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永久にトモに_とある異世界譚(改)  作者: humiya。
第2章 ベリーとスパイン
75/150

回想1

 俺がベリーの身体にいる前、自分自身の身体を持ち、かっしていた大昔の事。俺が住んでいた村は山奥の、頭に一対の角を生やし優れた身体能力を持つ『頭角人』と呼ばれる種族の里だ。

 頭角人自体は閉鎖的な種族ではないが、里の外では他種族同士の戦争が激しくなったとかで、争いから避けようと里の外に出ようとする者も外の事を話題にする奴もいなかった。

 どうやら俺が住んでいた村は特別に臆病共が揃った村らしく、誰も彼も小さな喧嘩から大きな争い事を避けて生きていた。

 そんな中、特別他の頭角人よりも身体能力が優れた者が産まれた。白状すると俺の事だ。俺は自他共に認める程に能力が高く、特に戦闘に関した事柄が得意だった。所謂いわゆるてんの才能というものだろう。

 そんな俺だが、さっき供述した通り喧嘩事を嫌う奴らが集まった村だった為に、俺の様な存在は正に目の上のたん瘤だ。近所の奴らどころか、実の両親さえ俺の事を疎ましく思っていたのが見て分かった。

 そんな日常での俺の能力が発揮される機会と言えば、もっぱら狩りか近くに出没した盗賊を追っ払う時位だ。当然そんな相手では実力の半分も出せる訳が無く、俺は自分の力を持て余していた。要するに退屈だった。

 そんな日常を繰り返していた中で村の奴らに対して俺は、どうとも思っていなかった。むしろ俺の方が無視して暮らしていた位だ。自分より弱い奴が俺に対してそう思おうが、関係無かった。ただ俺は気兼ねなく喧嘩出来る環境が欲しかった。

 結果、俺は村を出る事を決めた。誰も止める奴はいない。むしろ俺の様な奴が村を出るとなれば、村の連中も大手を振って喜ぶに決まっている。そんな事も俺にはどうでも良いが。

 そんな中で俺はねん点があった。それは俺の種族の特徴であり象徴である角だ。これは正直言って目立つ。この角があるせいで隠れ切れず、奇襲相手に気付かれる事が度々あった。言ってしまえば邪魔だった。だから村を出る時に角を自分で切った。結構痛かったが、頭が軽くなった事もあり、むしろすっきりした気分になった。

 頭角人にとって角は大事だと言うが、今の俺にとってはもうどうでも良い。自分の都合の悪いものは取り払い、自分の過ごしやすい様に自分で変える。ただそうしただけだ。

 こうして俺は文字通り、心機一転して旅に出た。しかし里の外は俺が思っていたよりも味気ないものに見えた。確かにどこにでも行ける様にはなったがそれだけで、戦争によって荒らされ、ヒトが少なくなり廃れたむらやまち。項垂れて佇む大勢のヒト。見ていて良い気分になるものではない。

 道中貧しさから強盗を働き襲い掛かって来る奴らもいたが、何日も食わずにいたから力が出せず簡単に倒せてしまう。他人がどんな環境で育っているかなど関係無い事だが、ここまで貧困が続くと俺まで気分が沈んでくる。

 故郷のむらを襲って来た盗賊や襲い掛かって来る強盗共から逆にかっぱらってきたおかげで俺自身はそこまで苦しい旅路にはならず、なんとか大きなまちまで着いた。やはりどこの奴らも顔に生気が感じられない。

 戦争なんて関わらなければ俺には関係無いと思っていたが、大きなまちまで戦争の影響を受けているのを見ると、戦争と言うものの悲惨さが分かって来る。何故わざわざ自分らの手でヒトやまちを貧しくしてしまうのか、理解出来ない。

 宿は取れたが、部屋で休める気がしなかったから近くの森の中の木の下に座って休む事にした。ものがごちゃごちゃ置いてあるまちの中よりも、自然に囲まれた場所の方が静かで休める気がしたから。

 崖際の木陰に座り込み、溜息を吐く。暫くの間まともに休める場所も無く歩き続けたおかげで足が棒になる。

 結局むらを出ても外は退屈で仕方なかった。かと言ってむらに戻るつもりなど毛頭無い。退屈だからとむらに戻った所で退屈なのは変わらない。つまり、どこへ行く事も無いという事だ。

 そうなったらどこへ行こうか。もうこの大陸は粗方歩き尽くした気がする。いっそ海を渡ってしまおうか。確か東の方に特殊な風習のある島があると聞いた。しかし、そこへ行こうにも金が足りないだろう。どうにかして金を稼がねば。また近場で盗賊でも狩ろうか。

 そんな風に先の事をあれこれ思索していると、渇いた草の音が背後から聞こえた。誰かが来た。何かが近くまで来ているのは感づいていたが、まさか俺の方まで近づいて来るとは思わなかった。

