17話 綺麗な花から棘が飛ぶ
妖精の頭領の他に存在した、樹花族の頭領との決闘する事となった。決闘自体は、ベリーと頭領の戦いが結果として有耶無耶のままだった事から、予想出来る展開ではあった。
そうして審判役を承った妖精の頭領からの合図と共に、俺は詠唱を唱え魔法の炎を纏った剣を出現させ、突撃をした。
相手が正確こそ積極的ではあっても、身体能力はとても接近戦向けとは言えない。だからこそ相手に不向きであろう接近戦に持ち込むのは定石だろう。
「草花よ、障害を受けよ。」
片手剣を握りしめ、翼を広げ飛び、あっという間に剣を届く範囲に着いた。透かさず剣を振るうが、何かが身体の腕掴み動かせない。
目だけを動かして見ると、腕に蔓草が絡みついていた。今樹花族が唱えた詠唱はこれか。その蔓草を見た瞬間に理解し、剣の炎を大きくして蔓草を燃やして斬った。
直ぐに二度目の攻撃を仕掛けたが、蔓草に掴まれた事で体勢を崩されて、本当に後少しの距離で躱された。その動きは戦闘による回避行動とは思えない、緩やかで風に吹かれた小枝の葉の様に見えた。
続けて剣を振るうが、再び出て来た蔓草で剣をいなされ軌道を逸らされる。その度に蔓草も焦げているが、そんな事に造作も無いといった振る舞いで次々に蔓草を出現させ、操り武器か盾の様にして防壁が出来上がっていた。
魔法で操っているとは言え、もの自体は植物のはずだ。しかし、火に触れたはずの蔓草に焦げた跡は無く、魔法で瞬時に修復されていると気付くのに少し時間が掛かった。
言葉、意思を持たないもの程ちゃんと操れるか魔法の力量が試される。樹花族が操る植物は完全に手足でも動かしているか、それ以上に速い。
修復機能のある機敏で自動で追尾する武器か。こっちが火属性魔法を使うと聞いて余裕の態度をとったのは、単に火属性の耐性をとっているだけでは無かった様だ。
魔法の力が強いと、接近戦まで出来てしまうとは、これまで俺は偏見を持っていた事を痛感させられた。もう相手の事を植物では無く、火に耐性を持つ動物を相手にしていると考えた方が良いだろう。
「草木よ。」
短い詠唱でまた植物を操り、俺の周囲を檻の様にして草が覆い茂る。このまま突っ立ったままでいれば草が密集し、窒息していまうと重い、俺も詠唱を唱えた。
「炎の鎧、昂れ!」
瞬間、俺の周囲を囲む草の更に内側、俺の身体を覆う様にして炎が出現し、それが囲う草を燃やした。
「おや、このまま拘束してやろうと思ったが、そういう魔法も覚えていたか。」
「戦いに使える奴は大体覚えてる。だからそう簡単に捕まえられると思うな、見た目詐欺師。」
俺の即興の呼び名を聞いて、樹花族の頭領は笑う。本当に見た目の雰囲気に合わない笑い方だ。まるでやんちゃで悪戯好きな小僧が見下し笑っているかの様だ。
こんな呑気に会話している最中も、剣と鞭代わりの蔓草が打ち合っている。植物の鞭攻撃の合間に鋭い刃物の様な棘や葉が飛んできた。どれも魔法の力を宿している。確かに打ち合う中でか細く詠唱を唱えているのが聞こえる。
打ち合いつつ、植物のあれやこれやを飛ばして来たり、それだけで集中力の高さが分かる。余裕ぶっている様に見えて、常に魔法の力を行使する事に集中している。全くそう見えないのが恐ろしい。
「荒ぶる針山の足枷、礫と成り爆ぜよ!」
「灼熱の幕!」
詠唱を唱え出したのは同時、唱え終えたのは詠唱の長さから俺が先。樹花族の頭領の詠唱で俺の足元の地面から茨が生え、茨の針が放たれた矢の様に弾けて飛んだ。
先に詠唱を唱え終えていたおかげでこちらの魔法が先に発動し、空を薙ぐ腕から炎が上がり、その炎が大きくなり俺の前に壁の様になって飛んできた針を防いだ。危うくベリーの身体を穴だらけにするところだった。
やはり魔法の属性はこちらが有利だ。しかし魔法の力自体に差があり、こちらの魔法の攻撃にあまり損傷が受けていない様子だ。分かっているが腹が立つ。
「おや、最初属性に関してそちらは心配していた様だが、こちらには心配される程の事が起きていないな。」
「あぁそうだなぁ。そこまで心配する必要も無かったなぁ。」
本気で腹が立つ。しかし、俺が魔法を使っているとは言え身体がベリ―である以上、このままではじり貧だ。けりを着けるなら速いに越した事は無い。
