6話 居候から歓迎される
屋敷に入ってベリーにまず目にしたのは、どこからともなく現れ、こちらに襲い掛かる妖精共の魔法だった。それもそうだ。ここが花を盗んだ妖精共の拠点なら、侵入者に対して歓迎などするはずがない。いや、ある意味これも歓迎の形か。
「いたぞ!侵入者だ!」
「白い羽を生やした白い人間の子ども、間違いない!」
「絶対に頭領サマの所へは行かせるな!」
大小様々な姿の妖精の姿が見える。塀の外でも見た虫の翅を生やした小さな奴から、門番二人の様なヒトを同じ背丈で給仕の様に整った服を着た奴までいる。俺らの事を見つけるなり、一斉に襲い掛かり、魔法を飛ばしてくる。恐らく、外のにいた門番妖精が中にいる仲間に報せたのだろう。妥当な行動だが、恨みたくなるな。
ベリーは妖精共の攻撃魔法や捕縛魔法を躱し、廊下の天井、床や壁へと飛び回り、なんとか妖精共の歓迎を凌いではいた。しかし、それだけではここは切り抜けられない。
俺が替わると言っても、意地になって自分でこの場をなんとかすると言って未だに飛び回っている最中だ。俺としては、見える妖精共、皆それ程の実力は持っておらず、基本の魔法で簡単に打ちのめしてやれるのだが、ベリーがそれを許さず、俺は少しやきもきしていた。
サッサと意識を表に出して思い存分暴れたいが、主導権がベリーにある以上、今はただ見守るしか出来ない。最初の時の様に不意打ちを喰らって、ベリーの意識に隙が出来れば簡単に入れ替われるのだが、妖精共の動きが単調で、そんな奴らに不意打ちになんて出来る訳がなさそうだ。
早く門番をしていた妖精の言っていた『手強い相手』とやらに会ってみたいものだ。だから、こんな妖精共にいつまでも足止めを喰らっている場合じゃねぇ。
おいベリー、あそこで飛んで魔法を撃ってる奴、あいつ目掛けて思い切り速く飛んでぎりぎりまで止まるな。
そうベリーに助言をし、動向を見守った。
ベリーも攻撃とは違う、俺の言った通りに指示された妖精に狙いを定め、思い切り翼を広げて勢いよく飛行した。
一方、俺が言った妖精は、詠唱する事に集中していた為に動きに隙が出来ていた。そこに勢いよく飛んで来るベリーに驚き、詠唱中だったために反応が遅れて動けず、あわや激突、という所でベリーが言った通りに急停止しぶつからずに済んだ。
だが、これで陣形が崩れた。一人詠唱出来なかった為に、他の妖精と連動して魔法を放つつもりだっただろう作戦は失敗し、そこに穴が出来て妖精共の包囲を抜け出す事が出来た。
やはり、こいつらは戦いの訓練は受けていたのだろうが、非常事態、失敗した時の対応が出来ていない。戦闘に関してはこいつらは素人だ。
一方のベリーは、相手を傷つけない様に臨機応変に立ち回る事に長けていた為、俺が提示した作戦を成功させる事が出来た。そこはさすがと思う。
しかし、外から見ても相当な規模の屋敷なのは分かっていたが、中も広い分部屋数やら廊下の広さや長さが半端ない。おかげで潜んでいる妖精の数も多く、一々対応していては切りがない。どうせ相手にするなら強い方が良いしな。
そんなこんなで妖精共との連戦を区切り、妖精共から逃げて遠くに妖精の気配を感じつつ、どこかの部屋に入り込んだ。中を確認する暇なぞ無いからすぐに扉を閉め、ベリーは一息をついた。
「ふぅ…なんとか妖精さんたちを振り切れました。」
さすがのベリーでも、疲れが溜まっていた様だ。だが、ここが妖精共の拠点である以上。入った部屋に誰もいないとは限らない。ベリーに代わって部屋の中を探った。
部屋の中には棚に寝台と、一見すると個室といった感じだ。もしかしたら、ここを訪れた客の為に用意された客室だろうか。いや、ここに客が来る事なんてあるかは知らないが。
一瞥してから、気配がした。さっきまで確かに気配がしなかったのに、そこから湧いた!?っと焦る気持ちにはなったが、気配とともに現れた姿を見て、焦る気持ちは薄らいだ。
そいつは妖精ではない、傍から見れば確かに人間だった。顔つきは中性的で男か女か一見しただけでは判断しにくい。どちらでも関係無いが。
