4話 正面から突入
まちで花祭りの準備をしていたはずが花を盗まれ、その泥棒を追いかけて森の奥まで来てしまった。
高く伸びた木に周りに覆い茂った草のおかげで辺りは暗く、緊迫した雰囲気と合わさって、立っているだけで気疲れしそうだ。
しかし同行しているベリーからは疲れという単語が存在しないのかと思える程、全く疲れている気配が無かった。
他の妖精共に気付かれない為に、そして出来る限り速く動く為、低空飛行で森の中の木々の間をすり抜ける様飛び、妖精の気配を追った。
「しかし、妖精たちが花を盗むなんて、何故そんな事に。」
未だ妖精の所業に納得がいかず、飛行中ずっとあれこれと考察していた。俺も妖精の行動が不可解で考えていた。そもそも暗く草を覆い茂る森ではあるが、花が一本も生えていない訳ではない。今は妖精共に根こそぎ摘み取られている為か、一輪も見かけないが、それでも全く花が生えない環境ではないはずだ。それでも妖精共は森の外に出て、わざわざヒトの住むまちから花を盗んだ。
盗んだ花を何かに使うとしても、調合位しか使い道が思いつかない。それに妖精種にとって花は平和の象徴だ。だから無暗に摘んだりするのも妙な話だ。
さっき見た妖精共も、回収魔法で傷をつけずに摘みとるという手段もとっているはずだろうが、そこまでして花を集める理由とは?
そこまで考えていると、ベリーが声を上げた。
「あっ!また花を持った妖精が飛んでます。」
他の所から来た妖精を目撃した様だが、それなら大声を出すな。気付かれるだろうが。幸いこちらには気付いていないらしく、持った花を運び、俺らが進む方へと同じように向かって飛んで行った。
今の所進む方向は間違いないらしい。しかし、森の奥にいるという魔法使いとは一体何なのか。実在するのか比喩なのか、まちの住民に聞いても誰も知らないらしく、まちに長く住んでいる奴でも魔法使いという名しか聞いておらず、詳しい事は知らないと言う。謎だ。
「皆花を運んでいますね。これだとこの近辺に花はもう無さそうです。」
確かに。見たところ結構な数の妖精が抱えられるだけの花を運んでいる様だし、恐らくまちはもちろん、この森の中に自生する植物全て回収されているのだろう。
そうして奥に進みながら、花を運ぶ妖精共を見送っていると、木々の間から何かが見えてきた。
「わっあれ!壁…塀でしょうか?」
ベリーが言った通り、見えてきたのは聳えた立つ煉瓦造りの塀だった。煉瓦の隙間を埋めているのは漆喰だったか?見ただけで塀の端がどこか分からず、かなり横のの距離の長い塀だ。
見上げると、花を運んでいる妖精共は皆この塀の上を超えた先へと飛んでいた。どうやらこの塀の中が俺らの目的地なのだろう。
俺は飛んで塀を越えようと提案したが、ベリーはこれを当然拒否した。
「塀の中に入る時は、門から入るのが常識です!」
確かにそうだが、俺としては飛んで塀を越え、サッサと泥棒の元凶を倒すのが手っ取り早いと思う。しかし、ベリー相手にはそんな事は出来ない。と言うかさせてもらえない。結局は身体の持ち主であり、主導権を持つベリー次第だ。
しかし、行けども行けども門構えらしいものが見えず、長く高い塀が続き、入り口がどこか分からず半分迷った状態だ。もしや、門など存在せず、塀の上を行くのが正規の入場方法なのでは?
