表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永久にトモに_とある異世界譚(改)  作者: humiya。
第1章 アサガオとシュロ
42/150

42話 後悔で埋め尽くす

 雪景色の続く、生き物の体力を蝕む過酷な世界の中。オレはセヴァティアから言いつけられた用時を済ませ、徒歩で先に言われていたまちへと向かっていた。今思い返しても、徒歩で雪山を下りて、雪原を突き進むってただの自サツ行為だな。

 道中、崩れた建物が何軒も並ぶ場所に出た。ここは廃墟地帯だったか。どんなまちがあったかまでは知らないが、結構な広さだ。何があってこの様な廃墟になったか、検討がつかない。

 そんな廃墟の中を、考え事をしながら彷徨うかの様に歩いた。


 何も変わらない風景を見て、今の状況と重ねる。

 オレに変わるものがすれば、それはオレの近くにいるヒトだけ。ソレがオレにとっての当たり前だ。色々と言われはしたが今更期待したって意味が無い。ヒトと親しくしても、後々ツラくなるだけ。そんなものだ、仕方ない。

 当時からオレは何事にも前向きには捉える事が出来ずにいた。カナイ達と出会い、学校で魔法を教わり、むらでは畑仕事を手伝い、放浪していた時よりはまともに暮らしてきた。だが、それでも他のヒトへの疑心は抜けないまま。

 だれにも相手にされず、時には裏切られ、そしてオレ自身もヒト裏切った。今更ヒトと距離を近づける意味を見いだせなかった。


 …歩いている最中、何かの気配を感じた。明らかに生き物の気配だ。何かが近くにいる。何だろうか?

 土地を渡って他所のナワバリを襲う黒小鬼というのがいると聞くが、ソレだろうか?それにしては小さく弱々しい。

 辺りを見渡すと、廃墟と廃墟の間、路地であっただろうその空間の隅に置かれた廃材やら木箱、その中から気配がする。確認するべきか一瞬戸惑い、どうせ廃墟に棲みついた動物か何かだろうとも考えた。

 だが何故か気になってしまう。先に進もうとするが、足が止まってしまい、隅に置かれた木箱に目がいってしまう。恐らくこのまま廃墟を離れても頭にシコリが残りそうだと思い、意を決して引き返した。

 近づいて分かったが、明らかに変だ。他の場所や物には雪が厚く積もっているが、一つだけ、雪がほとんど積もっていない蓋の付いた木箱があった。誰かが積もった雪を払って中に何か入れた?早く中を確認しようと木製の蓋を開けた。

 箱はあっさりと簡単に開いた。そして中を覗き込んで、オレは驚いた。まさかこんな場所で見るとは思わなかったからだ。ソレは生まれて一ヶ月経ったか定かではない赤ん坊だった。今にも泣きだしそうにぐずっている。

 気配の正体が赤ん坊だった事に驚き、数秒だけ動きを止めたオレは、すぐに正気に戻りどうするか悩んだ挙句、その赤ん坊を抱き上げていた。赤ん坊の抱き方を知らないせいで、ヒトがその姿を見たらすごくぎこちないものだっただろう。

 途端、赤ん坊はぐずるのを止めて目を開き、オレの方を見た。大きな翡翠色の目が目に留まり、この後どうしようか悩んでいると、赤ん坊は突然楽しげに声を上げ、オレの顔に向かって手を伸ばしてきた。咄嗟に手を抑えて止めろと言った。通じるワケないと思ったら、声に反応して手を伸ばすのを止めて引っ込めた。まさか言っている事が分かっているのか?まさかな。

 さて、本格的にどうしようか。一度抱き上げた以上、箱に戻すなんて出来るワケが無く、結局そのまま連れて行く事にした。赤ん坊は思っていたより重みがあり、そして暖かかった。


 戻った時、オレが赤ん坊を連れて来て非常に驚いていたカナイやセヴァティアは、すぐに持ち直して赤ん坊についての話し合いをした。

 オレとしては、赤ん坊は施設に預けるものと考えていた。オレが拾って来たとは言え、オレには剣術の修行や守仕としての仕事がある。それに、正直オレに子どもの相手は今一番出来ない事だと思っていた。

 だが、それに反してカナイ達の答えは、拾って来たオレが面倒を見ろ、との達しだった。命を見守る事も守仕の役目だと言い、たまに私達も様子を見に来るからと言って話を絞めた。なんてこった。

 オレが途方に暮れていても、赤ん坊はそんな様子のオレなどお構いなしに、楽しそうにきゃっきゃと声を出して笑っていた。コイツ…と少し呆れと怒りが込み上げたが、赤ん坊の顔を見てそんな気持ちはすぐに無くなった。よく考えれば赤ん坊には何も罪は無いし、むしろ被害者なワケだからな。

 仕方なしと、オレは修行と並行して赤ん坊の世話をする事になった。後に赤ん坊には『アサガオ』という名前が付いた。名付け親はオレだ。


 こうして、オレはアサガオとの生活が始まった。当然だが、最初の頃はものすごく大変だった。この世の中の親はどんな体力を持っているのかと疑いたくなるくらい、赤ん坊は忙しなく動き回った。這って移動できる様になると、見境なくあちこちに近づき、刃物や火に遠慮無く触ろうとした。本気で焦った。

 後よく引っ掴んで引っ張る。そんな細く小さい腕のどこにそれだけの力があるんだと思った。髪の毛を引っ張るのは勘弁してほしい。

 そして泣いて泣いて泣きまくった。孤児院にいた頃も喧嘩したり転んで泣くヤツはいたが、何もなしに泣かれるのは初めてで、何をすれば良いか混乱し、こっちも泣きそうになった。