 とは言え、盗賊だったなら返り討ちにすれば良いし、丁度良いと思い振り返った。しかし、そこにいたのは俺の期待する奴ではなかった。

 俺の視線から逃れる為か、こちらの様子を覗き見る様にして木の陰に隠れて立つのは人間か。紅梅色こうばいいろに見える赤毛は頭に上で二つに結い上げ、花色と紺色が混じる青い目は潤んで見えた。

 服装からしてどこかの裕福な家の生まれなのだろう。俺の様に泥や草で汚れていない所を見るに、俺が宿を取ったまちから来たんだろう。一体何の用があってこんな所に来たのか。俺には関係ない事だろうが、謙遜けんそんしているのか向こうは動く気配が無い。


「…何か用か?」


 関係無いにしても、何もして来る気配もなくただ見られていると気になってしまう。こちらから声を掛けたが、俺の声に驚いたのか、肩を跳ね上げて赤毛の人間はしどろもどろに声を出し始めた。


「えっう…あ、ご…ごめんあさい!」


 上手く喋れず台詞の途中を噛んだ挙句、そいつは何故か謝罪して走り去って行った。一体なんだったのか、結局わからず仕舞いだった。後何故いきなり謝って来たのか?

 さっきまでの俺の行動を鑑みても全く見当がつかない。謎のまま、俺は宿に戻る事にした。余り寝心地の良くない寝台で、今夜はまともに眠れる事は無いだろう。


 それから俺は資金集めの為に近くの盗賊を倒したり、狩りをして手に入れた毛皮や肉を売って生計を立てる事にした。ものすごい大金、とまではいかないし地道だがこうするしか今の所金を稼ぐ方法は無い。

 俺自身が盗賊となって旅人から物を奪う、何て事も一瞬だけ考えたが、むらの外に出てまでしてまたむらにいた時の様な扱いを受けるのもしゃくだった。

 しかし、おおきなまちの近くでも盗賊の数は多い。やはりどこも不景気だからだろう。まちを守る警備兵もあまり見ない。それもそうか。若く健康な奴らは戦争では立派な人材だ。戦争に人手を取られては守る奴の少なるなるか。

 まぁどうでも良いか。戦争に言って戦いたい奴は勝手に戦いに行けば良い。俺が戦争に参加するのだけは御免だ。


 結局、盗賊の数はあれど金はあまり集められなかった。そりゃあ、金が無いから盗賊なんぞしているんだろうな。何も持ってない方が自然か。

 動物も数が少なく、そもそもこの辺りでは余所者は狩りが禁止になっていた。これでは明日の飯代も稼げない。どうしたものかと考えながら、昨日休憩した森の方まで歩いていた。

 歩いた先、昨日休憩していた場所に着いたが先客がいた。何気に気に入っていた場所なだけにヒトが居た事に少しだけ腹が立つ。自分で決めた場所を先に取られたからだと自問自答した。見えるのは後姿だ。一体誰が休憩場所を陣取っているのか見てやろうと近づいた。そうして近づき覗き込む様にして相手の顔を見た。

 そいつの正体は人間だった。それどころか見覚えがあった。それもそうだ。その人間は以前休憩していた時に現れた赤毛の人間だった。

 どうやら昨日人間が来たのも俺がいた場所がそもそもの目的だった様だ。俺と同じに休憩したくて来たという訳ではないだろう。推測当たっていれば近くに家があるのだから、休むなら家に帰れば良いのだからな。

 何をしているのか、途端に気になってきたからもう少し近づいた拍子に草音を立ててしまった。以前の時と逆の立場となった。しかし気にせず赤毛の人間に話し掛けた。

 俺が話し掛けた事に驚き、勢いよく顔を上げて俺を見た。その目には雫が溜まり、その表情には憂いが浮かんでいた。どうやら隠れて泣いていたらしい。何故こんな所に隠れて泣くのか、何も知らない俺は訳が分からず問いかける言葉に悩んだ。人間も泣いていたが為に咄嗟に声が出ず、俺に声を掛けられて初めて俺の存在に気付いた様で驚き呻き声の様な喘ぎ声の様な言葉にならない事を口から洩らした。


「あっあの、すみません。直ぐ…ここ退きますので、待ってくださ…い。」


 俺が退けと言った訳ではないのに、まるで俺が退く様に言ったかのように俺に声を掛けてから涙を手で拭い始めた。どういう考えに至った経緯は謎だが、本人は既に退く気でいるらしい。しかし、その為に涙を拭っている様だが、一向に拭い終わらない。どうも涙が次々に流れ出てきてしまうらしい。

 何があって涙を流すほどの心情になっているかは知らないし、関係無いがこのままでは埒が明かない。

 声を掛けるのではなく、思わず涙を拭う手を俺は掴んだ。俺もまさか自分がこんな行動をとる事とは自覚していなかったし、何よりも相手が驚いている。そりゃあ見ず知らずの奴が現れて、自分の手を掴んでくれば当然だ。