仙斎茶色の髪は肩まで長く、後ろで縛っている。髪には色とりどりの装飾品やら紐で飾られ、動く度にちゃらちゃらと音がしそうだ。膝下まである外套を纏い、外套から出る腕は細く色も白い。
「おっ?誰か来たと思ったら君、妖精達が言ってた侵入者さんでしょ?」
部屋に突然入って来たというのに、人間は怪しむどころか嬉しそうというか、楽しげな声色で話しかけてきた。こっちが侵入者と分かっていながら、こちらに対して友好的に接して来て、俺としては怪しい以外に何も感じない。
こいつ、妖精と共謀して俺らの足止めでもしているんじゃないか?相手を完全に怪しんでいる俺の仮説を聞いてかいないのか、ベリーは前に歩み出て人間に話し掛けた。
「初めまして!私はベリー・ストロと言います!あなたはここに住んでいる方なのですか?」
「そうそう。あっ私はルコウって言うんだけど、正真正銘の人間ね!ほら、耳の丸くて羽とかないし、髪の色も地味でしょ?」
普通の会話は始めた。何やってんだこいつらは。ここがさっきまで襲い掛かってきた妖精共の拠点内部である事を忘れそうな雰囲気だ。
そんなさっきまでの雰囲気を忘れ、ベリーは目の前にいるルコウと名乗る人間とお喋りを続けた。
「あぁ、花を盗まれてそれを追っかけてここまで来たの。そりゃあ剛毅だなぁ。ここの妖精って執拗だからさ、なかなかここまで来るの大変だったでしょ。」
「はい!しかし、一体何があって花を盗むなんて事を働いたのか、あなたは知っていますか?」
妖精共の拠点にいるのだから、確かに妖精共の事情は知っていそうだが、出てきた答えは期待出来るものでは無かった。
「いやぁごめんね!私は妖精達の事情とかまったく知らないんだよね。」
聞けばそもそもこの人間、居候と称しているが実態はこの屋敷に閉じ込められ監視されている立場なのだとか。そりゃあ簡単には妖精共の話し合いとやらには参加出来ない訳だ。しかし、一体何をしてそんな状態になっているのか。
「いや何、この屋敷に無断で入ったって事でとっ捕まったんだよねぇ。」
駄目だそりゃ。あの妖精共の様子からして、部外者に対してかなり厳しいのは分かっていたが、何も知らない旅人だったであろうこの人間さえもこういう処遇をとる羽目になったのか。
ただ、この屋敷の頭領とやらの温情なのかは不明だが、屋敷の中だけでも自由にさせてもらっているのという。妙な温情だな。
しかし、今は屋敷に監禁状態の相手と悠長に話している時か?俺に聞かれてベリーは気付き、急いで屋敷の頭領なる人物に会わねばと意識を向き直して部屋から出ようとして、再び人間から声を掛けられた。
「君、トウリョーさんに会いたいの?なら、そこまで案内しようか?」
「良いんですか!?」
「うん。そもそも妖精達が何してるか分かんないし、君は話をしに来ただけなんだろ?悪い事をしているのがこっちなら、そっちを手伝うのが良いかなって。」
ルコウって奴がいきなり案内するとか言い出した。如何にも怪しい言動だが、ベリーはルコウの言葉を聞くや否や即答でお願いします!とか言い出した。
こんな監視されて屋敷に閉じ込められている奴が、素直に敵地の案内をするとは思えない。絶対裏があるだろうと俺が言っても、ベリーは完全に人間の言葉を信じていた。
確かに、この屋敷に入ってからは誰に会っても戦い、戦いと絶える事が無かった。そんな中で会っても初めて攻撃をされる
事無くまともに対話出来た相手だ。ベリーの様な奴なら信用するだろう。
「確かに私はここでは異質だけど、君に悪い事をしようとは思ってないからさ。」
そうベリーの方を向いて言ったが、今のはどうもベリー相手ではなく、中の『俺』の方に向けて言った様に感じた。もしかして、俺の存在に気付いている?まさか。
結局の所はベリーの出方次第だ。俺はただ成り行きを見守る他無い。
部屋の扉前、廊下に妖精がいないのを確認し、部屋を出てルコウという人間が歩く後ろをベリーはただついて行った。こっちは屋敷の間取りなんぞ知らないから、確かに知っている奴任せになる。しかし、案内する奴が本当に場所を覚えているとは限らないから、そこが不安だ。
