12話 決意から宣言
漸く辿り着いた花泥棒の主犯格を前に、俺は多少ではあるが怖気づいてしまった。正直魔法の実力には自信があるが、実際の魔法に関する知識はそこらの子どもを同じくらいだと自覚している。
そんな俺でも判る、相手の魔法へと関心と知識量。妖精種だからという理由だけでは無い圧倒的な実力差を感じ取った。
そんな情緒が揺れている俺とは裏腹に、ベリーは全く違う事を考えていたらしい。一歩前に出て頭領を相手に口を開いた。
「失礼、あなた様の魔法は先ほどの一度で十分実力を持っている事がわかります!戦えば、確実にあなた様が勝つでしょう。しかし、それだけ強い魔法を使えるヒトが、何故ヒトから花を取り上げる事をするのですか!?
先ほどあなた様は言いました!私たちから花の恩恵を断つと!それは、もう二度と私たちは花を手にする事も、目にする事も出来なくなるという事ですか!?何故あなた様がそんなひどい事を言い放つのですか!?」
どうやら頭領の発言がどうしても納得出来ず、本人の口から聞き出そうとしている様だ。しかし、問答無用で魔法を放ち、攻撃して来た相手が素直にこちらの質問に答えるのだろうか?さっきだって、こっちの質問にまともに返答せず、訳の分からない応答をして今さっきの様な状態になったはずだ。
そう考えていたら、どうやら頭領の奴、今度はベリーの質問に答える気らしい。おいおい、今までの俺の思考は何だったんだ?
「…お前は、花を見てどう思う。」
駄目だ。やっぱり意味が分からない。しかもまた質問を質問で返しやがった。だが、そこはやはりベリーだ。大人しく頭領の質問に答える気でいる。ベリーもベリーで素直な奴だ。
「花はかわいくきれいで、見ていてとてもいやされます!」
ベリーらしい、率直な答えだ。多分相手も似た感想を抱いただろう。
「そうだ、花とは見た目はそういうものだ。だが、その本質は生命が形を成した、自然の象徴だ。花が咲くのは、自然が保たれている証拠であり、花を愛でる事は、自然にも同等の思想をいだいていると言う事だ。
だが、実際花を愛でているという事実は事実ではない。ヒトは花を見るだけ、見てそこで終わっている。花を見て何かを感じるという事自体、ヒトはしないまま生きている。」
言ってからまた結晶による攻撃が襲い掛かって来た。待てよ話をするなら話に集中させろよ!今度は俺が替わらずともベリーが自力で躱す事が出来た。多分俺の動きを真似て出来たのだろう。少し安堵した。
「ヒトは、ただ花の見た目だけを見て、見た目だけで決めて自分らを花と同じ様に綺麗に『見せる』為だけを考え、そして道具として、装飾として花を飾る。花を飾った所で、花と同等の綺麗さを手に入れる訳ではないのにな。ただ自分らの『花を飾る自分』だけを見せる為に、花を道具扱いしているだけだ。」
魔法の攻撃を止める事無く、変わらずにこちらを攻撃し続けながら話す。
「そして、あろう事かそんな花を飾った後、ヒトはどうする?そもそも花はどうなる。花を土から無理矢理断たれ、栄養を得られずにただ萎れるのを待つだけだ。そして萎れれば、ヒトはそんな花を無残に捨てる。自分の都合で花を摘んでおきながら、萎れて綺麗ではなくなったからという理由でな!」
だんだんと魔法による攻撃が過激になり、結晶の数や大きさも先ほどと比べ多く、大きくなっている。正に魔法の使用者、術者の意味を反映している。
「ヒトは忘れている、何故草花が土に根を張るのか。ヒトは見落としている、花の美しさと比べて、根がそれ以上に泥にまみれながらも強く成長している事を。
私は赦しはしない、草花も生きていると言いながら、自分の都合で花を生かして捨てるヒトの行いを、私は見過ごしはしない。決して、ヒトに花を触れさせはしない!」
地震の怒りを言葉に、大きく演説して見せて魔法を発動させる。なんとも傲慢な思考だ。今言った頭領の台詞も、結局は自分自身の都合に過ぎない。それをただ祭りの準備をしていたまちの住民共に押し付け、結果こんな勝手な事件を起こした。
「…何故今なんです?それだけの事を考えていたのはつい最近のことではないのでしょう?なぜ今になって、妖精に花を盗ませたんですか?」
それは確かに気になる。いつからそんな考えをし始めたかは知らないが、妖精ともなれば最近の事など一分前の事と同義だ。あれだけ強い怒りを抱いているのなら、長い時間を費やしたと考えられる。
それだけの長い時間、花を盗むと言う事件を起こす事無く、一体何をしていたというのか。ここでまた嫌な予感がした。無詠唱魔法を使えるだけの実力を持ちながら、やった事が花を盗むだけ?本当にそうか?