ベリーもそれならば飛んで越えるのは仕方ないかと思い始めた時、やっとそれらしいものの影が見えた。正直門など見つけずに飛んで行きたかったが、見つけてしまったのなら仕方ないか。
見つけたのは、聳え立つ煉瓦造りの塀と同じ様に、立派な造りの門構えだ。見たところ扉らしいものは無く、常に解放された状態の様だ。これだけ立派で頑丈な塀なのに、入り口らしき場所が逆に無防備な状態なのが怪しい。
「やっと入れる場所がありましたね。すみませーん!」
そんな如何にも怪しい門の正面から堂々を入り、中に大声で声を掛ける奴なんていないだろうが、ベリーに限ってがそうではなかった。まるで前からここに来る事を伝えており、約束通り訪ねてきた客人かの様に振る舞っている。当然そんな事は無いし、見つかれば侵入者として扱われる。そんな事を気にもせず、ベリーはまだ誰かいないかを探すて辺りを見渡している。こいつは本当に自分に自分の立場が分かってりるのか疑う。
とは言え、最初からここには侵入者として来るつもりだったし、見つかっても返り討ちにすれば良い。ベリーが許す範囲までな。
入ってしまったのなら仕方ないと、門を越えて塀の中の光景を見る。一言で表すなら、そこは花畑だ。他にどう形容するか俺には分からない。もっと達者な奴なら色んな言葉で言い表せただろう。
最初に目につくのは花だ。森の中を飛んで進んでいる最中、大茂る草木ばかりで花らしい花も見つからず、緑色ばかり見ていて飽きていたところだった。明らかにヒトの手が加えられた花々。色も鮮やかで三原色全てが目に入り、眩しいと感じた。 色んな種類の花があるのは、まちの花屋と同じだが、量は圧倒的にこちらが上だ。塀の高さにまで伸びた蔓草さえも花を美しく見せる演出に見える。
「これは…庭ですね。しかり手入れもされて、良い場所です。」
率直な感想を告げ、ベリーはヒトを探すのを忘れて庭を眺めた。真面目な奴さえも魅了し、花に表情があったら、自慢げな笑みを浮かべていたかと思えた。
そうして庭の奥へと足を進め、広場らしい場所に着き当たると水が噴き出る建造物が目に入る。これは、大きなまちなんかで設置されるという『噴水』と呼ばれるものだろうか。こんなものを庭に置くとは、なんとも豪勢な事だ。
何より、庭の次に目を引くのは庭の奥に見える建物だ。その建物自体がぼんやりと見える位この庭が広く、歩くと時間が掛かりそうだ。
そんな豪華な庭の装飾物を眺めつつ歩いていると、気配がした。そりゃあ今ここは敵陣な訳だから当然か。ベリーに声を掛けて止まり、気配がする方へと視線を誘導する。
誘導した先、その場にはヒトがこちらに向かって歩いていた。容姿を見ると、耳は長くて尖っており、髪は色鮮やかな山吹色で、正しくあれも妖精種だ。こっちは羽は無く他のヒト型種族と同じ背丈で、どちらかと言えば長身な方だろうか。
恰好は胸から膝にまで届く大きな前掛けをしており、肌を隠す長袖に長く丈夫そうなズボンを履き、手にも丈夫そうな手袋をしている。その手には長い突起の付いた容器を持っているところから、こいつが庭の手入れをしているのだろう。
そいつは俺らから少し距離を開けて前に立ち、口を開いた。
「…アレ?お客サン?今日来る予定あったッケ?」
第一声はどこか片言の標準語だ。しかも俺らの事を客と勘違いし、予定を思い出そうと頭を捻っている。これは奇襲の好機かと思っていたら、ベリーが声を掛けた。
「初めまして!私はベリー・ストロといいます!申しわけありませんが、私たちは客ではないのです!ここにはお話があって勝手に入らせてもらいました!」
自己紹介までして正直に白状しやがった!知ってはいたが言っちまうのかよ!まぁ想定内ではあるから、今はベリーの成り行きを見守る事にした。
「あぁ、これはどうもご丁寧ニ…って、エェ!?お客サンじゃないナラ、ここに入れるワケにはいかないデス!…ってもう入っちゃってるカラ、えぇと…申しわけないですケド、お引き取りを。」
「いえっ!お引き取りは出来ません!どうか、この場所の責任者…で良いんでしょうか。そのヒトと話をさせてください!」
「えっえぇと?ちょっと、そういうワケにはいかナイ、と言うか…うぅン。」
何やら、真面目なベリーと消極的な発言をする妖精とで、歯切れに悪く会話の進まない雰囲気になって気まずい。相手も相手でこちらが引き下がらない為か、煮え切らない態度で決定打が打てない様子だ。見ていて頭を抱える。
おい。相手さん、俺らに先に進ませたくないらしいから、もう強行突破で良いだろう。お前だって、このまま引き返す気ないんだろう?俺がそう言うと、ベリーは少し唸り声を出しつつ考えて、意を決して前へと進んだ。
「本当の申しわけありません!このまま先に進ませてもらいます!」
言って翼を広げ、目の前の庭師妖精の横を通り過ぎる様飛んで行った。当然の事で呆気にとられた庭師妖精は、すぐに気付いて後ろに振り返る。
「わわっ!だっだっ…ダメですヨー!」
飛んで行った俺らに向けて叫び、庭師妖精はすぐに何かを囁くように言う。それは詠唱だった。
