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永久にトモに_とある異世界譚(改)  作者: humiya。
第1章 アサガオとシュロ
40/150

40話 孤独で思い出す

 一人だ。本当に久々だ。

 いつもはアサガオが後をついて来たし、アサガオだけでなくカナイやむらのヒト達、森の小鬼共とケンカをしたり動物共が群れて襲い掛かってきたり、色んなヤツがオレに近づいて来る。

 魔法学校ではファイパを筆頭に色んな種族の生徒がオレの周りに集まるし、外でも色んな旅のヤツと会ったりクーディら土地守や守仕に会ったり、本当に誰にも会わないという事が無かった。

 ここ数年で、色んなヤツを見てきたが、この土地に来た時から、お人よしが多いと思った。オレがこの土地に来る前とは大きく違った。


 この西の大陸に降り立つ前、オレは東の大陸にいた。詳しくどこで生まれたかというのは覚えていない。物心ついた時からあちこち移り住んだり、歩き回ったりして暮らしてきた。

 暮らす、と言ってもまともに長居した事はほとんどなかった。オレがいたのはどこも貧しく、自分らが暮らしていくのがやっとな状況だったり、経営が立ち行かない孤児院は、オレ以外の孤児が沢山いた。

 そして、オレの生活に一番の影響を与えたのは、オレ自身が『妖精種』である事だ。

 妖精種は生態が人間とは異なるのは当然で、他種族の世話は出来ないと追い出したり、石を投げたり泥をかけたり、中には金に換えようとしたヤツもいた。

 最悪だったのは世話を見るのが面倒だから『処分』しようとしてきたヤツらもいた。寸前で気付いて逃げ出せたが、大体のヤツらからのオレの扱いは、決まってそういうものだった。

 自分らには手が余る、というのは分かっていた。面倒事を嫌ったり、自分らの暮らしを守るためなのも分かっていたが、それでも、こうして無い者扱いをされたり、邪見に扱われていると、どうしても、『自分は要らないもの』だと考えてしまう。

 そんな中でも、長い旅を続けてきて一番長くいた場所はあった。そこも経営が立ち行かない孤児院ではあったが、そこの院長の計らいで、孤児院での仕事を手伝いながら他の子どもたちと同様に暮らす事を許された。多分、オレが初めて会った『お人よし』だったんだろう。

 院長の子どもも、率先してオレの世話を焼いて、ちょっとわずらわしかったけど、キライとは思わなかった。

 院の子どもとも、それなりにやっていたと思う。特にある子ども、いつもヒトの輪から外れて座り込んで、暑い日でも外套を羽織った梔子くちなし色の子。

 その子どもの事がどうしても気になり、何度か話しかけたりした。おかげかあちらから挨拶して来たり、暗くうつむいた表情から変わって、少しだが明るい表情をする様になっていった。

 そんな風に子どもと関わり、いつしか子どもも自然と集まって来る様になり、梔子色の子は相変わらずオレの後をついて来て、他の子どももオレに話し掛けたりして来て大変だったが、そこそこ遣り甲斐があった。


 ある日、孤児院に泥棒が入って来たんだ。その時は子ども達も先生も皆昼寝のために大部屋に集まっていて、その隙をついて院の金を盗もうと敷地内に入り込んだんらしいんだが、そこを偶々眠れなくて部屋を抜け出していた子に見つかったんだ。しかもその子は、オレに懐いていた梔子色の子だった。

 泥棒は口封じのためにその子を刃物で切りつけて脅し始めた。そこを一人いない事に気付いたオレが、探しに部屋を出て見つけた所だった。ちょうど泥棒が刃物を子どもに向けて振り上げた場面だったから、オレは咄嗟とっさに体当たりをしてソイツを突き飛ばし、その子の前に立ち泥棒に立ちはだかった。

 オレにジャマされた事で、短気だったのかソイツは切れて怒鳴りだした。


 どうせここの子どもは皆大人に見捨てられた奴らなんだ!一人いなくなった位で世の中何も変わりはしないさ!


