「…えっと、アルストロメリア・プランセ・ロワースです。これからも宜しくお願いします。」
思っていたより長い名前だった訓練相手に、思わず眉を顰めてしまった。これはアルという呼び方が定着しそうだ。
俺も名前を言い、改めて剣の指南を続ける事を口にした。こうして挨拶を交わしていると、思っていたよりも長い滞在になるな。だが、それも悪くないと思い始めた自分がいるのに気付き、更に驚いた。
そうしてまたアルと見合い無言の空間が出来、山吹茶色の人間のお節介な溜息が漏れるのが聞こえた。
「いや…だからもう少し何か話せよ、口下手共め。」