ベリーにそれとなく聞いて欲しいと頼み、ベリーの口で人間に聞いた。
「大丈夫だって。私も屋敷に住みついて長くはないけど、トウリョーさんの部屋くらいは覚えてるからさ。」
いまいち信用出来ない。とは言え、迷いなく廊下を進む足取りを見ると確かに覚えている感じだ。
そうして進んでいる内に、どこかの広間に出た。どこか入って来た玄関の広間にも見える広い場所だ。上を見れば上階の通路が見え、どういった用途でこんな部屋があるのか俺には分からない。こんな広い家、住んだ事無いからな。
そして、広間に入ってからある違和感が感じた。さっきまで襲い掛かってきた妖精の気配が突如しなくなったからだ。
「この場所、普段を使われる事無くて、宴とか大事に催しがある時くらいしか使われないんだ。妖精達も普段からこの部屋には近づかない様にしているしね。」
人間の説明を聞いて、途端にベリーが慌てだした。そんな大事な場所に無断で入ってしまった事に憤っている様だ。それも
そうか。そんなベリーに対して、人間は口の前に人差し指を立てて笑った。
「内緒内緒!ここ通るのが近道だからさ。ほらっ!あそこの扉の先。」
そう言って右腕を前に伸ばし、前に見える扉を指さした。ベリーは素直に指を刺された方を見た。
その時に、微かに空気を斬る音が聞こえた。ベリーの視界に入っていない為よく見えないが、人間が指差している方とは逆の腕、それが動いている事から察するにそっちの手で何かを持っている状態なのだろう。
ベリーは完全に気の抜けた状態だった。だからすぐさま入れ替わり、俺が表に出てぎりぎり身を捩って躱して人間からの何かしらの行動を防いだ。
躱す時、服を掠ったのは細い木の棒の様な物だった。その棒を人間は剣を持つのと同じ握り方をしていたから、その棒も武器として扱われるものだろう。俺がその棒による攻撃を躱した事に気付くと、人間は棒を瞬時に構え直し、更に棒を振るってきた。
見えている以上、中る訳にはいかず、後ろに跳んでそれも躱す事が出来た。
「ありゃっ、躱されちゃった。上手く顎か脳天にでも中てようかと思ったのに。君、すごい反射神経だねぇ。」
人間はへらりとさっきと変わらず気の抜ける様な笑みを浮かべ、攻撃を躱した俺の事を賞賛してきた。しかしその間も、手に持った棒は構えたまま、一向に攻撃を止めるという素振りを見せずにいた。
気を抜けばすぐにでも棒で突かれるか叩かれでもしそうな雰囲気だ。表情が会った時、案内している最中と変わらない笑みなのが、一層その異様な雰囲気を引き立てた。
「…何が悪い事をしようと思ってないだ。思いっきりこっちに喧嘩売る事じゃねぇかよ。」
怒り半分、警戒していた事が当たって逆に呆れた事半分と、俺は未だ呆けた状態でいるベリーを置いて人間に問いつけた。
そんな俺に様子を見て、人間は棒を持った手とは逆の手で困ったと言いた気に頭をかいた。
「あれっ雰囲気変わったね。まぁ良いか。別に悪い事しないってのは本心なんだよ?出来れば気付かないまま気絶させれば、これ以上痛い思いをさせずにいたってだけなんだけど。」
さもありなんといった返事で、悪びれずに計画していた事を吐いた。つまり、俺らの事を屋敷から追い出す気ではあるという事か。やはり、この人間も妖精共と同じ立場という事か。
「まぁね。こっちに非があってここに閉じ込められてる状態ではあるけど、それなりに暮らしていけてるからね。感謝というか、恩返しって感じかな。それなりにこっちも返さなきゃいけないと思ってね。」
だから攻撃中てたかったなぁ、と笑顔で言ってきやがった。
上等だ。何をしてこんな所にいるのかという事情はこの際どうでも良い。今はこの奇襲野郎をとっちめる事にしよう。
ベリーの意識がはっきりしてきたら絶対止めるだろうが、聞いてやらない。俺は奇襲を掛けるのは好きだが、奇襲を掛けられるのは読書の次に嫌いだ。
「そっちから仕掛けてきたんだ。遠慮なんぞしらないよなぁ?」
「うわぁすごいやる気だぁ。こりゃ、こっちも遠慮したら失礼だなぁ。」