 今までのオレだったら、ソイツの言う事はオレは肯定しただろう。オレが正にその見本だと思っていたワケだし。

 だが、何故かは分からなかった。額に大きな傷を負い顔を抑えて泣きじゃくるその子に言われたと思うと、何も言えなかった。何も言えず、ただ怒りが込み上げてくるのを感じた。そして、オレは無我夢中でその泥棒を殴った。殴って蹴って、ただ何も考えずに泥棒を攻撃し続けた。

 正気に戻ると、泥棒は赤く染まって床に転がっていた。オレはふいに、子どもの方を見た。すると子どもは、怯えた表情で見た。オレの事を怖がって、体を震わせていた。いつの間にか他の子が一人来ていて、その子の前に立ってオレに言った。


 こっちにくるな、あくとう!おれらの家から出てけ!


 言われてオレは、どんな表情をしたか分からなかった。ただ、今度も何も言えず、呆然と立ち尽くしていた。

 泥棒一人が悪党かと思っていたが、そうか、オレも悪党なのか。

 言われて納得し、オレは何もせず、考えないまま、先生が来るまでただ立っていた。


 結果として、泥棒にはまだ息があり、他の家から盗み出した金品を所持していた事からそのまま、まちの憲兵に引き渡された。だが、過剰防衛という事で院の先生と共に憲兵と話をしたが、何を言われて何と返事をしたか覚えていない。

 程なくして、オレは孤児院を立ち去った。何かを院のヤツに言われたからではない、自主的にここに居てはいけないと思い、オレは孤児院の誰とも会わずに出て行っただけだ。ただ、今でもどこからか、あの梔子色の子から怯えられ、他の子どもからののしられている、そんな気がしていた。


 それから、また一人の暮らしが始まった。東の大陸の一画を放浪し続けていたそんな時に、偶々東の大陸に来ていたカナイら土地守に会った。それが二十年ほど前の出来事だ。

 土地守と一緒に大陸を渡る、なんて事をしたのはほとんど人さらいの状態だった。ただ歩き疲れて休んでいた所を見られ、いきなり話しかけられたと思ったら、守仕をしないかと誘われ、そのまま引っ張られる形でカナイらと同行する事になった。

 何故オレが誘われたのかは、今でも分からない。ただ一言、「お前の顔見て決めた」とだけ言われた事しか分かっていない。

 魔法や剣の修行も行い、魔法に関しては土地守らの知り合いが経営している学校で、今までまともに学ぶ機会が無かったオレにとっては貴重な機会を与えられたのは感謝はしている。だが、剣の修行に関しては色々と苦言を呈したい。剣術の師範がセヴァティアだから、今はもう諦めているが。

 とにかく、西の大陸に渡り、守仕として働かされてからも苦労は多かった。でも、一人でいた時と比べて、どこかが痛くなる、なんて事は減ったけど。少なくとも、石を投げられる事も無く、否定も拒絶もするヤツは見なくなった。だが、オレにとってはそれこそ一番の苦行と言えた。誰かが、オレに頼って近寄る事に、どこか恐怖していた。

 ヒトと関わる、それだけが今でも正直苦手だ。期待する目が、信頼しようとする目が見ていられず目を逸らしてきた。そんなめをするヤツの姿が、あの梔子色の子の姿が重なって見えたから。

 だから、必要以上に関わる事はしなかった。言われた事、決められた事をやったらそれっきり、それだけの関係で終えるつもりだった。

 ある日のセヴァティアの無茶な試練とやらをやらされるまでは。


 その日も変わらず、セヴァティアは朝早くから家にやって来て言った。


 ちょっと雪山にいる友人に会って来い!