 少し経ったら泣く事はなくなった。カナイらが言うに、アサガオは泣く期間が短く珍しい方らしい。ほんの少し大きくなってくると、オレの後をついて回る様になった。そしてオレのマネをする様になった。何が楽しいのやら分からない。

 剣術の稽古をする間はカナイ達が面倒を見ていたが、基本的にオレが近くにいる事を選び、カナイ達に嫉妬の目を向けられた。ワケ分からない。何より、剣を振るっているオレを見つめて、アサガオは何が楽しいのだろうか。


 そんな毎日が続いた。ただ一緒に起きて食事し、むらの仕事を一緒に手伝い、出掛けて一緒に帰って食事し、眠る。ただそれだけを繰り返した。

 本当になんでもない日々だった。退屈とは無縁の忙しなく休みヒマさえない日々だった。だけど何故か、そんな日が続く事にイヤな気持ちは湧かなかった。

 怖くもあった。あの事件が何度も頭に浮かび、目の前に浮かび、悪夢を見る晩が無い日が無かった。それでも、オレは生きていた。

 こんな日を送れるとは夢にも思わなかったから。だからオレは生きていく事が出来たと思う。

 拒絶が無い、怯えられない、疎まれない世界でなら、オレは生きていられた。

 だが、そんな日々はまたオレの前から消える。《


 その日は雨が連日降り続け、陰り暗い日も続いた。そんな時、土地守に緊急の仕事が来た。オオカミの群れが襲ってきたとむらのヒトがヒドく焦った様子でカナイの下へ報せに来た。怪我人も出たと言った。ずぶ濡れのままで息を切らし、急ぎ走ってきたのが分かる。

 運悪く戦闘専門のセヴァティアは不在でオレとカナイとでオオカミの対処をする事になった。アサガオもいつも通り行くと言ってきたが、家に色と言い聞かせ、そのままオレらは外へと飛び出す様にして行った。

 思えば、ちゃんと見ておくべきだった。

 オオカミは、どいつも正気を失っており、群れの統率者が毒に侵され、伝染したのが原因だという事が後に分かった。

 いくらヒトを傷つけた動物であっても、命を奪えば穢れが出る。それは土地守として、守仕としてはあってはならない。なるべく傷を付けぬ様、且つ毒に侵されたという統率のオオカミを倒す事を優先して動いた。

 カナイは統率のオオカミを抑えると言い、オレは逃げた数等のオオカミを追う事になった。森の中を動くのは得意だが、ソレは相手も同じだった。何より動物の身体能力は高く、しかも正気を失っていて、見境が無い。

 もしかして、巨体オオカミの相手に手こずったのは、この時の事を思い出すからだろうか。

 オレが追っていると気が付くと、オオカミ共はオレに牙を向けて襲い掛かった。すばしっこいオオカミを、しかも数体も同時に相手するのは苦戦を強いられた。

 時間が経ち、雨が降って体力の消耗が激しく、オレもだんだんと意識が朦朧もうろうとしてきた。その時、濡れた草に足をとられ、滑って転倒してしまった。その隙を突かれ、オレはオオカミに肩を噛みつかれた。痛みで悲鳴を上げ、更に意識が薄らいだ。瞬間、変な感覚になった。

 オレに魔法を指導した先生曰く、オレは常に魔法の力を微量ながら蓄える体質らしく、妖精の中でも珍しいらしい。だが、魔法の扱いを知らぬままでいた為に、興奮状態に陥ると無意識に身体能力を向上させてしまうのだという。同時に正気を保てなくなり、意識を失うか、見境なくヒトを攻撃してしまうのだとも。オレが昔、泥棒に怒り、遠慮なしに殴りつけたのも、ソレが原因だろうと言った。きっと、オオカミを相手にした時だってそうだ。

 オレが頭をぼんやりとさせ、オオカミを斬りつけていた。斬って倒す事に何も感じなかった。ただ斬る、倒す、ソレだけを考えていた。

 オオカミ全てが動かなくなったのを見ても、まだぼんやりしていた。むしろまだ何かを斬るという事ばかりが頭を占め、他に何も考えられなくなっていたのを覚えている。

 その時、すぐ近くの草むらが揺れたのに気づき、そこにいる『何か』を斬ろうとオレはゆっくり近づき、剣を振り上げた時、カナイの声が響いた。


 バカ止まれ!ソイツは―


 カナイが何かを言い切る前に意識が途切れた。気づくとオレは雨がまだ降る外で倒れており、セヴァティアがオレの顔を覗き込んでいた。その表情にいつものひょうきんさは無かった。

 一体何があったのかを思い出そうと上半身を起こし、周りを見た。オレから離れた場所にカナイがしゃがみ込んで、何かに話し掛けていた。すごく焦った様子だった。そんな様子のカナイが何に話し掛けているのか気になり、視線を動かした。すぐにオレは絶句した。

 そこにはアサガオがいた。アサガオは座り込み、そして泣いていた。頭を自分の手で押さえ、その上をカナイの手が重なって同じように抑えている。

 アサガオの頭が赤くなっていた。血が流れていたからだ。何故血が流れているのか、何故アサガオは怪我をしているのか、徐々に思い出して、オレは頭の中が真っ白になるのを感じた。

 オレだ。オレが斬ったんだ。恐らく言いつけを破り、家を勝手に出てオレの後を追ったのだろうアサガオは、オレを見つけるや否や、様子の可笑しいオレを心配して近づいたんだ。そしてソコをオレは自分で剣を。

 そこまで考え至って、オレは声を出さずに悲鳴を上げた。さっき出した痛みによる悲鳴とは比べ物にならない位大きく、本当に声が出ていたならノドを潰れていただろう程に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