しかしどうしようか。今まで使って来た魔法よりも強力なものを俺は知っているが、ベリーの身体が魔法を使った際に発生する魔法そのものの衝撃、反動に耐えられるか分からない。
魔法を使えば対象はもちろん、使用者にも魔法の力の影響を少なからず受ける。今だって使った魔法の衝撃が身体にひりついてくる。
相手も虚弱体質とは聞いているが、見た感じ平気そうにしている様見えるが、互いに極限状態であるはずだ。魔法での植物の鞭攻撃と魔法の剣との打ち合いに、その合間に強い魔法で互いに唱えぶつけ合う。
体力に自信のあるベリーも、強がった譲ってはくれたがさすがにここまで来れば疲れを感じてきている。決めるなら次だ。
今のベリーの身体でぎりぎり出せる強力な魔法、それを使って駄目ならそれまでだ。
「…そちら『も』もう限界の様だな?なら、次で最後なのも一緒だな。お互い、全力で終わらせようではないか。」
最初からこうなる事を見越したかの様に、楽しげにこちらに語りかけた。
あちらが現状どんな魔法を使うか判らない。しかし、最後と言うなら俺が覚えている中で強力な魔法を使うしかない。
ベリーからは既に了承を得ている。曰く、思う存分やれ、私に遠慮しなくて良い。悔いなく決着との事だ。その時点で使う魔法は決まった。ベリー本人からも遠慮するなと言われたから、少しの間だけ反動に耐えてもらう。
「猛火と鋼鉄の得物を振り翳し、対者を灰塵に帰せ!」
「大樹支える担い手よ、我に仇成す者を悉く平伏せよ!」
俺が高らかに詠唱するとほぼ同時に樹花族の頭領の詠唱を唱える。
俺が詠唱を唱えた事で、上へと翳した手に炎が集まる。魔法で片手剣を生成した時とは違い更に大きく、熱が凝縮していく。徐々に成したその形は長い柄の先に刃を付いた槍の形状へと変化した。それもベリーの両の腕で持てそうにも無い程大きな大槍と成った。
一方樹花族の頭領の詠唱で出現したのは、こちらも巨大な物体だ。それは木の性質をしているが、明らかに既存の植物としての木ではない。上部分の避けて出来た様な穴。そこはがらんどうで、どこか歪な造形の砲台に見える。まさかその穴から本当に大砲の弾が出るのか!?っとベリーは考えているみたいだが、そんな訳ない。
あの魔法は、地中深くから汲み上げる地熱の力を凝縮させ、それを撃ち出す魔法だ。知識で走ってはいたが、実際の魔法を見るのは初めてだ。こんな形でこの魔法を見る事になるとは。
しかも使用者が樹花族となれば、あの魔法が発動すればどんな威力になるか想像出来ない。
そんな不安が過っている中でも、もう互いに魔法を発動する寸前の状態だ。最早悠長にはしていられない。
動き出したのは同時だったが、どちらの魔法も規模の大きいものだから動きが緩慢になる。腕を伸ばし掌を前へと向け、顕現した魔法の大槍が樹花族の頭領に向かって飛んだ。
樹花族の頭領の魔法は凄い勢いで光が収縮したと思うと、一瞬だけ光が消え、その次の瞬間には光が膨張し此方に向かって光線が放たれた。
いや、集められた地熱を一気に放つ魔法とは聞いていたが、これは今言った規模の物を越えている。まるで巨大生物の口から放たれた怪光線だ。魔法とは違うものに思えた。
しかし、此方が使ったのは火属性の魔法で、相手が熱を放つ魔法を使ってもあくまで地属性の魔法だ。熱量であればこちらの方が強いはず。後は持続して魔法を発動し続けていられるかに掛かっている。
光線と大槍がぶち当たる。どちらも魔法の射線が互いの魔法によって遮られ、動きを止めた。伸ばした腕の先、掌に重いものを感じ、後ずさる。分厚い壁を押している様な重さだ。自分の意思とは関係なく足がずれ、地面を削る。
重たい、重たくて全く前に進めない。掌が熱くなる。痛くて重く腕を伸ばしているのが辛い。相手の方を見る余裕も無い。魔法の力に押し潰されるのを耐える為に力み、目を瞑ってしまう。
相手と自分の魔法の反動で、ベリーの身体が悲鳴を上げる。本当に一瞬だけだが、魔法を中断してしまおうかと思ってしまったが、中断したところで相手の魔法が直ぐに向かって来ている中では危険だし、何より、意識を引っ込めているベリーの声が俺の中で響いて聞こえた。
がんばって下さい!いけますいけます!そのまま踏ん張って、絶対に手をそらさず、意識は前に向けたままで思い切り大声を出すいきおいで!