「ちっ地の力を受けし草木よ、わっわっ我…の障害を受け止めてー!」
庭師妖精が詠唱を唱えると、庭の花や草が動き、突如長く伸びて俺らに向かってきた。ベリーは驚きつつもしっかりと避けて、宙に浮いた状態で様子を見た。
随分と弱気に聞こえた庭師妖精の詠唱だが、内容や魔法の力の錬りはしっかりしていた為、魔法はちゃんと発動した様だ。今のは植物を操り相手を捕縛する類の魔法だろう。ここは庭で、正しく植物の宝庫だ。そんな所で相手は植物を操る魔法を使うなど、土壇場に立たされたも同じだ。
再び花壇の植物を操り、飛行中のベリーに襲い掛かる。器用に飛行の軌道を変えつつ、伸びて迫りくる植物の猛攻を躱していく。ベリーは攻撃力や決定打となる行動を苦手、というか積極的にしたがらないが、障害物を躱して飛ぶ事を得意としており、現状ベリーには攻撃が中るという心配は無さそうだ。
しかし、このままでは埒が明かない。相手はただ捕縛しようとするだけ。こっちはただ逃げるだけで、決着が着きそうにない。
「なるほど…確かに、それならば今回は私に任せてもらいます!」
どう決着を着けようかと考えていると、ベリーの方から今回の戦いを担うと言い出した。相手がどんな奴でも怪我を負わせたくないと言うベリーが、この戦いでどう立ち回るのか、一先ずいつでも意識を表に出れる様にはしておいた。
「ううぅ…許可ないヒトを屋敷に入れたりしたラ、わたしが怒られマスぅ。」
あっちもあっちで事情があり、必死でベリーを捕まえようとするが、思いのほかすばしっこいベリー相手に手こずっている様子だ。さて、問題のベリーの方はどんな方法でこの戦いを終わらせるのか。何かベリーなりに好機をうかがっている様に見えるが、何をする気なのか。
通常の蔓状の植物がまた伸び、棘がついた花の茎が上に向けて勢いよく伸びたり、経常様々な植物を武器の様にして魔法を使っている庭師妖精もさすがだが、そもそも庭の花をあんな風に戦いで利用して大丈夫なのかと今更思った。まぁそこは庭師権限という奴なのだと考えておこう。
そうして攻防を繰り返していくと、庭師の方に変化が見られた。結構絶え間なく魔法を発動していたが、その感覚も長くなり、今では息も絶え絶えな状態だ。しかし、絶え間なく魔法と使っていたのであれば、それは当然か。
魔法を使えが、魔法の力だけでなく自身の気力も消費する。気力は言いかえれば体力と対になり、傷を負ったり運動をすると減るのが体力で、精神的に摩耗して眩暈を引き起こすのが気力の消費によるものだ。
魔法は頭、想像力を屈指して使うから、先ほどまで庭師の様に魔法を酷使すれば、あんな風にバテるのは目に見えた結果だ。あの庭師、魔法の使い方はなっているが、自身の能力の加減が出来ないらしいな。
ベリーはそこを狙ったのだろう。へばって片膝つきそうな体勢になっている庭師に向かって今度は一直線に飛んだ。庭師の気付くが動けない。詠唱も気の疲れか口が回らない。
「疲れた相手に攻撃するのは気が引けますが、今は私も心に決めました。あなたにこの一撃を喰らわします!」
そう言って、ベリーは詠唱を唱えた。詠唱の内容は俺もよく知るものだ。ベリーは両手の平を庭師妖精に向けた。
「空想よ現に成れ!」
唱えると、庭師妖精の頭上に魔法の力が集まり、徐々にそれは形を変えて実体に成った。それは庭師妖精の頭上を落ち、軽い金属音を響かせて庭師妖精の頭に激突した。頭から地面へと落ち、それは再び軽い金属音を何度も響かせた後に霧散した。消える現象自体は、魔法の効果が消えたという証であるから問題無いが、問題なのは魔法で出た物体と、それに当たった庭師妖精の状態だが?
「はっへ…目がくらっ。」
妙な台詞を口にしてから、庭師妖精は目を回してそのまま気絶、倒れて動かなくなった。
なんともベリーらしい、無血の勝利だった。相手を気絶させるのは確かに戦いを終わらせる手っ取り早い方法ではあるが、その方法に少しこちらも複雑な心境だ。
ベリーが唱えたのは、想像したものを物体として実体化させる、魔法を使う上で基本とも言えるものだ。あくまで実体化させられるのは物体に限り、生き物や規定外のものは実体化が出来ないとされる。
その魔法でベリーが出したのは、どこの家にも置いてあるであろう『金だらい』だった。確かにこんなのが高い所から落下して頭に直撃したら、痛いじゃ済まされないかもしれないが、なんでこれを魔法で出そうと考えたんだ?
「まちに訪れた旅のご老人に、これが最も平和的に『オチ』を着けられる方法だと教わりました!」
いや、誰だよその老人。しかも妙な事を吹き込まれているし。こいつの変にヒトを信用し過ぎな所は長短な所だ。しかし、その吹き込まれた妙な事で今回は助けられた訳だが、余計複雑な心境になる。
とは言え、一応戦いには勝ったという事で、このまま先に進む事にしよう。庭師にはすまないが、ちょっとそこらの芝生で寝ていてもらう事にしよう。
「申しわけありません。後で毛布を持ってきて、かけてあげますから。」
いやそこまでしなくても良いだろう。むしろ、侵入者にそこまでされたら、こいつが気の毒だ。