「確かに私は永い時間を過ごした。そして永い時間を掛けて、私は今までぞんざいな扱いを受けた花をどうすれば救えるかを考えて来た。そして今日、やっと完成させた。
『永久保護の魔法』、これを開発し発動出来るところまで進めれた。後は集めた花を媒介に魔法を発動するだけだ。
土中に根を張る植物同士の相互接続を通じ、連鎖的に地上全て花を保存魔法で集め、ヒトの手から切り離し永久にヒトの世から断つ。」
まさか計画を簡単に口にするとは思わなかったが、とんでもなく無茶な計画だった。つまりは世界中の植物を一か所に集め、そうしてヒトの世界から緑を無くすというものだ。それはあまりにも無謀な魔法ではないか?
生き物にとって植物は生きて行く為の糧の一つだ。それを失ってしまえば、明らかに全ての生き物の生態そのものが大きく悪い方へと変わる。最早事件と言う言葉の枠では収まらない事態だ。
「そんな…それではヒトだけではない、動物だってただではすみませんよ!?」
「森の外でヒトと共に生きる動物は既に穢れた存在だ。最早私が手を下すまでもない。私は私が救えるだけの者を救うだけだ。」
次に口を開いて出たのは理不尽な見放しだ。こいつにとって森の外は害悪に侵された環境以外何物でもないらしい。何より目が俺らを見ている様でまったく目に入っていない。つまり眼中に無いって事だ。
俺らを屋敷の中に招くような体制だったのも、この事を外に奴らに知らしめるためなんだろう。自分からベリーにそう言っていたわけだし。あの様子では、もうこちらの説得など聞く耳無いだろう。
だが、俺はここで終わるとは思っていない。何せ、今この場に『こいつ』がいるのだからな。このまま魔法を喰らって倒される事でも、このまま引き下がって草花を失った生活を送る事も選択肢に入ってはいない。
「スパイン、ここは私一人で任せてもらってもよろしいですか?」
わざわざ俺に断りを聞いてくるあたり、本当に律儀な性格だし、もう聞く必要なんて無いはずだ。
「はい!私はもう決めています!花を取り戻して祭りを無事開催する事も、誰一人としてきず付ける事なく事を終わらせる事も、私は成しとげて見せます!」
表情も信念も決して曇らせる事無く、ベリーは頭領を真っ直ぐに見て姿勢を正して高らかに宣言した。
だが、むしろベリーは良いのか?お前は戦う事を嫌い、極力戦う事を避けてそれを俺が代わりに受け持っていた。そんなお前がいざ戦うとなれば、心身がまともに動くか分からないぞ?そんな分かりやすい挑発染みた事を聞いたが、ベリーの意思が変わる事は無いだろう。
「スパイン。私は戦いがきらいなのでは無く、ヒトを傷つける事がきらいなのです。だから私は、この戦いを互いに傷つける事無くおわらせて見せます!」
自信に満ちた、いつも通りのベリーの声が響き、ベリーは相手の頭領同様に魔法の発動態勢となった。