「無理に拭うな。目赤くなってるじゃねぇか。」


 今言える事はそれだけだった。他に言葉をかけようが無かった。人間も何故自分の手を掴まれたのか少しだけ時間を掛けて理解し、涙を拭う事を止めた。止めたのを見て俺は掴んだ手を離し、人間も手を下ろした。

 異様な空気が二人を包む。俯瞰ふかんして見ようと見まいが、初対面同士で互いに次に何をどうするのかなど分かる訳が無い。そんな雰囲気が続き、それだけで疲れた気がした俺は、どかりと音を立てて赤毛の人間の隣に座り込んだ。また突然の事で人間は驚くが俺は構わなかった。とにかく今日の事もあり、俺は休みたかった。

 赤毛の人間は自分が邪魔になるにではないかと思ったのか、涙は既に止まっておりそのままその場を退こうと腰を浮かせたが、俺がそれを止めた。

 最初こそヒトが居るのには腹が立ったし、誰かいるのは気が休まらないとさえ思ったが、今はもう気にしている場合では無かった。なんとなくだが、泣いていると分かった相手がその場から立ち去られる事に良い気がしなかった。


「邪魔しないのであれば居て良い。話すのも無しな。」


 そう言ってから気にもたれ掛かって目を閉じた。眠る訳ではないがそうしたかった。結果として隣に座る事になった赤毛の人間も言われた通り黙ってそこに座ったままでいた。

 その後は互いに黙ったまま時間が過ぎ、気付けば日が沈む寸前で、赤毛の人間は気が済んだのか姿が見えなくなっていた。

 結局その日も互いの事を話さずに終わったが、そんなに悪い気はしなかったし、話す事は無かったが初めて誰かと一緒に長い時間一緒にいたかもしれない。


 その次の日、俺は何もする事無く森の中にいた。盗賊は倒し尽くしたのか姿を見なかった。もしかしたら俺の噂を聞いて、逃げたか避けているかしているのかもしれない。ヒトの噂は早いからな。

 まちの方も、若い俺が戦争に行かずにいる事に疑問を抱く目で見て来る奴が出始めて、正直まちに居づらくなった。とは言えまちを離れるには資金が足りない。どうしたものかと考えていると、誰かが来た。もうそれが誰かは俺には分かった。


「あっ!あなたは…昨日の。」


 今日出会って最初に声を出したのは赤毛の人間の方だった。だが暫くの間互いにまた沈黙してしまった。どうにもお互い簡単に話題を出せる様な性格では無い為に、どちらも会ったとしても話す事が難しい。俺も今まで誰かと対話する何て出来る環境では無かったから、こういう時の対処が分からない。どうしたものか悩んでいると、今度も向こうから話し出した。


「剣…あなた、剣術を使える?」


 どうやら俺の腰に差している剣を見て思ったのだろう。そりゃあ、使えなければ剣なんぞ持っていても意味が無い。

 っと言ってもこの剣も倒した盗賊からかっぱらった戦利品だ。簡単な手入れならしているが、本格的な手入れは仕方が分からず、刃が所々欠けて来ている。そろそろどこかで新しいものと取り換えなくてはいけない。

 そう自分の腰に差さった剣を見て思っていると、また赤毛の人間が口を開いた。


「あの…都合が良ければ、私に剣の使い方を教えて頂けないふぇしょうか!?」


 また噛んだ。しかも、本当に突然の申し出だった。出会ってまだ3日で、特段親しくなった訳でもない相手にまさか剣術の指南を頼み出すと誰が予想出来た事か。

 何故剣術を教わりたいのか聞いた。


「…あの、体を鍛えたい…という理由では駄目でしょうか。」


 段々と言葉尻が弱くなりながら述べた理由は単純なものだった。別に駄目とは言わないが、そんな気弱そうな態度で剣術を教わる気があるのか疑問だ。そんな俺の思考を察したのか、突如必死な形相になって俺に縋り付いて来た。


「お願いします!本当に…どうしても、やりたくて…他に頼めるヒトもいなくて!」


 あまりの必死さに少し引き気味になったが、俺の方も特にやる事も無いから引き受ける事にした。しかし無償で教えるのは少し損な気がすると口にすると赤毛の人間は答えた。


「そこはあの…私、お金持っているので、それをあなたに支払います。」


 それは訓練費という事か。それなら丁度資金をそうやって手に入れるか悩んでいたから良いな。まちの方もやはり余所者という事で怪訝に見て来る奴らもいるが、金を持っていれば文句を言って来る奴もいないだろう。


 こうして、成り行きから人間相手に剣術の指南をする事になった。指南がある程度済めばまちを離れる。そのつもりだった。そうはいかなくなる事を、当時の俺は毛先にも思わなかった。

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