 今まで降雪地帯へ赴く事は無かったが、まさか初めて訪れる切っ掛けと言うか理由がセヴァティアからのお使いと称した無茶苦茶な試練の一環だとは思わなかった。

 行きは大型の鳥による輸送便を使った、これもまた無茶な移動方法で、半ば落とされる形で降ろされて、そのまま持たされた地図一枚を頼りに目的の場所へと行け、と言われ、どこともしれない雪の降る平地に取り残された。

 セヴァティアの修行も大体こんな感じだ。いつかは危険動物が多数生息する山の中に一人放り出され、一人で下山しろ、という下手しなくて命が危うい事をやらされた。今思い出しても、生きて帰れたのが不思議だと思う。

 そんなワケで、一人で周りが白一色の景色のど真ん中に立たされたオレは、意地の様なもので、無事、と言えるかは定かではないが目的の場所に着いた。

 その目的の場所に住んでいた、セヴァティアらの友人だという人物は、占いを生業としていると聞いたが、こんな何も無い雪の積もる森の中、一人で暮らして占いなどして何の意味があるのか。近くにむらや誰か住む集落があるワケでもないし、不可解な人物だと最初は思った。

 その人物は、占いでオレが来ることを予知していたと言い、オレがここに来させられたのは、オレを占わせるためだと言った。ワケが分からなかった。

 オレは占いが本当かどうかなど、どうでも良かった。知った所で、ヒトが何か変わるとも思えない。大抵の事は思い込みなのだと思っていた。そう言ったが、そんな事も構わず、その人物はオレに占いの結果を言った。


 君はいつか、自分自身を許す時が来る。その時、君はやっと『ひとり』から解放される。と


 そんな言葉は、その時オレは半ば聞き流して、そしてそのままその場を去った。やる事は既にやり終えた。だから長居する理由も無い。何より早くこの寒い土地を離れたい、という気持ちが優先して、占い師が言った言葉も、頭の隅へと追いやられ忘れていった。

 帰る道中、歩く以外にやる事が無いから、色々と余計な事を思い出していた。これから自分はどうなるか。ただ修行に明け暮れ、守仕としても中途半端な気持ちのままで続け、何も残さぬままこの世を去る。

 昔の事も思い出した。まちの中をただ歩くだけで石をぶつけられ、冷ややかな目で見られ、異種族だからと罵られるそんな当たり前のオレの日常。

 今はそんな日常は無くなったが、本当にそうか?何かが切っ掛けでまた『あの日』の様に怖がられ、出て行けと罵倒される、そんな事がまた起こるのではないか?そう考えてオレは帰路に着いた。


 何も変わらない。変わるとすれば、それはオレの近くにいるヒトだけ。むしろソレがオレにとっての当たり前だ。今更期待したって意味が無い。ヒトと親しくしても、逆にツラいだけ。そんなものだ。仕方ない。

 そしてオレは、そんな考えを巡らせている最中に、『出会った』。


 思考と一度止めた。気づくと山の中、岩壁の間に出来た道を歩いていたハズが、周りの景色は山とも岩壁とも言えない風景に変わっていた。

 見ればソレは植物の太い茎か枝だ。ソレが隙間なく密集して伸び、まるで壁を作る様で気味の悪さを感じた。まるで、一切外を見せない、外には出さないという意思を感じ取れる。

 色だって、植物と見て思ったが瑞々しい緑や樹木の茶色というものではない。どこか毒を連想させる濃く青々とした緑色。さっき対峙した木と同様の黒色。とても自然界で自然発生したものの色とは思えない。

 コレは、カナイ達が言っていた『存在』に近づいた事で見える、結界の中という事だろうか。それとも、もう既にオレは『存在』の中にでも入ったのだろうか。境目が明白ではないこの空間では、その事を確かめる術は無い。何より、もう戻る道は無いという事だ。

 いや、道は振り返ればある。多分、来た道を戻れば簡単にカナイ達が待つ瞑想の場に戻れるだろう。だが、今更戻っても意味は無い。

 行って何もせず帰ったらカッコ悪い、とかでは無い。ただ、本当に意味が無い、というだけだ。どうせオレは、元から早々に遠くへと去るつもりでいた。

 何かをしてしまう前に、もう二度と傷つけないために、オレは何かを為したら自ら命を絶つか、この土地を離れるとここに来る前から決めていた。

 いつか会い、モグラの獣人に言った言葉。毎日命を掛ける必要は無い。そもそも命は一つなのだから当然だ。命を掛けるのは人生で一度、正しく命が尽きるだろうその瞬間だけ。その時だけで十分だ。

 そして、オレにとっては今はその時だ。

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