3話 初っ端から激戦
先に仕掛けたのは蝶羽の妖精だった。弓で矢を放つ構えで魔法を放ち、魔法で形成された一本の矢は何本にも増えて飛んできた。だが見えているなら躱すのは造作もない。
妖精に向かって羽ばたき、左右に動いて飛んで来る矢を難なく躱した。やはり妖精は戦闘に不向きな種族なのだろう。挙動で狙いが丸わかりだ。
矢が中らないと分かり、蝶羽の妖精は俺の接近から逃げる為飛んで後退した。そして次に別の魔法の詠唱を唱え始めた。
「渦巻く流体よ。我を妨げる者の水鏡となり枷と成れ。」
妨害系の魔法か。詠唱を聞いてどんな魔法か察した。そして相手の魔法が形になった。
俺が飛ぶ前方、その空中に幾つもの水の球が形成され、それは俺の姿を映す程大きくなり、正しく飛行を遮る壁になった。
沢山の大きな水の球の出現にベリーも驚き、どうするかを俺に聞いてきた。こんなものは躱して飛べば問題無いと言い返し、宣言通り水の球同士の間に出来た隙間を潜り抜けて行く。
だが、途中一つの水の球に翼が掠り、その瞬間水が爆発でもしたかの様に弾け飛び、弾け飛んだ水が針のようになり飛行する俺らに襲い掛かった。
咄嗟に魔法を使い、水の針にぶつけ相殺して防いだが、少し触れただけで弾けて攻撃してくるとは、妨害としてだけでなく厄介な罠まで含んでいたとは、あの妖精はなかなか考えている。
水の針を躱す最中もベリーは危ない!だのなんだの言って騒いでいたが、気にしてはいられない。何せまだこちらは相手に何も仕掛けていないからだ。
蝶羽の妖精は更に魔法で水の球を生成し、罠の設置していった。躱すのも防ぐのも可能だが、そんな事をいちいちしていたらこっちの体力が持たない。やるなら速攻だ。
「陽炎昇る灼熱、焔を握りて鋼の強固を凌駕する。」
詠唱を唱え、右掌を上に向けその上に火を出現させた。その火は大きく、徐々に形を変えて、片手で持つには少し大き過ぎる位の大きさの大剣になった。剣は両刃で、赤く光まるで炎その物だ。まぁ火をそのまんま剣の形に変えたのだから、その通りなのだが。
「火の剣?まさか、こっちが冷属性の魔法で、しかも水を操っているのにか?」
蝶羽の妖精は、俺が火属性の魔法で武器を生成した事に驚く。それもそうだ。火属性と冷属性、相性で言えば圧倒的に水や冷気を操る冷属性に分がある。魔法使いとしては基本中の基本の知識だ。
魔法を使う者として、属性の相性はしっかり把握していなくてはいけない。何よりその目で魔法をみているのならばだ。
だが、今回俺は先ほどの事で反省しなくてはいけない。妖精は戦闘に不向きな種族だの、相手は妨害魔法一つしか発現していないだの、偏った知識のせいで不利な状況になってしまうという失敗をした。
そして今、冷属性に対し火属性は不利だと決めつける事。それもまた偏った知識による偏見だ。今俺が反省を込めて体現しなくてはいけない。
顕現した火の剣を両手に持ち替え、まるで剣を引き摺る様な構えで急速で飛んだ。いきなりの事で蝶羽の妖精は一瞬驚きはしたが、すぐに正気付き魔法で水の球を操り、俺の飛行の進路へと水の球が置かれ、妨害になった。
すぐ目の前まで水の球が迫ると、俺は急停止し、火の剣を振るい、水の球を斬った。水に触れて火の剣は大きな蒸発音を立てて、そのまま消えた、と相手は思ったのだろう。だが、剣の火は消えず、それどころか水の球が剣の斬られた跡を残し真っ二つに斬られていた。
「なぁっ!?なんで水で火が消えないんだよ!?」
水の球で火の剣を打ち消す算段だった様だが、生憎とそう易々と事を運ばせない。水をかけると火は消える。確かに生き物の世界では常識だ。だが、火を消す水が少なければ、逆に火が大きければ水は火を消す前に蒸発する。簡単な事だ。
「火の火力、熱量を操作するなんぞ、魔法を使いこなしていれば造作も無いだろう。」
一つ斬った勢いのまま、そのまま別の水に球にも斬りかかり、再び真っ二つに切断。同時に蒸発する音が続き、次第に最初と二回目の斬った水の球は真っ二つされた状態のまま蒸発し消えた。
自身の魔法が打ち負かされ、焦りを見せた蝶羽の妖精は更に詠唱を重ね、俺に近づくと両腕を伸ばし、両の手を俺に向けて翳し魔法を発動した。
瞬間、水が俺の周りに集まり出し、気付けば俺は更に巨大な水の球の中に閉じ込められていた。手に持った火の剣は焼ける様な音を立てながら尚も水を蒸発し続けていたが、水の量が先ほどまで斬った水の球の比ではない為か簡単には水は蒸発していかなかった。
水の中、泡を口から零しつつ、周囲を少し見渡す。なるほど、俺自身を水の中に閉じ込めたか。考えている様だが、まぁ無駄だろう。
俺は水の中、魔法で作られた火の剣を上へと掲げて、俺は想像する。火の熱さ、燃える様を頭の中に浮かべ、集中し剣に魔法の力を注いだ。徐々に剣の赤い光は光度を増し、それと同時に剣を纏う熱も増して蒸発する音が激しくなる。そして遂に熱が限界に達し、そのまま剣を水中でゆっくりと大きく振るい、一気に巨大な水の球を蒸発させた。
「ちょっ…!?そんなのあり!?」
そんな展開について行けずに蝶羽の妖精は驚愕の表情のまま硬直してしまい、俺の接近を許した。
「…あっしまっ!」
妖精は狼狽え、詠唱を唱えようとするが、残念ながらもう魔法を使おうとしても時間が足りない。俺は剣を大きく振りかぶった。
だめです!
