9話 強敵から猛攻
突如妖精が沢山いる屋敷の中で獣人に襲われたと思えば、今度は従者が俺らと戦うと言ってきた。戦いを避けたいベリーは従者の申し出に断ろうとしたが、相手は言葉を遮った。
「あなた達はここまで妖精達の猛攻をかいくぐって来た。ここまで来たのであれば、ある程度の戦いは受ける事を覚悟していなくてはいけないのではないですか?」
言われてベリーは何も言えなくなった。結局あの居候を自称する人間とは結局戦う事になった訳だしな。実際に戦ったのはベリーではないが、同じ事だろう。
「あなたは従者でしたよね?という事は、あなたはこの屋敷の主に最も近しいはずです!一体この屋敷のヒトは何を思ってまちの花を盗んだりしたのですか!?あなたは知っていますか!?」
叫ぶベリーを後目にでもする様に、従者は正しさ姿勢を崩し、今にも駆けだす姿勢へと変えた。あくまでスカートの形を崩さず、そんな素振りをベリーには感じさせぬ程自然な形で構えた。
「申しわけありません。相手がどなたであっても、今回の事を他言する事は当館の主様から固く禁じられています。もちろん、あなたの様な侵入者に対しても厳しく対応する様仰せつかっておりますので。」
瞬間、従者は床を蹴り姿を消した。そう思うと気付けばベリーの直ぐ目の前に立っていた。一瞬遅れてベリーは驚き、後ろへと引いたが、また従者の姿が消え、今度はベリーの後ろをとり、手刀をベリーに喰らわせようとしていた。
直ぐ様に俺は問答無用でベリーと替わり、従者の手刀を躱した。少し掠ったが問題無い。しかし、この従者、見た目は人間だが明らかに人間の身体能力を超えている。
人間も速かったが、視界に入れていれば追える事が出来た。今のは視界に入っていたはずなのに、追う事が全く出来なかっ
た。そして今さっき手刀を繰り出そうとした従者の手、一瞬だが指先が尖って見えた。あれは爪か。
「あんたも、獣人か?」
「あらっ?気付かなければ隠すつもりでしたが、やはり『あなた』は気付かれましたか。あなた達の事はルコウから聞いています。何やら不思議な立ち回りをする有翼人だと。」
自身が獣人であると指摘されても動じる事も無く、むしろ想定でもしていたかの様に余裕を持っている感じだ。更に会ってからずっとベリーに対して『あなた達』と呼称していた事から、やはりベリーの中に『俺』がいる事に気付いている。
少し前まで戦っていた人間の名が出たから、そいつから聞いた話で、俺の事を察したのだろうが、それでもなんとも勘の良い奴だ。
物腰は柔らかで、話せばだれでも信用してしまいそうな人物だろうが、俺は一目見た時からこの従者に警戒していた。そして今の会話で確信し、より一層警戒心を強めた。
一方のベリーは、従者は獣人だった事に驚いた事以外に特にきにする素振りは無かったし、警戒も全く無い様子だ。
最初こそ、従者がどう戦うんだと思ってはいた。居候人間の様にどこかに武器でも隠しているの思ったが、そんな複雑怪奇な事は無かった。何せ自分自身の肉体が武器という、単純明快な事だったんだ。
「しかし、従者が戦いに参加する位、ここは戦闘員が不足しているのか?」
「この屋敷は、あくまで主様の為の場所。故に争い事で屋敷内を散らかす事の無い様、戦闘部隊の人数は最小限に収めいた。それだけの事です。」
主とやらが戦える奴を決めていたという事か。しかし、一体何があってこんな森の奥に屋敷を建てたのか分からない。
そんな話をして余裕そうに見えるが、実際は俺が押されている状態だ。従者は話をしながらも動き回り、壁や天井を跳び回りかく乱してくる。しかも、屋敷を散らかさないと言った通り、まったく埃も音も立てず最小限の動きで俺との距離を計っているらしい。
さっきの獣人共もそこそこ動けていたが、この従者もかなり動く。人間も強かったが、あくまで鍛えられた人間としての範囲内だ。やはり生まれ持った身体能力は桁が違う。
そして一度こちらに攻撃を仕掛ければ、その爪は直撃はせずとも必ず中る。掠り傷でもやはり痛い。これ以上傷は増やしたくないが、防戦一方で仕掛ける瞬間が掴めない。
だから、待つ事にした。魔法で剣を出し、それを腰に差す様にして構え、目線は下にしてだた待った。
俺のこの動きに従者も何かを察する様に目を細め、更に動きを速めた。目で追う事を止めて、最早従者の姿は視認出来ない。感じるのは聴覚による音の振動だけ。
その瞬間、俺はある方向に抜けて剣の刃を突き立てた。そこには刃先ぎりぎりで止まった従者がいた。惜しい。
後少しで相手に攻撃が中ると思ったんだが、やはり獣人だからか勘が鋭い。止まった獣人は一度跳んで下がり構え直した。
「危なかったです。流石に今のはひやりとさせられました。」
どうやら不意打ちとしては成功していたらしい。相手がこちらを狙って攻撃してくるというのなら、待ち構えて近づいてきた瞬間、音のする方向を大きさに気を付けて剣を構えた結果だ。あとはあの自称居候の人間の真似とも言える。
残念ながら失敗したが、これで相手には虚勢になり、距離を取ってくれた。たった一瞬だが時間が出来た。その一瞬で俺は考えた。これもかなり単純な事だ。だがやってみる価値はある。そのはずだ。その為に俺は大きく息を吸って貯めた。
「煙霧よ這い出よ!」
吸ったばかりの息を吐き出す様にして俺は大声で詠唱を唱えた。その大声に従者は目を見開き、警戒の態勢となった。そして詠唱を唱えて出たのは黒々とした煙だ。つまりは煙幕だ。
「煙幕ですか。今更目眩ましとは一体…うっ。」
煙が従者の方まで届くと、従者は明らかに眉間にシワを寄せたしかめ面をして手で鼻と口を抑えた。
魔法で出す煙は大抵が幻覚による見せかけだ。だが、俺が今魔法で出した煙はそんなものじゃない。火を焚く時に絶対に出る煤煙だ。




