45話 フタリで一緒に
朝から嫌な予感はしていた。その事でオレは恐怖を感じたが、それでもオレにはやりたい事がある。
ヒト付き合いは苦手だし、ソレはよく自覚している。オレの運が悪いのも、前から知っていた。
何よりオレは好きよりも嫌いの方が多いと思う。それでもオレは、自分が出来る事は可能の限り取り組む。
たった一つ、大事でなくしたくないものを守る為に。
生き物らしい気配の感じられない空間。そして異様としか形容し難い植物の天井や壁に床。そんな空間で、オレが突き立てた剣は『ヒト型』の左胸に深々と刺さり、セヴァティアから伝授された技を自分なりに完遂出来たと思う。
本来なら、ここは相手の首を刈り取るのがこの技の正式な技の結果なのだが、アサガオが見ている前で、ヒトの形をしたものにソレは出来ず、オレは『ヒト型』の左胸に剣を深々と突き刺した。ソイツがヒトの形をしているのなら、心臓の位置が急所になっていないかと思った結果だった。
結果は見て分かった。左胸を刺され、『ヒト型』は動きをピタリと止めた。そして自分の手に持った剣を落とし、完全に力尽きた事が見て分かった。
ヒトの姿をした者に手を掛けた、と思うとやはり心に重いものが残る。だが、ソレを感じて動きを止める場合じゃない。今すべきはちゃんと覚えているし、分かっている。
戦いに関しては、案外アッサリと終わった気がする。それはこっちとしても助かるが、正直もう少し戦いが長引くと思った。不思議と今オレはそこまで疲労を感じない。さっき一休みしてはいたが、それ以前よりも疲れが貯まっていない様だ。
まぁ良い。これでやっと核に近づける。後やる事といったらそれだけだ。
戦いが終わった事を後ろにいるアサガオに伝えると、アサガオは笑ってオレの方へと走り寄った。オレの足にしがみ付き、顔を上げてオレの方を見て良かったね、などと言う。
思えば、アサガオが来てからオレは長期で仕事が出来ている気がする。いつも疲れた疲れたと言っているが、オレは妖精種という特性上疲れやすい。
守仕としての仕事は、アサガオが来る前からやっているが、それまではすぐに疲れて途中で休憩をする事がほとんどだったが、今はそういった事が無い。そもそも山に登ったり洞窟を歩いたりなど、休憩無しで動き回れる事が奇跡とも言えた。なんだかんだ言って、結局最後まで歩き続けオレはカナイらに言われた事をやり遂げてきた。そのどれもでオレはアサガオをつれていたが、まさかそれでなのか?
人間という種族は、突き出た能力を持たず、特徴と言える特徴がほとんど無い種族と言われる。だが、時折突飛な発想や行動をして、他種族では見られない能力を発揮する事があるという。アサガオのもソレか?
だがその事も、確実な情報は無く確認しようが無い。何より、オレにはソレはもうどうでも良い事だ。
今一番驚いているのは、アサガオもまさか『素質』を持っているとは思いもしなかった事だ。だからこそ、こうしてオレは一人にならず、戦い抜いた。
案外、声援のおかげと言うのも間違いではないのだろう。アサガオ相手なら、尚の事だろう。
さて、残るはあの核を撃つだけだ。オレはしがみ付いてるアサガオを一旦離し、核に近寄って手を翳し詠唱を唱えた。コレを唱えない事には核に触れられない。
「我が声よ届け、地深く在るものよ、天高く広がり仰ぐものよ。
これは『一』が『人』として願うものだ。
『一』を重ね、届かぬ一天へと展開を望む。
見えない大地の深き在処へと到達せよ。
断たれた『人』と『人』の轍と円環を繋ぎとめよ。
我らの為、我が『友』の為、世界と、永久に『共』に在る為に。」
詠唱を全て唱え終えると、近寄りがたい雰囲気が漂う何かが消え失せた。恐らくコレで核に直接攻撃を叩き込む事が可能だろう。もちろん、攻撃時に魔法の力を宿す事は忘れない。
後の不安要素は、やはり核を撃った後の反動と呼ばれるものだろうか。カナイ達の友人らしい人物は失敗に終わったと聞いた。そして、今戦ったあの姿になったらしいが、どういう経緯であんな事になったのか、詳細が分からない。
だが、明らかにヒトとしての自我は無く、明らかな殺意を持って襲い掛かって来た。果たして、あの殺意はあのヒト型のものか、それともただ操られて出たものだったのか、もう知る術は無い。
ともかく、ここまで来たからやる以外に選択は無い。自分で選んで来たのだから、当然だ。だが、アサガオはどうするか。アイツは明らかに巻き込まれただけだ。本来なら引き返させてカナイ達といさせるのが良いが、アサガオの表情を見て、とても引き返す事は無理に思った。そして、オレ自身ももうアサガオを引き離そうとは思わない。
気付くと、アサガオはオレの剣を持っている手とは逆の、ぶら下げた状態だった方の手を握ってきた。何かと思い、アサガオの方を見たが、アサガオもオレの方を見て、ほほ笑むばかりだった。
なんとなく、アサガオの前髪で隠れた額を見た。その場所に、オレが以前付けてしまった傷跡が残っているのだが、いつも通りの呑気な顔に、溜息を吐きつつもオレはそんないつも通りの姿に安堵した。
アサガオが『素質』持ちだった事にも驚いたが、何よりもこうしてオレの下へと来た事に驚き、色んな感情が湧いた。
オレと最初に会った時も、オレと過ごして平穏であった事も、オレに傷付けられてもオレから離れなかった時も、そして今ここにこうして立っている事も、オレにとっての『幸福』の形なのかもしれない。
そんな考えにアサガオ自身はどう思うだろうか。…きっと変わりはしないし、何も気にする必要も無い。
今核を撃ってオレ達二人がどうなるのかなど、最早不安のカケラだって無い。きっと何とかなる。誰かが言った、最初は信じもしなかったそんな言葉が、今オレの言葉として声に出る。
「ったく…お前は最初から最後までオレが世話しっぱなしだったな。おかげでこんな所でもお前の面倒を見る羽目になったし、結局オレが一人になれた時間も、ココに来てから無くなったよ。
愚痴言っててしょうがねぇか。ホラ、来たんなら最後までちゃんとついて来いよ。」
そう言って、オレはアサガオの手が握られた自分の左手にほんの少し力を込めて、ゆっくり引いてアサガオと一緒に前へと歩き出した。核は目の前だ。反動がどんなものかは知らないが、不思議と恐怖は感じない。
本当は感じていた、ココに来る前、アサガオが来る前までは。
「…アサ。」
歩きながら呼びかけて、アサガオはオレの方を見ながら見上げ、オレの言葉を黙って聞いた。
「…ありがとう。」
その時、多分初めてオレは自分でも自覚出来る程に、笑っていたのだろう。
そして、返事をする様にアサガオも微笑んでいた。