下ろそうとしたが、ベリーの制止の声が俺の頭に中に響き、意識が一瞬途切れると、次に気付いた時にはベリーの『身体』の主導権は元に戻っていた。
手に持っていた魔法で生成した火の剣も、脆く崩れる様にして消えた。
「たとえ相手が犯罪を犯したものであっても、そのヒトに手を下す事が正しいとは限りません!それも一方的に攻撃するなんて、そんな不平等は許されません!」
俺が妖精に手を掛けると思い、ベリーは見えない俺に向けて怒鳴った。俺は心で中で降参の意として手を上げた気になる。
俺が今まで動かしていた身体の元の持ち主がベリーであり、俺が強く意識を持っても元の持ち主の意思に勝る事など出来る訳も無く、俺はまた元の身体の無いまま喋る意思になった。
ったく、いきなり変わらなくたって、ちゃんと寸止めしたって言うのに。っという言い訳も意味を成さず、ベリーはさっきと変わらず憤慨しっぱなしだ。
一方、俺らの様子に困惑し、自分の現状を忘れてしまっているのではないかと思える程呆然としていた。そんな妖精にベリーは近づき、話し掛けた。
「うわっ!なんだ!?」
「驚かせて申しわけありません!話を聞かせてほしく、話しかけた次第ですが。」
ベリーは丁寧に話をするが、話し掛けられたことで正気付き、羽を広げ勢い良く飛びあがり、そのまま森の奥へと飛んで逃げて行ってしまった。
「あぁ!まだ何も聞けてなかったのに。」
やはり、もう少し落ち着くのを待ってから話しかけるべきだったか。と反省しているベリーを横目に、俺は妖精共の行動について考えた。羽を生やした妖精は集団で暮らす。元々戦いを好まず、自分らが襲われた時にさっきの様に集団で魔法を使って対処する為だ。
どこかで魚が群れで動き、消費する能力を節約する為だと聞いたが、それと似たものだろうな。
つまり、妖精が集団、群れで動くとなれば、それを指揮する立場の妖精もいるはず。さっきの蝶羽の妖精はあくまで一集団を見張る、或いは護衛する立場なのだろう。
結局の所、奴らが向かった先に行けば、今回の花泥棒の指揮した奴がいるはずだ。この森にはまちに恩恵をもたらすとされる魔法使いがいるとされるが、実在するとなればその魔法使いも今回の事に関与しているかもしれない。
「よし…ならば、今すぐに追いかけましょう!」
目的を決めると、ベリーが自身を鼓吹する様に元気良く言う。この森の妖精が盗みを働き、更に森の魔法使いが盗みに加担した可能性もあり、その事で落ち込んでいるのかと思ったが、そんな様子は見られなかった。
「だからこそです!もしも魔法使いさまが盗みを働いた妖精たちの仲間であるなら、きっと何か考えがあっての事!それをこの目で確認するまで、引き返すわけにはいきません!」
そうは言っても、こういう時は専門家に頼んで捜査してもらうのが良いはずではないか?っと言っても、これもベリーには聞かない様だ。
「今!ここにいる私たちがやるべきなのです!そして、自分がやると決めた以上、絶対にやり遂げるのが私の道理です!」
どうやら逆にやる気になった様だ。俺としてはそれならそれで良い。
今戦った妖精、確かに個人で見れば強さはそこまでではなかったが、厄介な相手だったには確かだ。だとすれば、もしかしたら他にも厄介で手強い相手がいるという事だ。それは是非とも手合わせしなくては。
こうして、目的は不一致ではあるが、やる事が決まり目的の場所も定まった俺とバリーは、花を盗んだ妖精共を追いかけて、森の奥へと進む。