そう言って来て、正直言って凄い煩い。普段から声を張っているから、ベリーが表に出ている時でも中にいる俺の方まで声の大きさが伝わり、その時は無いはずの耳が痛む気がする程だ。
本当に応援しているつもりだろうが、逆に集中が切れてしまいそうな程耳元で大声を張り上げている様な状態で、むしろ溜息が出てしまいそうだ。だが、止めて欲しいとは思わない。
今まで、誰かに助けられる事も支えてもらう事も煩わしいと思っていた。自他共に自分が強い事も分かっていたし、そんな自分が自分よりも弱い奴と一緒にいても邪魔になるのだと、生きている中でそう思わなかった日が無かった。
だが、今はもうどうでも良い。助ける助けられるとか、誰といるとかそんな事はもう関係無い。今俺はベリーの身体を借りて、ベリーの身体を痛みつけながら戦っていて、それも自分の為ではなく他人の都合で戦っている。
上等だと思った。今俺が何かをするのに他人の力が必要だと言うなら、もう俺は形振り構わない。今自分がすべきだと思った事を、全力で最後までやる。その道理に付き合ってやる。
少し深呼吸をして瞑っていた目を開く。再び意識を集中させ、痛みはまだ感じるが気にしなくなった。少なくとも立って息をしているならまだ万全だ。
ほんの少し態勢を整え、前を見据えていると少しずつだが俺が放った魔法が樹花族の頭領の魔法を押していくのを感じた。
優勢になった訳ではない、ただ少しだけ魔法に力を込めやすくなり、力む必要が無くなっただけだ。だからやっと対等に打ち合えている。だが、そこで止まっていては変わらないのも分かっている。後少し力を足す必要がある。
突如、魔法の力の根源は魔法の使用者の想像力だ。だから、良い事を思えばそれが力になると、ベリーが昔言ったのを思い出す。その時はそれか、と軽く聞き流して終わったが、今思うと的を射た事だと思い直す。だから、今までの事を思う出す事にした。
つい最近起こった事、ベリーがお節介で余計な仕事が増えたり、ドジをして怪我をしたり。思い返せば毎日が小さな事件だらけな日々だった。
最初に出会った時は、まさかこんな破天荒でお騒がせな奴になるとは思いもしなかった。だが、そんな奴と出会ってこうしてここに居る事に後悔は無い。自分が決めてここにいるのだから、それが当然だ。
気付けば、俺の魔法から発せられる光が強くなっていた。反射でそう見えただけかもしれないが、不思議と魔法の相殺による圧力も苦ではなくなった。何ならもう少し力を出せる気がする。
少し、また少しと樹花族の頭領の魔法を押していく。案外、ベリーの言っていた事も素っ頓狂ではなかったな。偶にだがあいつは確信めいた事を言う。今回はそれに助けられた。
樹花族の頭領の方も、確信したという感情と、諦めがついた感情の表情をした。魔法の相殺で積極していた部位から放たれる光がまた一層強くなり、そして強く弾け飛んだ。




